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デスティネーション・ユニバース  作者: 小田崎コウ
第一章
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第一話

VRMMO 異世界トリップ ログアウト不可 デスゲーム

と、お約束のオンパレードに、密教とかそっち系のテイストを加えてみた結果がこのありさまです。

 西暦二千二十年は人々の記憶に刻み込まれた年となった。人々は新世界の発見に驚喜し、過去例のない伝染病の発生に震え上がったからだ。

 新世界とは、数年前から実用化されたVRMMOのゲーム内において、異世界への門が開いてしまった事を指すらしい。

 とは言っても、オレがその場に居合わせたわけでもないし、情報は制限されているから、知っているのは異世界で死ぬと本体も死んでしまうという事ぐらいだ。

 西暦二千二十年の年末に、オレは恐れていた伝染病に感染してしまい、こうして隔離されているわけなのだが……。

「わたしの話を聞いていましたか?」

 オレの気が散っているのを察したのか、説明役の気むずかしそうな男性が声をかけて来た。

「えぇ……もちろんですよ」

「そうですか……では、説明を続けます」

 過去例のない伝染病とは、即座に死ぬわけではないけれど、全身の筋肉への電子信号が阻害されるとかいう病気で、自分の意志で動かす筋肉は動かす事ができなくなり、呼吸したり心臓を動かしたりする事しかできないのだ。

 随意筋と不随意筋とか言ってたけど、まぶたを開ける事もできないし、目の焦点を合わせる事もできないって状態らしい。なので、こうしてVRの世界で説明を受けているんだけれど……正直言って、気が重い。

「ふぅ。あなたはもう契約を受け入れて、適合テストにも合格してしまったのですから、本腰を入れないと、あっさり死んでしまいますよ?」

 身動きができない状態になったオレは、VR装置がある病院に転院する事になったのだが、この病気を治すのにはとてつもない金がかかると言うのだ。

 全身の血管にナノマシンを流し込む事で、別のルートを作って筋肉を動かせるようになるそうなんだが……サラリーマンの生涯年収なみの額など払えるわけもないけれど、くだんのVRMMOを経由して異世界に跳んで、探検する事により報酬が得られると説明されたわけだ……。

「キャラクターメイキングは、VRMMOのシステムを使いますが、異世界では使えない職業やスキルもあるので、じゅうぶん注意してください」

 異世界で死ぬと、現実世界の肉体も死んでしまうというのは、さすがにクソゲーってやつですよ。そうじゃなかったら、楽しめると思うんだけど……。

 オレは説明役の人の言葉をほとんど聞き流しながら、考えこんでいた。

「わかりました。そのVRMMOは、オレもやるつもりだったんですよ。受験のせいで後回しにはしていましたが、ネットでの情報は集めてましたから」

「そうですか……では、この除外能力・スキル表に目を通しておいてください。三十分ほどでキャラクターメイキングに入ります」

 そう言って、説明役の人は退室していった。

「うっしゃ! たしか能力値は、筋力が九で知力が十八で……」

 オレはかねてから、自分の理想のキャラクターを模索し続けて来たので、用紙の裏にそれを思い出しながら書いていった。

「おっと……そういえば、運の要素は異世界ではないんだったな。能力値にして六ポイント……スキルポイントに換算すると三ポイントか……もしかして、あきらめかけていた高速詠唱に届くんじゃなかったかな。信仰心を一削ればいけるな」

 オレは恐怖心を忘れて、理想のキャラクターの能力値・スキルの修正を脳内で行っていた。



「そろそろ時間ですが、よろしいですか?」

「ええ……バッチリですよ!」

「あなたは、もうそ……コホン。イメージ力が高いので、魔法使いに適正があるんでしたね……。向こうでは有能な魔法使いは少ないそうなので、頑張ってください」

「ありがとうございます!」

 なにやら、気になる事を言われた気もしたが、頭の中はキャラクターメイキングの事でいっぱいだった。

「能力値とスキルの決定をしたあとに、一覧に表示される職業から選ぶ事になりますが、戻って能力などを選択しなおす事はできませんし、異世界では無効な職業もあるので気をつけてください」

「わかりました!」

 そういえば、説明の紙をあまり見てないけど、オレのキャラにはあまり関係のない事ばかりだったしな……。

「では、接続しなおしますが、ここからはアシストする事ができません……幸運をお祈りします」

「ありがとうございます!」

 次の瞬間、意識がブラックアウトし、オレは灰色の空間で意識だけが漂っている事に気づいた。


「ここでキャラクターメイキングをすればいいんだな……」

 物理的な肉体はないが、マウスカーソルのようなものを動かす事はできたので、オレは手引き書の内容を思い出してキャラクターの創造を始めた。


「性別は男で名前は……英語風がいいって言っていたな」

 自動で翻訳できる魔法の腕輪が貸与されるそうだけど、固有名詞の発音は同じだから日本語の名前だと発声しにくいと説明されていたのだ。

「ふむ……。魔術師らしい名前がいいよな」

 本名はどういじって英語風にしても、魔術師には向いていない名前なので、それっぽい名前を考えてみる事にした。

「ストレインにしよう。賢者っぽい名前の響きだしな」

 意識するとキーボードが出て来たので、オレは意識で操作して打ち込んでいった。

「よーし。入力していくぞ!」

 ついに能力とスキルの割り振り画面になったので、オレは記憶している数値を入力していった。

「一に火力。二に火力。三・四がなくて五に魔力ってな!」

 オレは、火力……すなわち魔法の威力を第一とし、次に魔力値の高さ。最後に魔力の回復速度を重視したキャラメイクを行っていた。魔法に関しては数少ない共通魔法を除いては、選択した職業に応じた魔法が使えるようになっていくらしい。


「よしっと……これで間違いないよな」

 控室で用紙の裏に書いた数値やスキルポイントと合致しているのを確認して、オレは決定ボタンを押した。

「あれっ? 魔導師が出てないんだが……」

 選択できる職業は、基本職の魔術師と上級職の元素魔術師の二つだけで、オレが選択するはずの魔導師は一覧に表示されておらず、目の前が真っ暗になってしまった。

「あっ……信仰心を一ポイント削ったからか……前のバージョンなら、それでも魔導師になれたはずなのに……」

 火力を追い求めているとはいえ、魔法による体力回復ができないのは困るので、最低限の回復魔法を覚える魔導師にしていたんだが、どうしようもないだろう……。

「たしか、元素魔術師も火力では相当な物だったし、基本職よりいいか……」

 VRMMOの世界でなら転職もあるのだが、異世界では転職ができないそうなので、基本職より上位職を選ぶのは、当然の結論だと言える。

「考えても仕方ないな……決定と。得意な元素を選ぶのか……やはり、火力というからには火だろう」

 地・水・火・風の四大元素から即座に火を選択した。

「ふむ……最初に使えるのは、火の矢の魔法か。魔力を多く注ぎ込めば威力も増やせるようだし、問題ないな」

 オレはステータスを確認してから、決定ボタンを押した。

「うぉっと……いきなり異世界に跳ぶんだったな……気持ちわるい」

 オレはめまいのような物を感じ、転移する瞬間を待ち続けた。



「さぁ、起きるのです……異世界からの勇者よ」

「むっ……。もう、着いたのか?」

 オレは、祭壇のような場所で、黒光りする石の上で横になっていた。

「お名前をお聞かせください」

 装飾品を身にまとった巫女風の女性が問いかけて来た。

「オレはストレイン……元素魔術師のストレインだ」

 名乗りを上げると、先ほどの女性が笑みを浮かべた。

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