第十六話
ちょっとストックが増えたので、
今日だけもう一話公開します。
盛り上がるところがないのはアレですし。
現時点での地図ができたので、アップロードしました。
http://7372.mitemin.net/i65793/
今後、都合により変化するかもですが(汗
「ふぅむ……やはり、そちは知謀にたけておるではないか。ヤマグチとか申す者はわからんが、サイトウよりはおぬしの方が十倍は優秀だと思うぞよ?」
あのあと、高等弁務官の斉藤さんも交えて、最初の話や技術供与の懸念を伝えたんだけど、あまり潜在的な脅威だとは感じてもらえず、山口さんの総指揮のもと委員会を作るという事で終わってしまったんだよね。
まぁ、オレも名誉委員として加えてくれるそうだけど、堅苦しい会議とかはチョー勘弁してもらいたいが、危機感を持っているのはオレだけなら仕方ないか。
「姫とその領地のためなら、便宜を図りたいのはやまやまですが、その子孫が姫のような英知を兼ね備えているとは限りませんから、あまり無責任な事も……」
「ふぅむ……ならば知謀に優れていて、危機感を共有できるような、夫を迎えれば、子孫にも期待できるのではないかの?」
なんかオレの方をチラ見しながら、そんな事を言われたら、自意識が肥大しそうで怖い。
オレは自分の身の程を知っている。バカさ加減もへたれ加減も厨二加減もすべて客観視(笑)しているつもりである事が、ほこりであって、バカが利口なふりをするほど不幸な事はないと思っているので、あまり買いかぶらないで欲しいのである。
「何度か、山口さんと相談しないといけないとは思いますが、姫はもうあそこに用事がないですよね……」
「そうじゃな……今日のところは、屋敷に引き上げるとするか。いろいろと考えねばならぬ事も増えたようじゃしの……」
姫様はなにか考え事をしながら、屋敷へと向かっていった。
「すげえ! こんな見事なお屋敷の中に上がったのは、産まれて初めての事ですぜ? モンドさんにいい土産話になりまさぁ!」
「サモンさん……おさえておさえて……」
屋敷付きの料理人とメイドが二人にいるので、他人の目という物をもっと意識してもらわないと。
オルテナ大公とかが来る時には、もっと人が集まって来るんだろうけど、姫様の意向で必要最低限に絞っているんだよね。
「じゃあ、緊急時の脱出ルートとか、護衛計画のために見回ろうか」
「そうですな……備えよ常には、冒険者の金言ですからな」
オレはサモンさんとともに、家の内部や出入り口をすべて確認していった。
「おや、姫君の姿が見えないが、自室に戻ったのかな?」
「第二王女は、現在入浴中でございますので、こちらにて待機願えますでしょうか……」
少し年かさのメイドが、オレたちを冷徹に見据えながら、歩み出て来た。
「旅のホコリを落とされているのですね……では、座って休ませてもらいますか」
「そうですな……」
その後、夕食をともにしている間も、オレとサモンさんはメイド頭に監視され続けていた。
「ふぅ……さっぱりしたな」
主人用ではないが、客人用の風呂で湯につかり、自室で髪の水気を取りながら、リラックスしていた。
「ん? サモンさんかな……どうぞ」
ドアが二度ノックされたので、オレは反射的に入室を許可してしまう。
「まだ起きておったか。サモンなら、ホームバーを使わせてやったから、上機嫌じゃぞ?」
中に入って来たのはサモンさんではなく、寝衣を身にまとった姫様だったんだけど、どゆ事~?
「ちょっ! なにやってるんですか! 誰かに見られたら、オレは打ち首獄門で市中引き回しの刑ですよー?」
オレはあまりの事に混乱し、ふだんでさえ心もとない思考能力が乱されてしまった。
「案ずるでない。料理人はとっくに帰ったし、少ししぶってはおったが、メイドも帰らせておる……」
仮にも年ごろの男女が一室にいるというのに、姫様は天然なのか、大物なのか、まるで意に介していなかった。
「い、急ぎの話でないのなら、明日の昼間にでも……」
「昼間では人の目があろう? それでは意味がないのじゃ……」
って待て待て……。仮にも一国の王女が……って、さすがにそれはないよね。なら、なんで……。
「ふふ……おぬしも達観しているように見えて、ちょっと乱せば、素の姿を見せてくれたのぅ……」
えぇー? もしかして釣りってヤツですか? オレ、見えてる釣り針に反応しちゃったわけ?
