第十一話
想定外の大勢の方に読んでいただけたようで、本当にうれしいです。
第三章とはなっていますが、今回と次回はインターミッションのような
感じですね。
01/18 二カ所、アルケインと書くべき部分をストレインと書いていたので、修正しました。
「なるほど……。エルプシィの町に、裏切り者がいるという事ですか。深刻な問題ですね」
「生きているうちに、もっと情報を引き出しておければ良かったんですけど、用済みになって殺されるのを警戒していたのと、仲間の救出を期待するための時間稼ぎだったんでしょうね」
五日後、オレはアデナの冒険者ギルドに出頭して、オークロードの件を報告していた。
「わかりました。その件についてはこれで結構です。経費の精算ですが、仲間は何人でしょうか?」
もっと長く続くかと思ったけれど、経緯を報告し終えると、冒険者ギルドの係員は書類を一枚取り出して、問いかけて来た。
「現地人の冒険者を一人ともなって来ただけですが……」
どうやら、三か月で前のパーティーを離脱した事は、知られていないようだ。
「そうですか……あ、別の部署の者が話を聞きたいそうなので、この場にて、少々お待ちください」
「そうなんですか……わかりました」
アデナの冒険者ギルドは、アデナ王国と日本国政府の合弁事業のようなもので、先ほどの係員は現地の人だったんだよね。これで解放されると思ったのは甘かったか……。
ちなみに、日本国政府が冒険者の派遣を行う契約を結んでいるのは、魔物の被害による救助を求めてきたこのアデナ王国だけで、アデナ地方を出ると身分の保障はされないという事だった。隣国とも交渉はしているそうなんだけどね。
魔物の被害が増えたのは、全世界的規模だから、現在は人間同士の紛争とかは行われていない。
(それにしても、異国情調はあんまないよなぁ……)
ファンタジーの世界だけに、エルフやドワーフでもいると思うのが常識的な考えだけど、魔物以外は人間しかいないって、ゲームなら地味すぎる。
そういえば、あのVRMMOも種族は人間だけだったか。だからこそ、異世界とゲートがつながったんだろうけど。
「お待たせしました。わたくし、在アデナ救済高等弁務官補の山口と申します」
「はぁ……キューサイ……ですか?」
青○とは関係ないよなぁ……。三十代後半の避暑地で着るような、薄手のスーツを着た男性が入って来た。
「あ、ご存じありませんでしたか。では……」
そう言って、山口さんは名刺を渡してくれた。
「あ、どうも……冒険者のストレインです」
元素魔術師・ストレインなる名刺を持っているはずもないし、向こうはこっちの情報を持ってるはずなので、手早にあいさつを交わした。
「わかりやすく言いますと、アデナを魔物から守るための協議を行う事務所のナンバー2ですね。外交官のようなものだと考えてくださって結構です」
それなりに偉い人みたいだけど、腰が低いのが日本人だなぁ……。
「あぁそういう事ですか。そのわりに、入国審査みたいなものは、なかったですよね」
「審査は日本で済ませていますからね。意志疎通だけなら、比較的簡単に行えますもので」
この人の物腰をみるに、キャリア官僚というよりは、たたき上げの専門職の事務官って感じだよな。
「いわゆる外交のようなものは、高等弁務官の斉藤が行っていまして、わたしは日本からやってきた冒険者の管理などを行っているんですが……」
それ来たぞ。いろいろ突っ込み所があるのは覚悟していたけれど、どうなる事やら。
「まず第一に……元素魔術師を選択してしまったとの事ですが、この事についてうかがわせてください」
「すみません。あのVRMMOにはかなり興味がありまして、自分の理想のキャラをずっと思い描いていたんですけど、異世界とつながるひとつ前のバージョンを前提にしてまして、能力値の割り振りを間違えてしまった上に、元素魔術師が使えないという事を知らなかったんです」
オレはテーブルに頭を叩きつける勢いで、まず謝っておいた。オレのせいで人ひとり首になるとかいう話もあったので、ずっと気になってはいたんだよな。
「あー……アルケイン氏からも、そのような報告が上がっていますが、事実だったんですね」
山口さんは、苦虫をかみつぶしたような表情を浮かべた。
