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デスティネーション・ユニバース  作者: 小田崎コウ
第五章
24/30

第二十四話

新章の始まりです。

やや盛り上がりに欠けますが、

消化しておかないといけない部分なので、

おつきあいください。

 ホルクスの町の東にある噴水の回りには、大勢の冒険者たちが集まって、パーティー同士で会話をしていた。


「ふぇー。ここいらの冒険者は、ほとんど集まっちゃったんじゃないのぉ? ほかの地域は大丈夫なのかねぇ?」

 噴水のわきに腰をかけて、たった一人でサンドイッチをパクつきながら、壮絶な独り言を口にしている女性の姿が目に入った。

 年のころはオレと大差なさそうだ。左と右の腰に長さの違うさやを身につけている事から戦士か軽戦士か、ごく少数ではあるが斥候スカウトや、剣闘士。レアな職業なら伝説の忍者とかがあるけれど、あとの方で言った職業ほど、個人としての技量が物を言うらしい。

「ねぇ……。あんたもぼっち? 良かったら座んなよ……」

 オレのいぶかしげな視線に気づいたのか、女性は気さくに自分の隣に座るように、ジェスチャーをしていた。

「えぇ。最初の三か月からあとはパーティーに所属せずに、各地で治療師みたいな事をしていましたからね。請われれば一時的にパーティーに参加する事もありますけど」

「へぇ……まぁ、金属鎧も着られない職業で、最前線で戦うのは危険だからね。神官戦士にしておけば、もっと需要があったのに」

「ですけど、うっかり骨折したり病気にかかった時に、現地の消毒もされてない器具で治療されたいですか?」

「うわ……。さすがにそれは勘弁して欲しいけどねぇ」

「出張費もかねて、そこそこ報酬はいただいているので、すみかの近くの現地民を無料で治療する事によって、スキルの熟練度を上げているんですよ」

「へぇ。剣とかならともかく、治療魔法で熟練度が上がるんだぁ。じゃあ神官じゃなくてレア職?」

「そうですね。いまはもう除外されていると聞きますね。なにせ、攻撃をする手段というものを、ほぼ持っていませんから」

「うっわぁ……。それはまた、いばらの道を選んだもんだねぇ……国境なき医師団でも気取ってるの?」

 うわ、やっぱこの女性はイラっとするな。これ以上、演技を続けるのはストレスがかかるけど、身分を偽っている身だから、我慢しなきゃなぁ……。



 そもそもなんでオレが治療師のフリをして、このホルクスの町に潜り込むのか。

 アインツヴァル城に戻って、エディウスさんがすでに一週間以上前にアルミラさんのところを出て行った事を告げたんだけど、許可なく離脱するとは普通の事ではないって姫様がいうもんで、オレは水上バイクのように運用し始めた船で、アルミラさんのところに半日で到着し、事情を話してエルネストさん夫妻ともども、水の部族へと一時避難してもらう事にしたのだ。

 姫様の受け入れの準備も進んでおり、変事があればすぐさま逃げ込めるように手はずは整っている。

 まぁ、水路ではなく陸路でアインツヴァルまで戻るには早くて十日ほどかかるので、杞憂きゆうであったら良かったんだけど。

 さらに三日待っても五日待ってもエディウスさんが現れないので、オレは水路を使ってアデナに急行し、在アデナなんちゃら事務所にこれまでの事情を説明し、報酬を受け取るとともに、身分を偽装するための魔法の腕輪を用意してもらったのだ。

 疑われないためには、アインツヴァル方面からではなく、ホルクス方面から入国しようと思ったのだが、山口さんが言うには、現在特殊な毒針を持つ、奇妙な魔物がホルクスの川向こうの平原で大量発生していて、駆除のために冒険者を集めているから、潜り込みやすいというのと、オルテナの強硬派が持っていた食糧は、ホルクスから横流しされた疑いがあるので、調査の依頼を引き受けてしまったのだ。その上にエディウスさんの調査をしようって言うんだから、忙しい事この上ない。


「わたくしはシモンと申します。お見知りおきください。任務外でのヒールは一回銀貨二百枚。状態異常の治療は銀貨三百枚。病気やけがの治療は、銀貨五百枚から一千枚となっています。任務中は、ペース配分の事もありますので、わたくしが症状や状況を見て、魔法を使うか決定させてもらっています」

 これぐらい銭ゲバにしておけば、逆にリアリティが出るんだよね。

「うわ……なんか、プロフェッショナルだねぇ。あたしはレンカ。見ての通りの二刀流の剣闘士よ」

 オレは冷静沈着で、少し冷めたところのある人間を装った。


「って、ソロなのは、わたしたちだけって事? どっかの人数少ないところに放り込まれるのぉ?」

 既定の時刻となり、ホルクスの市長が現れてあいさつをしたあと、担当者によりパーティーの組み合わせの検討が行われた。

 いろいろと騒がしい、レンカと名乗った女性を利用して、オレはできるだけ印象に残らないようにしないと、オルテナ支配権では、事実上の賞金首だからね。



「ほう……。シモンさんは解毒も可能なんですね? 戦闘能力はなしと……そうですね。治療した人数に応じてボーナスを付けますので、護衛を一人つけて本隊に同行してもらいましょうか。