「落ち着くがよい……オルテナ内での不穏な事件の事じゃ……ここの料理人やメイドどもも、強硬派の手が回っていないとも、かぎるまい?」
「あぁ……そういう事でしたか……それにしても……」
目のやりどころに困る……。白銀の胸当てで包まれていた時には、どちらかというとつつましい大きさだと思っていたけど、ゆったりとした寝衣を身にまとっていると、それなりに双子山ができてしまうのだ。それに、首筋とかうなじも……。
「で、本題に入りたいのじゃが、おぬし……どこまで介入する意志があるのじゃ?」
「どこまでとは……。もしかしてこのオレにオルテナ大公国まで着いて来て、強硬派の陰謀を打ち砕いて欲しいとか、もしかしなくても、考えていたんですか?」
この姫様が難儀な目にあうのを見捨てるつもりもないが、それはあくまで任務の範囲内のつもりで、ホルクスの町とやらで護衛の引き継ぎを行えば、そこでミッションコンプなんだけど。
「まぁ、こちらには恩義はあれど貸しのひとつもなく、手駒どころか、オルテナの臣民でもないそちに、要求すべき事柄でもないし、子爵領とて一事あれば没収されかねない状態で、空手形を切るほど、恥知らずでもないのでな……」
うーん。長セリフだったけど、いまの姫様の状態はその言葉で集約されてるなぁ。あっしには関わりのない事でござんすと言ってしまえればいいんだけど、鬼にはなれないというか……美人に弱いというか。
「この護衛の任務は在アデナ高等なんちゃら事務所が依頼主ですし、雇われの冒険者にすぎないオレが勝手な事をしたら、その被害の弁済を行わないといけない状態なんですよね」
「むぅ……。それは、おぬしの協力を得たいなら、高等弁務官事務所を味方に付けよと言っておるのか?」
「そうですね。個人としての責任の範囲でなら逸脱してもいいですけど、事務所を裏切るわけにはいかないんですよね」
そもそも今回の任務を受けたのは、今後の自由な行動をするための代償のようなものだし、そこで暴走したとなれば……末路は考えたくない。
「ただ、このままではオルテナの強硬派が蜂起し、アデナに攻め込んで来るか、待遇改善の圧力をかけるぐらいの事はあると思うんで、アデナを異世界との窓口にしている事務所としても、それは避けたいと思うんですよ」
ここまでヒントをあげて動けないようなら、オレにはどうする事もできないな。
特に強硬派の謀略を阻止したオレが異世界の冒険者である以上、もしオルテナ政権がアデナを掌握したらどうなるのかは、自明の理というやつだ。
「よかろう。明日、おぬし抜きで山口と会談する事にしよう」
オレを一時的に手駒にしたいって相談に、オレが同行するのもおかしな話だし、オレは事務所に懇願されて動くという形にしておいた方がいいんだよね。この意味を知ったら姫様には、策士だとか言われそうだけど。
「あと、おぬしが知っておいた方がいい情報があるのじゃが、聞いてもらえるか?」
「そういう事であれば、お聞きしましょう……って、こんなところで立ち話もなんですので、メイドが帰ったのなら、もうすこしマシな場所はないですかね?」
「ふむ……ならば、地下のワイン蔵ではどうじゃ? 空になったタルがあるから、腰ぐらいはかけられよう」
サモンさんに見られても超絶な誤解をされそうだし、その方がマシだよね。オレは承諾して移動する事にした。
「まず、わたしには兄と姉がいてな……兄は第一王位継承者として、父の補佐をしているが、立場としては強硬派に近いかもしれん」
うわぁ……そこまで食い込んでるのか。まぁ、軍閥の機嫌を損ねるわけにもいかないだろうしね。
「問題は姉なのじゃが、アデナの王子との結婚が口約束ではあるが、進んでおるのじゃ……」
「それは……アデナとオルテナがこれまで以上血が濃くなってしまえば、侵攻する事ができなくなるから、強硬派が反対しているとか、そんな感じですか?」
「まさに――。長い目で見れば、宗主国の後継者の母になれるかもしれないのだが、わたしが国に帰るのと同時に暴挙を起こしかねんほどに、事態は深刻なのじゃ」
「もし、アデナに男子の継承者が絶えるような事があれば、オルテナから後継者を出すとかいう事もあり得ますよね?」
大公国……すなわち、大公爵とは元はアデナの王族であるはずで、アデナに変事があれば、跡を襲う|(襲名するという意味。なんで襲うって文字を使うんだろう)事が不文律になっているはずだ。
「なっ――。それはわたしも……さすがに想定外じゃが、アデナには王子が一人しかおらぬのじゃ……」
うわぁ。だけどオレが強硬派なら婚礼の準備中とかに事故を装って暗殺しちゃうよね。
「ええと、アデナ王国には貴族は一代貴族しかいない……後継者たりえるのは、大公国だけですよね?」
「言われてみれば自明の理なのじゃが……恐らく強硬派もその事に考えがおよんではいまい。そうであったらわたしを暗殺する必要がなくなるではないか」
うわ、やぶ蛇というか……オレが強硬派にこの事を告げたら、泣いて喜ぶんじゃ。
「えぇと……。オレが強硬派の暗殺者だったら、一時間もらえたら王様ともども焼き殺せますけど?」
まぁ、家族を人質に取られたりしない限りは……って、アルミラさん!
