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デスティネーション・ユニバース  作者: 小田崎コウ
第一章
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第二話

一時間おきに第一部相当分(5話まで)を追加していく事にします。


「よう。こっちだこっちだ!」

 精油を額や手のひらなどに塗り、霊的な守護を得るための儀式のあと、オレは戦士の格好をした男から呼びかけられた。

「オレは聖堂騎士のアルケインだ。馬は飼っちゃいないけどな」

 聖堂騎士とは、いわゆるパラディンのようなもので、回復魔術が使える騎士のような存在だ。

「オレは、元素魔術師のストレインです。よろしく!」

 オレは自己紹介をして、気さくに右手を突き出した。

「元素魔術師だぁ? おまえ、なに考えてるんだよ! ここは遊び場じゃねぇんだぞ?」

 アルケインさんは一変して、聖堂騎士とは思えない口ぶりでオレをののしり始めた。

「魔導師になる予定だったんですが、能力の割り振りを間違えまして……」

 どうやらセオリー外の事をしてしまったようなので、オレはあわてて頭を下げた。

「バッかやろ……それにしたって、魔術師ぐらいは選べただろうよ! なんでまた、使えない元素魔術師なんかにしたんだよ!」

「いや、基本職よりは上位職だと思っていたので……そんなに、使えない職業なんですか?」

「説明を受けただろうが! 使えない能力やスキル……そして、職業があるってよ!」

 その言葉に、オレは頭をハンマーで殴られたかのような衝撃を受けた。

「あ……元素魔術師も除外対象でしたっけ……」

「そうだよ! 元素魔術師を選んだやつは、数少ない共通魔法しか使えないせいで、あっという間に淘汰とうたされちまったよ。人の話はちゃんと聞けや!」

「え? じゃあ、この……魔法の光と魔力転送しか使えないわけですか?」

 魔力転送とはいっても、神官や神殿騎士が使うMPは精神力なので、魔術師相手にしか使えないわけで……。

「そうだよ……で、武器のスキルは何を選んだんだ? 杖戦闘か? それともスリングか?」

「その……火力と最大魔力と、魔力の回復速度に特化しているので、武器スキルは一切取ってないんです……」

「バカか、てめーは……本当に救いようがないヤツだな。こっちの世界にライターはないが、マッチの生産はすでに成功してるんだよ。うちにはほかに魔術師なんかいねーから、魔力だけあったって意味がねーだろ」

 そういえば、最初の三か月は強制でパーティーに組み込まれるとか言ってたな……。

「なぁ……頼むから死んでくれや……これ以上の増員は認められないんだからよ……」

 死ねとまで言われて、オレは腹の底から怒りがふつふつと、わき上がって来るのを感じた。

「まだ、何もできないと決まったわけじゃないでしょう!」

 スキルに頼らない行動なら、できるはずだと信じて、オレは問いかけた。

「なら、何ができるってんだ? 能力値……特に筋力はどうなってるんだ?」

「九ですけど……」

「そりゃぁ、マイナス補正にならない最低値だろうが! 敏捷力や体力はどうなってるんだ? えぇっ?」

「その……火力特化タイプなので……」

「たしかに、スキルにない行動だってできるが、能力値による補正がないとどうにもなんねーぞ。おまえが剣を握ったところで、一撃食らえば終わりだろうが」

「そうかもしれません……」

「じゃあなにか? この村で冒険者以外の仕事をするか? なにか、手に職でも持ってるのか?」

「大学一年生でしたから……特に何も……」

「おまえほど使えないヤツを見た事ないわ……。マジで、そこのがけから飛び降りてくれねーかな……」

 聖堂騎士のアルケイン氏は、ブラック企業の社畜かDQNなラーメン店の店主のような口ぶりで、オレをののしり続けた。

「あのな……おまえ一人をこっちに転送するのに、ざっと二千五百万円かかってるわけだぞ? おまえ、払えるのか?」

 大量の電力を使ってゲートを作りだすとか言っていたけど、まさかそんな額とは聞かされておらず、オレはぼうぜんとしてしまっていた。


「遅いと思ったら、何をもめているんですか? リーダー」

 後方から、誰かが近づいているのに気づいて振り向くと、弓を背負った男の人と、神官服を着た女性と、両手剣を手にした男性と、丸盾とシミターを手にした軽装の男性が歩いて来ていた。