「あたし、ぼっちだよ? 剣闘士だし、この人の護衛ぐらいなら、任せてよ」

 オレとレンカは自己申告を済ませて、腕輪で形式通りのチェックをしてから、本隊と言われていた集団まで連れて行かれた。


「なるほど。それは心強い。うちの魔術師の後ろにでも隠れていてください。わたしは、ホルクスの冒険者ギルドの実動部隊の指揮を執っているオルカだ。よろしくな」

「じゃ、あたしはこの人の護衛が主任務だし、後方の警戒とかなら、自信があるけど。見ての通りの軽装だし、斥候もできなくはないんだけど?」

「そうだな……。うちの副長付きにするから、よろしく頼む。では、順番に虫よけの煙を身にまとう事になっている。うちは最後だな」

 オルカさんは落ち着いた表情で指示を下していて、その自信の裏には、仲間を率いて相当の激戦をくぐり抜けて来たらしい重みが感じられた。


「ねぇ、のどが渇いたんだけど、それ……変わった水筒だよねぇ。飲ませてくんない?」

「絶対にだめですよ。この中にはわたくしがてなづけた、水の精霊が入っているんですから」

 まぁ、水流操作などの魔法を使うための偽装工作なんだけどね。

「わたしたちの番だな。気休めにしかすぎんが、これまで発生した事がない魔物だから、じゅうぶんに注意して欲しい。なお、口で吸い出したりするのは逆に危険で、すぐに吸収してしまうそうだ」

「でしょうね。腕とか足なら、ヒモで血流をにぶらせてから、わたしのところまで運んでください。早ければ状態異常回復の魔法で治せますが、悪化すると治療魔法のお世話になる事になりますが、魔力の消費が激しいですし、人員に余裕があるのなら、状態異常回復で一定の治療をした後に後送こうそうする事をお勧めします」

 別にレクチャーを受けているわけでなし、常識の範囲内の事を、自信ありげに言っておけばいいんだよね。

「わたしは神官ではなくて、現在は除外されている、魔術師の一種ですので、緊急時には魔力を提供する事も可能ですので、声をかけてください」

 まぁ実際、すべての職業を知っている人とかいないし、そういう魔法が使えるのなら、怪しむわけはないんだよね。

 それに、膨大な魔力は魔術師が見たらバレてしまうと、山口さんの薦めで偽装してもらったんだよね。

「右と左を担当するパーティーに、状態回復治療ができる者が一人づつで、治療魔法の使い手は前線に彼しかいない以上、生命線だと思って、レンカ殿以外の人も気を配ってください。では、以上――」

 そういって、オルカ氏は移動を開始させた。まぁ、恩を売っておけば、情報を聞き出すのにも便利だよね。



「彼は重症ですね。状態回復はかけましたから、後送願います」

 オレは戦場の後方にて、にわかERを開業していた。すでに状態回復は十二人に、治療魔法も二人にかけており、戦闘能力を皆無にする事で、魔力と治療能力に特化させたといういいわけも苦しいレベルになって来たんだけど。

「ところでレンカさんにひとつお願いがあるのですが……」

「へ? あたしに? どんな事なんだろ……言ってみて?」

「普通の剣でも、刀身に塗っておく事で、いざという時に火をつけると、フレイムタンほどではありませんが、炎の剣にする油があるんですよ。高価なものですので、よほどの危機以外には使って欲しくないのですが、わたくしの命が危ない時には使ってください」

 オレはそう言って、普通の油に粘着性を高めて独特のにおいを発するように、適当な雑草をつけ込んだ物を手渡した。火をつける時にフレイムソードを発動させれば、昆虫系の魔物にはよく効くはずなんだよね。

「へー……。すがすがしい程に、身の安全が第一なんだね」

「奥深くまで進み、わたしがやられたら、部隊はどうなります? 合理的なものの考え方をしているだけですよ」

「まぁ、そういう人がいなけりゃいないで困るよね。いいよ」

 そう言って、レンカは小さい容器を懐にしまった。


「くっ……。左翼の隊は突出しすぎだ。これでは、本隊に魔物が回り込んで来てしまうぞ……うわぁ~」

 飛行状態で、剣が届くような状況ではないので、オレは瓶の口を開けて、水流操作を無詠唱で使って水の膜を前方に展開する事で、いくばくかの時間を稼ぐ事ができた。

「水の精霊ってすごー。って、水減ってないじゃん!」

「わずかでも残っていれば、すぐに空気中から取り入れるのですよ。なんにせよ、無事で何よりです」

 水流操作というよりも、うっかり水流を生み出していたみたいなんだけど……まぁいいか。

 便利に使っている拡声の魔法にしても、その実スピーカーの魔法のような使い方を必要に駆られて自然と使ってたんだよね。


「いまのはシモン氏が? いや、助かりました」

「水の精霊に魔力を与える事で、先ほどのような事ができるのですが、さすがに魔力が心もとないですな。撤退を進言しますよ」

 すでに脱落者は全体の二割に達しており、これ以上の無策な行動は無意味だと判断した。

「このままではけが人が増えるばかりですし、本部に申請はしているのですが、許可がおりないのですよ」


「では仕方がないですね。冒険者を大量に消耗させた上で、治安低下を憂いた市長が、オルテナに兵の派遣などを依頼するような裏があるのなら、もう帰らせてもらいますよ」

「まさか……いくらなんでも……」

 けど、それぐらいの事はしても不思議がないって顔だね。という事は、アデナ帰属派だね。この隊長。

「冒険者の生存権を脅かされるような行為……。在アデナ救済高等弁務官事務所に報告させていただきますよ。最近作られた委員会に所属していますからね。委員には当然、アデナ王国の高官もいますしね……」