「その……日本でオレの担当をしてくれた人に迷惑がかかるんじゃないかって話を聞いたんですが……」
「あなたと面談して話を聞いてから、もし説明に不備があった場合には……という感じなので、現在は保留ですね」
「説明に不備はありませんでした。用紙ももらっていたんですけど、オレがなろうとしていた魔導師とは直接関係がなかったもので、すべての責任はオレにあるんです!」
オレはふたたび、テーブルに額が当たらんばかりに頭を下げた。
「能力値を決定してから職業選択に移行する時に戻れないという問題は、いずれ解消するつもりだったそうなんですが……」
「そうなんですか……」
「それにしても、オークロードを捕まえたとか……。現地の冒険者を、どれぐらい集めて指揮されたんです?」
山口さんは、オレが魔法を使える事を知らないようで、どうやら現地人の冒険者を指揮して戦ったとか脳内変換されているみたいなんだけど……。
「その、現地の冒険者は、ここまで同行してくれた、サモンさんって軽戦士ひとりだけですけど」
「アルケインさんからは、共通魔術がいくつか使えるだけで、戦闘能力は皆無に近いと報告を受けているんですが……どういう事ですかね?」
山口さんは書類をいくつか並べながら、鋭い視線をオレに送って来た。
「あの……最初は元素魔術が使えなかったんですけど、いまは使えるようになったんですけど……」
「なんですって? それは、本当なんですか?」
オレがおそるおそる口にすると、山口さんは目をむいて立ち上がり、いすを倒してしまっていた。
「ええ……ゴブリンの群れも火の元素魔術で倒しましたし、オークロードがいた洞穴にはオークが三十体ぐらいいましたから、二人で倒したんですけど」
「それは信じがたいお話ですが、上がって来る報告で、いくつか、ふに落ちない点があったのも事実なんですよね……」
山口さんは、倒れていたいすを元に戻して再び腰を下ろした。
「誰でも元素魔術が使えるようになるわけでもないようなんですが、オレは使えるんですよ」
「ううむ……。過去に四人の元素魔術師がいましたが、その誰もが、実現できなかったんですが」
「その、必要でしたら、魔法の実演をしましょうか?」
オレはイオ○ズンのコピペを脳内で思い出して、吹き出しそうになってしまいそうだった。
「そう……ですね。いずれにせよ、来て三か月たてば、能力の査定を行って、それによって冒険者のランクを決定する事になっていますから……明日の午後二時に、お時間をいただけますか?」
運転免許センターかなにかみたいだな。
「冒険者にランクがあったんですか……いわゆる、ハ○ターランクみたいなものですか?」
「そうですね……その概念であってますよ」
山口さんも、異世界に来るからにはゲームの知識を勉強したか、もともと好きだったのかもしれないな。
「明日の午後二時に、ここに来ればいいんですね……それは問題ないです」
「そのあとで、詳しくお話も聞きたいので、明日の滞在分の費用も、今日出してもらえるように、経理に言っておきます」
「護衛の人が一人いるんで、よろしくお願いします」
オレはちゃっかりとサモンさんの分も主張して、アデナの冒険者ギルドをあとにした。
「そういうわけなんで、明日の夕方ぐらいまで、かかるみたいなんですよ」
「そうですかい。なら、あっしはエセルティ商会に顔を出して来る事にします」
オレは、宿屋兼酒場で、サモンさんと合流して、サラミをつまみながら、情報を共有していた。
「エセルティ商会って、アデナが本部だったの?」
「そういうわけじゃないんですがね? モンドさんの支部があるんでさぁ。本部は隣の共和国なもんで」
「へぇ……結構、手広くやってるんだねぇ……」
オレは、酒に懲りたので、ジンジャーエールのようなノンアルコール飲料を口にした。
「そういえば、冒険者にランクがあるそうだけど、オークの掃討の依頼……よく取れたよね?」
「ああ、あれはA級の依頼なんで、普通は無理ですぜ。ただ、ゴブリンの群れを倒した実績と、少数部族のあんちゃんと、あっしの顔があったから、横車を押せたんでさあ……まぁ、成功したんだから、いいじゃないですか……がっはっは」
サモンさんはエールを水のように飲んで、上機嫌だった。
