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デスティネーション・ユニバース  作者: 小田崎コウ
第四章
19/30

第十九話

デステス(略称)は、一つの区切りを超えて、

新たな物語が始まる第四章に達しました。

水の精霊使い編の始まりです。


略称を考えて下さった方には感謝しています。

「うぅむ……こんなにギリギリになるなんて、お兄さんの婚礼に間に合うといいんだけどなぁ……」

 オルテナ内での工作に要した時間。戦争を止めるのに要した時間。そして本調子になるまで休養した時間で、すでに三か月が近づいてしまっていたのだ。

「うぇっぷ……気持ぢわるい……」

 アインツヴァル子爵領から、船に乗って川を下れば、アルミラさんの住むところまで、二日ぐらいだとの言葉なので、お言葉に甘えたんだけど、半日乗ってもまだ慣れないんだよね。

「まぁ、川をさかのぼるのよりは、楽だと思うんだけどね」

 小舟と言ってもいい大きさで、川の中の岩をよけたり、川岸から張り出した木の枝をよけるので、結構神経を使うんだよね。

「これだけ水の流れが速いと、水運業としては使えないよね。もっと支流を増やすなり、灌漑かんがい工事で水路を張り巡らせるとか……。って米じゃなくて麦だしなぁ」

 まぁ、あの国王では無理だし、代替わりしたとしても、そもそも国民の数があまり多くないんだよね。潜在的なポテンシャルはあると思うんだけど……。ってオレが考えても仕方ない事だけどね。




「ふぅ……。ようやく落ち着いて来た。水流で自分の思い通りの動きにならないから酔ってたんだなぁ」

 太陽が西の森の向こうに沈みかけていて、なんとも幻想的なまでの景色を見ながら、オレはひとりごちた。

「そういえば、アルゴラさんが、水の精霊使いを紹介してくれるって言っていたよなぁ……どんな人かなぁ」

 オレの脳裏には前世紀のアニメの登場人物の、髪が青い美少女が一瞬浮かんで消えた。




「さて……そろそろ日も暮れかけているし、どこで野営するべきかなぁ……」

 いくら岸とロープでつないだとしても、揺れる船の中なんて論外だよな。高速バス以上にうなされて、悪い夢を見てげっそりするに決まっている。

「寝ている間に魔物に近寄られたら、一発でアウトなんだよね。単独行動は無謀だったかなぁ」

 不意さえ打たれなければ、普通の魔物が四・五体現れても、なんとかなるけど、無防備な時ってあるからなぁ。

「むぅぅ……」

 今朝別れたばかりだというのに、サモンさんの下品な笑い声が、早くも懐かしい。

 最初に会った時から、気さくな人ではあったけど、エディウス殿が戻るまで姫を守るだなんて、おとこ気があるよな。



「おっ……あそこはどうかな」

 良さそうな上陸地点を探していると、川の中州のようなところを発見し、こぎ寄せていった。

「うん。ここなら、魔物が川を泳いで来たとしても、音で分かるよなぁ。

 松のような外見の大木に、もやい綱を巻き付けて、オレは荷物を手に上陸した。

「んじゃ、明るいうちに、たき火の準備と。松っぽいと思ったら、松ぼっくりまであったぞ。これよく燃えるんだよね」

 オレは、松の枝などを魔法の短剣で刈り取って、中州の中央の砂が堆積たいせきしているあたりに積み上げた。

「うーん……ファイヤーアローじゃなくても、着火ぐらいサクっといけるんじゃないかなぁ……」

 オレは指先からチャ○カマンのような炎が出るのをイメージして、松ぼっくりに指を近づけた。

「おっ! いけるじゃないか!」

 イメージ通りに指の少し先から火が生じ、松ぼっくりを焦がし、数分後にはそこそこの火力に達していた。



「うん。火を通せばそれなりにはいけるな」

 姫が手配してくれた袋には干し肉が入っており、たき火であぶって食べて、夕食を済ませた。



「さてと……ハンモックでもあればいいんだけどねぇ……。ここらでいいか」

 オレはたき火の近くの草が生えているところで、毛布にくるまって横になった。

「ふわぁ……ずっと気を張っていたからか、つかれているみたいだなぁ……」


「しかし……姫もいつまでもあの城にはいられないんだろうな……本格的に出奔するのなら、場所を構えてあげないと」

 いまのところは、母違いとはいえ、実の妹を暗殺しようとした事もあり、王子は謹慎中なので、干渉してないそうだけど、あそこにとどまったのもオレの調子が良くなかったからなんだよね。