「こいつが、例の新入りなんだが……聞いて驚くなよ? なんと、元素魔術師様のストレインって野郎だ!」

「元素……って、それありえないでしょう。チャレンジャーにも、程があるっていうか……単独行動ならまだしも、パーティーを組むボクたちに無用なリスクを抱え込む事になりますよね」

 弓を背負い、笑みを浮かべていた男性は深刻そうな表情でオレを見つめて言った。

「説明を聞いていなかったんでしょうかね? 報告をしたら、説明をした係員は首になるかもしれませんね……」

 一見優しそうな女性に見えた神官服の女性は、笑顔を浮かべて厳しい現実を口にした。

「そうだな……二千五百万を無駄にしたとなれば、無理もないな」

 両手持ちの剣を手にしている男性も、笑みひとつ浮かべずに口を開いた。

「まぁ、あれですな……どんな事にも『事故』はつきものですからなぁ……」

 軽装の男性は背筋が凍るような言葉を口にした。

「えぇと……オレを含めても五人だけ……ですか?」

 VRMMOでは六人でひとつのパーティーを構成するのが効率的とされていて、この世界でもそれが踏襲されているはずなんだけども……。

「戦士がもう一人いるんだが、がけから足を滑らせてな……傷口は魔法でふさげたんだが、骨折を治せる術者が近くにいなくてな」

 両手持ちの剣を手にした男性は、遠い目を浮かべて言った。

「足首の粉砕骨折で一年以上復帰できないだなんて……。死んでしまった方がマシですわよね」

「継続が不可能だと判断されたら、生命維持装置のスイッチを切られる可能性もありますからな……」

 神官服の女性と軽装の男性は、ここにいないという戦士の事を、あしざまにののしっていた。

「遊びじゃないって事が理解できたか? ここで功績を上げない事には、元の世界には戻れないんだからな……。下働きでもなんでもしてレベルを上げて、共通魔法をひとつでも多く覚えるんだな」

 そう言い捨てて、アルケイン氏が背を向けて歩き出し、四人の仲間もあとに続いた。

 オレは……少しためらってから、彼らのあとをついていった。



 それからの三か月の事は、あまり思い出したくはない……。下働きというよりは奴隷のようにこきつかわれて、時には神官の盾になる事すら強要されたのだ。

 食事も同じ物が与えられるわけもなく、報酬の分け前も既定の半分以下だったが、文句は言えなかった。

 寝ている間に殺される可能性におびえた日もあったが、オレはなんとか生き抜く事ができた。

 いつかやつらを見返してやろうという執念だけが、オレを突き動かしていたのだ。

 経験値だけは分配に差をつけるわけにもいかなかったので、彼らとの別れの日には、レベルが五に達していた。

 元素魔術の魔法では、火球を覚えるに至ったが、この世界では使用できない。共通魔法をいくつか覚える事ができたのだが、戦闘力は最低レベルだった。


「ふん……まさか、ここまで生き残るとはな。だが、これ以上の面倒は見たくないから、ここまでとさせてもらうぜ……」

「ありがとう……ございました」

 短気を起こしてがけから突き落とされなかった点だけは感謝すべきだろう……。

「これは餞別せんべつだ……ないよりはマシだろうよ」

 聖堂騎士のアルケインは、魔法の短剣を足元に突き刺して、オレに背を向けた。


「さて……これからどうするかだな」

 オレは魔法の短剣を懐に収めて、今後の事について思考を巡らせていった。


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