「ええと、山口さん……結構大勢なんですね」
翌日の午後二時少し前に、オレは冒険者ギルドに出頭したんだけど、二キロほど歩いた郊外の演習場らしき場所には、十数人の関係者らしき人が集まっていた。
「ええ……ウチの所員と、ちょうどアデナにいた冒険者と、現地の魔術関係者ですね」
それは、期待されているという事なんだろうか……。
「火の元素を選んだとの事なので、火の矢が使えるはずなので、実演をお願いできますか?」
山口さんが指さした場所には、麦わらで作られたかかしのような物が立てられていた。
「わかりました……じゃあ実演します……」
オレは、開始線とでもいうべき場所に歩いていった。
「ファイヤーアロー!」
オレは高速詠唱で三本の火の矢を頭上に顕現させた。
「おおっ!」
「彼は本当に、元素魔術師なのかね?」
十数人の関係者は、顔色を変えて話をしていた。
「じゃあいきます……せいっ!}
オレは意識を集中させて、三本の火の矢を同時に、かかしへと飛ばして、命中させた。
「これは、たしかに……」
「基本職の魔力の矢とは、明らかに違いますな……」
「それにしても、魔法の詠唱をほとんどしていないようですが、高速詠唱というよりは、共通魔法でしかできないはずの、無詠唱に近いですな」
一瞬でかかしは爆散し、わらの破片が焼け焦げるにおいが周囲を満たしていた。
「驚きました。元素魔術の火の矢である事は、皆さん異議がないようです……」
山口さんは興奮を隠さずに、オレの元に走り寄って来た。
「じゃあ次は、フレイムソードにしましょうか。誰か剣をかざしてみてくれませんかね?」
「なら拙者が……」
「両手持ちの剣でも可能なんですかね?」
てんでばらばらに、六人ほどの冒険者が剣をかざしてくれた。
「では……フレイムソード!」
オレは、六人の剣に、同時に炎の付与魔術を発動させた。
「おおっ! まさか、全員とは……」
「フレイムタンと、ほぼ同様の追加ダメージと効果が得られるんでしたな?」
「これは便利だ……基本職の魔術師では、七レベルの光の剣を覚えないといけませんからな」
戦士らしい冒険者たちは、炎を放つ剣をかざして喜んでいた。
「魔力をどれぐらい使われたんですか?」
「そうですね……ファイヤーアローを含めても、五分の一も減ってませんし、十分ぐらいで回復すると思いますけど」
山口さんの問いに答えると、みな絶句してしまっていた。
「なんにせよ、これは素晴らしいニュースですな」
「不可能とされた召喚魔術も、方法はあるのでは?」
「もう一人、元素魔術師を送ってもらえば追実験が行えますな」
なんか、みんな帰るモードになっているんだけど、本命が残っているんだけどな
「あの、ファイヤーボールの実演なんですけど、場所を変えるんですか?」
その言葉に、だるまさんが転んだをしていた子どもたちのように、みながぴたりと動きを止めた。
「なんだって? 難度三の魔術を使えるというのかね?」
「難度ってのはよく知りませんが、五レベルになった時に、使えるようになりましたけど……」
山口さんが血相を変えて近寄って来たので、あわてて説明したけど、どういう事なんだってばよ?
「レベルが上昇する事によって、魔法を覚えはしますが、難度三の魔法を実際に使用できる人は少ないんですよ。聞いていないんですか?」
「そう言われても、最初のパーティーには魔術師もいませんでしたし……」
「あぁ……そうでしたか。それにしても、教育ぐらいはしておいて欲しかったですね……はぁ……」
なんか、山口さんにため息をつかれちゃったよ。じゃあ、もしかしてファイヤーストームを覚えても使えるとは限らないのか……だとしたら残念だなぁ。
「ええと、彼しかいないようだけど、彼はもしかしてフリー?」
「まさか……あんな強力な魔術を使える魔術師を手放すパーティーがあるわけがない……」
なんか、これまでとはまるで違う視線が痛いんですけど……。
「難度三の魔術……しかも、制御がむずかしい、大規模な攻撃魔術であるのなら、ぜひ拝見したい!」
どうやら現地の魔術師っぽい格好をしている高齢の男性が、杖を振り上げて主張した。
そういえば、オレ……いわゆる魔術師御用達の杖を持ってないけど、必要なんじゃないのかな?