「さすがに、ムチャしすぎたか……あんなにリハビリに時間がかかるとは、思わなかったなぁ……」

 車のガソリンが切れかけで運転したあと、エンジンをかけようとするとバッテリーが上がってる事があるけど、あんな感じ。

 安全に魔法を使うためのマージンのような物を使い切ったというか、一度に多くの魔力を使いすぎたとか、魔法を使うための演算で知恵熱をおこしたとか、気が頭に上がりすぎてしまって、気功偏差をおこしたような感じっても、分かる人は少ないか。

「いまだに耳鳴りがするんだよねぇ……」

 まぁ、そこらはアルミラさんが治す方法を知っているかもしれないと期待しているんだけど。

「アルミラさんかぁ……」

 手を出せない相手が無防備でウロついていた事もあり、オレのストレスは若干たまっており、包容力のあるアルミラさんに、すべてをゆだねたいんだよね。

「姫のあれは表向きの姿で、実際はけっこうユルいというか、ダラけたところもあって……まぁ、オンオフの差が激しいって事なんだろうな」

 常にあのテンションであの口調で会話しないといけないんじゃ、オレが一か月も持たなかったと思う。

 まぁ……内実を知った事で評価が下がったワケでも幻滅したワケでもないし、それだけ親しくなったという事なのかもな。


「ふわぁ……。体は疲れているし眠気もあるのに、あまり眠れないもんだなぁ」

 水面を吹き渡る風が木の葉を揺らし、遠くで動物の鳴き声がして、上を向いたら満天の夜空で……。テクノストレスにさらされてる人は、こっちに来るべきだよな。費用かかりすぎるけど……。

「おっ……そうだ」

 中州の北側は近くに獣道があるみたいだったし、最低限の警戒として、拡声の魔法を長時間運用するようにイメージしながら、発動させた。

「これでよしと……。魔法って結構融通が利くよね」

 その認識を持っていたからこそ、柔軟に考える事ができたんじゃないかな。ゲームの知識でしか魔法を知らない人とは違い、現実世界でも気功や仙術のような術を使おうとしていた厨二病で、あと一歩でメンヘラコースだった人間にしか、分からない事なのかも。