 オレは荷物をまとめて帰る準備を始めた。ホルクスの明確な裏切りとなれば、今後どのような処置が取られる事か。ウソだけどね。


「あなたはあくまで中立の医師団のようなものですよね……」

「ええ。ですが、都合の悪い物を見て消されてしまうような事だけは、何があっても避けねばいけませんからな」

「どうすれば……それを回避できるというのでしょうか……」

「資料をごまかして、オルテナの軍閥に食糧を横流ししているといううわさを聞いています。その資料を手に入れてくだされば、市長一人の責任になるでしょうな」

「そうですか……。二日でいいのでホルクスに滞在してもらえないものでしょうか?」

「ほう……ですが、あなたがみすみす捕らえられて殺されるのを、見殺したくはないですな」

「わたしは……市長の娘婿なのです……」

 うっひょー! マジっスか? なんという好都合。

「そういう事ですか。いいでしょう……。ワルゲンの村の教会で、二日間だけお待ちしますよ。魔力が尽きたと報告してください」

 そう言って、オレは後送される冒険者に付き添って、ホルクスの町へと帰還した。

「そういえば、あいつのアレ……回収するのを忘れてたが、もう会う事もないだろうな」

 報酬をもらい、オレはワルゲンの村へと歩いていった。



「これです……。すぐに発覚する事でしょう……」

「奥さんを連れてアデナに逃げる事ですな。情報が統制されているが、あの魔物が街に迫っているとでも言ってね」

 オレは資料を確認してから、封筒を懐に入れた。

「そうですね……。そうする事にします。よろしくお願いします」

 そう言って、何度も頭を下げながら、オルカ氏は帰っていった。



「おい。いるのは分かっているんだから、出て来いよ。時間の無駄だろう?」

「あれ? お医者さんに気取られるような隠密スキルじゃないんだけどなぁ……へへ」

 建物の影から、レンカが頭をかきながら出て来た。

「お医者さんこそ、あの油……不純物が多いだけの菜種油だよね」

「ほう。鑑定までできるのか? 最近の密偵は教育水準が高いな」

「いやいや、あれは子どもだましだったじゃない」

「これが必要なんだろ?」

 オレは懐から先ほどの資料の封筒を取り出して、ぺらぺらと振った。

「えぇと、バレた理由が一個も見つからないんだけど……」

「おまえさんの左手……。通常のショートソードを使うんじゃ、あんな傷はできない。恐らくは左手のはソードブレイカーだろう。そんな物を空飛ぶ魔物退治に持って来るとかありえるか? 対人に特化しているのは初見で分かったぞ?」

「お医者さんじゃないのは、魔力量の異常さで分かったけど、何者なの? どうしてこれを渡してくれるの?」

「目的は一緒だろ? ホルクスのオルテナ臣従派が弱体化しアデナ帰属派が力を増し、市長が帰属派になれば、もうこれまでのような物資の横流しや、アデナ占領のための前進基地としては使えないだろう? なら、オルテナの南進は容易じゃなくなるからな」

 正直言ってオレのガラじゃないけど、みんなを守るためには、便利な物はなんでも使わないとね。

「ボクの目的はそれで相違ないけど……って、異常なまでの魔力って、まさか……」

「まぁ、ご想像にお任せするけど、無論タダってわけにいかないのは、言うまでもないよな?」

「何をしろっていうのさ……」

「第一に、オルテナ国内の密偵網に、エディウスという騎士についての情報を調べさせて欲しい」

「まぁ、できない事はないね。少し時間はもらうけど。第二ってなに?」

「これから、あの魔物を根こそぎ焼き払うから、護衛を頼む。資料は、教会の屋根の上にいるやつにでも頼めばいいだろう」

「うわ……マジ? あんただけは敵に回したくないけど、タネを教えてくんないかな?」

「密偵一人で接触とかありえないし、おまえが裏切らないとも限らないから、いるという前提で調べただけだよ」

 具体的にはいくら腕利きの密偵でも、音を完全に出さないってのは無理だから拡声の魔法を使ったんだけどね。

「わかった。そういう事ならお供するよ……」

「オレとしても、アデナにお花畑じゃない人間がいるのは、安心できるしな。あの国王じゃないとしたら、会った事はないが……まぁいいか」

「そうそう。知らない方が幸せって事もあるよね」

 一時間ほどで魔物を掃討して、すべての任務が完了した。



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