「ええと……かかしの用意はないのですが、お願いできますでしょうか?」
「いいですよ? どれぐらいの強さにしましょうか?」
山口さんがおずおずと問いかけて来たので、快諾した。
「どれぐらいの強さといいますと?」
「ええと、元素魔術の攻撃魔術は、余分に魔力を注ぎ込んで威力を増やす事ができるんですけど」
「それはあくまで、元になったVRMMOの話だ!」
「そんな事ができるのなら、即座に宮廷魔術師の座を譲ってもいいわい!」
あれ? なんか、怒られてるみたいなんだけど、いいのかな……。
「皆さん落ち着いてください……まだ午後三時にもなっていませんし、時間に余裕があるようでしたら、彼の言うように実験を行いますので……」
実験もなにも、実戦ですでに使用済な上に、魔力の心配もされているみたいなんだけど、どういう事よ。
「えーと、ちょっと待ってください。通常 二倍 三倍 四倍まででしたら、現在の魔力で連発できますから、そんなにお時間は取らせないと思うんですが」
「なにをばかな事を!」
「セ※カィヌゥ……ホーア!」
なんか、同時に大声でどなられたので、翻訳が追いつかないんだけど……。
「ええと、すぐにでも使う事はできるんですが、三倍以上のファイヤーボールに、ここが耐えられますかね……」
「この向こうはちょっとした、がけになっていますから、問題ないとは思いますが」
なんだかもめて話が進まないので、山口さんとだけ打ち合わせしているんだけど、面倒だなぁ。
「念のため、じゅうぶん離れた上で、遮へい物に隠れるように言ってもらえますかね?」
「まぁ、なんにせよ、論より証拠ですからねぇ……」
なんか山口さんも、どこまで信じていいのやら? って表情をしちゃってるよ。
「それでは、まず通常威力のものを、高速詠唱でいきます。いいですか? いいですね? では……ファイヤーボール!」
オレは通常の火の球を発生させて、山の斜面へとたたきつけて、さく裂させた。
「うぉぉっ!」
「うぅむ……。難度三の魔術が使えるなら、一流の魔術師と言ってもいいのでは?」
なんか、オレの知識と実際の魔術とはいろいろ違いがあるみたいだけど。
「それでは、二倍行きます。ファイヤーボール!」
オレは説明するのも面倒になって来たので、難なく魔力を二個分注ぎ込んだファイヤーボールを山の斜面にたたきつけた。
「くっ……耳が……」
「たしかに、先ほどのよりも威力が大きいですぞ?」
「さっきが高速詠唱で、今回が精密詠唱……ではないですな」
「それでは三倍行きます。しっかり隠れていてくださいね?」
「できるものなら、やってみろ!」
まーた、あの魔術師の人が怒ってるよ……。
「炎の精霊よ……あ、これで喚起できるんだ……。じゃ、ファイヤーボール!」
オレはややぞんざいに、三個分の魔力を込めたファイヤーボールを、再び山の斜面でさく裂させた。
「うわっとっと……もうちょい下がらないとだな」
爆風と熱風がオレのあたりまで押し寄せて来たので、あわてて後ろに飛びのいてよけた。
「なんか、静かになったけど、大丈夫だよね……」
やめろと言われてないから大丈夫だよね……。
「それじゃあ、四個分いきます。炎の精霊よ……我が願いに応えて、その力を表せ……って、なんかオレ精霊魔術師みたいだよね……。おっと、ファイヤーボール!」
雑念で忘れていたため、なんか六個分ぐらい魔力を注いでしまったような気もするが、オレはファイヤーボールをこれまでと同じ手順で放ち、今度は空堀のようなところにあわてて飛び込んだ。
次の瞬間、直下型大地震が起こったかのような振動と、空気を震わす爆音……そして、熱風が空堀の中に流れ込んで来ていた。
「なっ……なっ……なんて事を!」
「そんな……ばかな事が……あってたまるか! うぅっ……」
「老師! しっかりしてください!」
あ、もしかしてオレの耳もちょっと聞こえなくなってたみたい。
「うわ……気を散らしたせいかなぁ……」
およそ六発分の魔力を注いだファイヤーボールは、斜面のあった小高い丘を、跡形もなく吹き飛ばしてしまっていた。
「すみません……手違いで、六個分いっちゃったみたいですけど、この向こうはがけで大丈夫なんですよね?」
ぼうぜんとしながら、よろよろと近づいて来た山口さんに、オレは頭を下げてから説明をした。
「査定結果は……今日の夜までには出ると思います……今日はこれで、お引き取りいただいて結構です……」
山口さんは青ざめた表情でオレに告げた。
「あ、そうそう……元素魔術師が魔術を使う方法ですけど、条件があるので、誰でもってわけではないので、留意してくだい」
オレは念のため、注意事項を伝えてから、その場をあとにした。
「なんだ? 訓練でもするのかな……」
とぼとぼと歩いていると、途中で数十人の兵士が血相を変えて走っているのにでくわした。
戦闘シーンもありませんし、夕方にもう一話公開する予定です。