 かめは○波を出す練習を毎日している人がこっちに来たら、案外……。


 オレはうとうととしながら、とりとめのない事を考えていた。



「ん? なんだぁ……」

 弓が鳴るような音と、剣と剣がぶつかるような音が、拡声の魔法をかけている方向から発せられて、オレは目を覚ました。


「ラモス! おまえは、姉様を連れて西へ逃げろ! マイクとミストは、遅滞戦術でわたしが術を練る時間を稼げ!」

「クキィ! アレヴァ……グルィト……」


「なんだなんだ? 誰かが魔物と戦っているのか?」

 オレは毛布を足元に投げ捨てて立ち上がり、船のもやいを解きながら、状況を把握するとともに、事態の推移を見守っていた。

「よしって……うーん……川上に向かうよりは……」

 オレは川下に船を向かわせて、北岸に近づけていった。



「間に合うといいんだが!」

 勢いがつきすぎていたのか、船は砂浜に乗り上げてしまう。

「まずは、敵を確認しないとな」

 オレはまず、西に逃げたという、お姉さんの方を保護する事にした。



「助けが必要なら、加勢するぞ!」

 こんなところを移動しているのだから、おそらく少数部族だと判断したオレは、お兄さんから預かった小刀を取り出して、逃げている人に叫んだ。


「何者だ……その小刀は……」

 拡声の魔法が持続していたせいもあり、ラモスとか呼ばれていた若い男の戦士は足を止めて振り向いた。

「オレは、ここの川下のアルミラさんたちと縁がある者だ! 魔法を使えるから援護したい!」

「その小刀はエルネスト殿の! 水の精霊よ……我らを見守る祖霊よ……心より感謝致します」

 もしかして、この女性がお兄さんの婚約者? うわ、だとしたら、奇跡……でもないか。通り道が重なっただけでしょ。

「あなたが、嫁いで来られるという婚約者さんでしたか。オレは、アルミラさんとその……付き合っていて、家族扱いしてもらっているんです」

 義理の兄の奥さんって事になるのかもしれないので、オレは事情を説明しておく事にした。

「いずれにせよ、心より感謝します……」

 美人という感じでもないけど、育ちがよくて主張はあまり強くなくて、お兄さんとは相性もよさそうだ。


「魔物はどのような種類ですか?」

 オレは頭を切り替えて、ラモスと呼ばれていた戦士に声をかけた。

「リザードマンです! 大量に増殖したかと思えば、群れをなして、襲撃をしかけて来たのです!」

 なるほど。それなら炎の魔法が通じないって事はないな。


「わかりました。では、お二人はここで待機していてください!」

 オレは小刀を首から下げたまま、東の方に向かった。


「ミゲラ……オルトゥ……スンダァル!」

「くっ……。倒しても倒しても、次から次へと……」

「このままでは、十分も持ちませぬ! 時間を稼ぎますので、どうか、お逃げください!」

 まだ視認してはないけど、実況してくれるから把握しやすい。この使い方は超便利だな。



「味方三人か……巻き込まないようにしないとな……」

 オレはちょっと高くなっている場所に陣取って、状態を把握していった。

「そうだ……リザードマン語もいけたよな」


「ヅゥギャールヴ! ミラァグ!(回り込んで、包み殺せ!)」

 うわ、このリザードマンたちも、あのゴブリンやオークと同等以上だ。

「挟撃されたら一発で終わるよな……では、まず……ファイヤーボール!」

 四・五体のリザードマンが、回り込もうとしていたので、その中央に高速で飛翔させたファイヤーボールをさく裂させた。


「ミゲラァッ! ホンニィ!(そんな、ばかな!)」

 オルテナの兵相手に殺しちゃいけないストレスがたまったせいもあって、ファイヤーボールは最適な位置とタイミングでさく裂し、リザードマンを戦闘不能か死に追いやった。


「いったい何事が起こっているのですか!?」

「後ろで援護をしている! 味方だから攻撃しないでくれよ!」

 オレは、術者らしい女性に後ろから声をかけた。

「姉は無事なのですね?」

「無事だ! 二人の戦士も下がらせてくれ! 誤爆してしまいそうで、援護しづらい!」

「マイク! ミスト! 下がって姉様を守りなさい!」

「わ、わかりました!」

 遅滞戦術を取っていた二人の戦士も、事態の変化に気づいていたので、素直に後方に下がってくれたんだけど……。

「おい、あんた! 邪魔だからとっとと逃げてくれ!」

「いえ、わたしはこの戦いを最後まで見届ける義務があります!」

 木に隠れていて顔や姿は分からないけど、気が強そうな女性だな。


「じゃあ、この岩の下にでもへばりついてくれ……おっと、来たぞ……ファイヤーアロー!」

 戦士二人が抜けた事もあり、リザードマンが前進をし始めたので、オレは火の矢を放って、見えている敵に命中させていった。

「フォロゲッチャ! ミイランド!(敵はいったいどこにいる)」


「むぅ……木が邪魔で敵を視認しづらいな……まぁ、いいか。ファイヤーボール!」

 面倒なので、じゅうたん爆撃する事にして、オレは四発のファイヤーボールをいっぺんに顕現させて、リザードマンたちがいる場所にたたきつけた。


「マルヌァー!(ぐわぁー)」

 声も出せずに絶命したリザードマンがほとんどで、先ほどまでの騒がしさは薄れていった。

「まだいるかな? いても、あきらめてくれよ……ファイヤーアロー!」

 オレは念のために、三十本の火の矢を顕現させて、まるでMLRS|(多連装ロケットシステム)のように運用して、手当たり次第に火の矢を降らした。


「うん……撤退したか、全滅したみたいだな」

 ぴたりと音がやみ、オレは満足して岩場からおりていった。


「ふぅ……見ての通り、もうだいじょう……ブゥッ!」

 オレは、近づいて来た術者らしい女性に、思いっきりほおを打たれてしまい、転倒してしまった。

「なっ! 何をするんですかぁっ……」

 オレは涙目になりながら起き上がって、抗議したんだけど。

「あなたはいったい、何を考えているのですかっ! 自然を守るどころか破壊するなど、言語道断!」

「なにをそんなに怒って……ぐわぁっ!」

 女性はののしりながら近づいて来たかと思うと、オレの髪をわしづかみにして、後ろを振り向かせた。


「あぁっ……そ、そんな……」

 先ほどまでリザードマンがいたあたりの木々が激しく燃え上がり、このままでは山火事を起こしてしまいそうな勢いだった。松ぼっくりや松は油を含んでいて燃えやすいってわかっていたのに――。

「この始末、どうおつけになるつもりだったのですか! って、その小刀は……」

 オレを地面の上に突き倒してから、オレの背中を踏んで説教を続けていたんだけど、ひもでつながれたオレの小刀が首の横に落ちているのを見て、動きを止めた。

「まさか、エルネスト殿を襲って奪ったのですか? ならば、かたきをとります!」

「あいででで!」

 オレは後ろ手に拘束されて、首に小刀を突きつけられた。




「ふぅむ。このお方は……水○亜○ちゃんというよりも」

『いうよりも!?』

「水○は水○でも水○蓉○様」

後書きタグ:おっさんホイホイ



主人公最強タグが泣いてるとお思いでしょうが、

魔法による攻撃力と制圧力が現時点で最強というだけです。

まぁ、物理攻撃不可とかだとお話になりませんしw

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