「いまこのアデナで、おぬし以上の危険人物はおらぬのではないのか? 悪辣なまでの謀才に、実行力まで兼ね備えておるではないか」
むぅ。そう言われてしまえば否定しづらいな……。
「あとですね……。姫の行動をサポートするのなら、保護してもらう必要がある人がいますね」
「ほう……どのような人物じゃ?」
「オレが魔術を使えるようにしてくれた、少数部族の術者と、そのお兄さんです。彼らの安全が脅かされたら、オレは強硬派に回るしかなくなります」
それを告げるのもばか正直って気もするけど……。
「ぬぅ……さりとて、使える手駒など……」
「エディウスさんですけど、あの人を護衛に回せませんか? 少数部族には独特な治療法もあるみたいですし、オレが裏切らないようにするための切り札にもなるでしょう」
歩くのは無理でも馬か馬車で移動するぐらいの事はできるんじゃないかな。
「ぬぅ……おぬしのそこまでの赤心に応えられるものがわたしにはないのじゃ……わたしはこれまで、多くを望まない事で和を乱すまいと思っていたのじゃが、そちの協力を得られるためなら……」
「勘違いしないで欲しいのは、オレは権力とかお金を得るのが目的で協力しようと思ったわけじゃないんです。まぁ、オレが元の世界に戻るためには大金か、事務所に相当の貢献をしないといけないんですけど……」
「ぬぅ……。ならば、いったいなにをもってそちの働きに応えればよいのじゃ? 普通のおなごの身であればささげる事もできるが、この身が乙女でなくなれば、戦神の加護を失って、新たな戦女神が誕生してしまうのじゃ」
うわぁ……そのつもりはなかったけれど、あまり知りたくなかった新情報だなぁ。
「オレには、守りたいと思う人たちがいます。あの人たちの暮らしを守るため……と考えるしかないでしょうね」
オルテナがアデナの主人になって、もし少数部族への迫害が行われる事になったら目も当てられないし、戦乱に巻き込まれる可能性も捨てきれなかった。
「では、高等弁務官事務所と交渉できたら、わたしの力になってくれるのだな?」
「ええ……。一週間や二週間は視察をする事になっているはずなので、ひそかにオルテナに潜入する事にしましょう」
オレは、強硬派の動きを封じる最初の一手を思いついたのだ。
「おお……。その表情をみるに、悪辣な策を思いついたに違いない。ぜひにも聞かせてほしい!」
「うぅむ……悪辣と言われてしまうと弱いのですが、それをするのならサモンさんの協力も必要ですね……ある程度は事情を話す必要があるでしょう」
まぁ、サモンさんの事だから、姫様のお願いをむげに断るとは思えないんだよね。それにすでにいい気分になっている事だろうし。
「ふむ……。おお、わたしの産まれ年のワインがあったぞ。さほど高価ではないが、サモンとともに飲もうではないか!」
「サモンさんなら、固めの酒と言って喜ぶでしょうね」
オレたちは、一種の共犯者となって、ワイン蔵から出て行った。
次回(夕方)はスニーク物になります。
乞うご期待