表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
初恋泥棒  作者: 真澄
4/4

ついでの2.1

その後のお二人。

重なる唇が、始まりの合図になるはずだったのに。


目を閉じた彼女の顔に見とれていたら、うっかりタイミングを逃してしまった。ヤバイ。急にキンチョーしてきた。どどどうする? そしてこともあろうに――


「……ほっぺ?」


「や、ゴメン、今のなし。ちょ、待って、もっかい仕切り直し……」


いいって、と、肩を押し返されてしまった。ああ夢にまで見たやわらかい唇が遠のいていく。


「別にまだつきあうとか決めてないし」


「そんな、エリ~」


「ちょっと! なに呼び捨てしてくれてんのよ。まだ彼女でもなんでもないっつうの!」


「え~じゃあ、エリさん?」


「……」


お気に召しませんか。たしかに、やけに年上を強調されててオレも気に食わん。となると…


「エリちゃん」


「……!」


……ほほう。年下からの「ちゃん」付け萌え、ですか。「センパイって呼びなさいよ」という遠吠えは当然無視をする。


「エリちゃんはさあ、オレのことなんでも好きなように呼んでよ。アツヤでもあっくんでも」


「おい中坊」


「無視!」


「言ったでしょ。また好きになるかどうかわかんないって」


「大丈夫だよ。少なくともあンときよりはオレ、イイオトコになってっから。……エリちゃんさあ」


「何よ」


「そんなこと言って、オレのこと“また”好きになったらちゃんと言ってくれんの?」


「…っ」


――まあその表情を見るまでもなく、ムリだろうとは思うけど。


「わかった。じゃあこうしよう。エリちゃんはオレのこと好き前提ね」


「はあ!?」


「で、オレを好きじゃなかったらそう言って」


「なななな」


「だってさあ、エリちゃんは高校3年生なんだよ? 大学どこ行くか知らないけど、受験のジャマはしたくないし。オレたちには一緒にいられる時間がもうあまりないんだから、エリちゃんの告白を待ってるヒマはないの」


「ああ、そういえば先輩は県外の大学だっけ」


…そうだけど。なんでいきなり兄貴が出てくんのさ。


「なに。やっぱその辺はリサーチしてるワケ?」


声色にトゲトゲしさが混じるのを隠せない。


「…ていうか、先輩の彼女、友だちだから。そっから情報が入ってくる」


「…は? え、最近は彼女一人に絞って落ち着いたみたいだと思ってたけど、その人?」


「あーそうそう。去年くらいからかな、付き合いはじめて、4月から遠恋してる」


なんてしれっと応えるけどさ…。


「それ……やっぱ傷ついたり、した?」


「? なんで?」


や、キョトンじゃないでしょう! だってあんなに追いかけ回してたじゃんか!! しかしそれを言うとあっけらかんと笑われてしまった。


「いやあ、あんなの恋のうちに入らないも~ん」


「そ、そうなの…?」


あそこまでされたのに恋にカウントしてもらえない兄貴にはちょっと同情するけれど。けれど、じゃあ君が“一生懸命”忘れるほど傷ついて、次の恋もできないほどの失恋をした相手ってのは、やっぱりオレだったんだなあ。


「エリちゃん」


「何よ」


ほら、そうやって返事をしてくれるし。


「オレはうれしくて泣きそうだ…」


「…わたしは18にもなるっていうのに小学生としかキスしたことのない自分が、終わってて泣けるけどね」


「や、だからそれは、いま、」


いや待て落ち着け自分。いちど息を吸って、吐く。


「あ~…ま、まあ、エリちゃんがしてほしい、ってんなら?」


「そうねー。きっと、すご~く素敵なシチュエーションで、最高の思い出になるようなのを用意してくれるんだと思うから」


「え、ちょっと」


なにそのSっぷり! ああでも、そのニッとした唇にやっぱり見とれてしまう。


「期待して、待っちゃう」


「……!」



四年前はどちらかと言うとぼんやりした女の子だった。そこから鮮やかな手口で盗み出したはずの初恋は、返したとたんに立場逆転。そりゃあ四年経てば変わって当然だし、オレだって変わったと思う。だから彼女の言うとおり、「また好きになるかどうか」はわからない。それは、お互いに。けれどこれからもっと彼女を知っていったら、もっと好きになっていく予感が満々なのだ!


「エリちゃん好きだ」


「な、何よ」


「ずっと言いたかったのがやっと言えるんだ。いくら言っても足りない。好きだよ。これからもっと好きになる」


「あ、あんまり言うと信憑性下がるわよ」


「エリちゃんは? オレのこと、好きじゃない?」


「……じゃなくは、ないわよ」


恥ずかしがりやの彼女だから。その言葉でまずはじゅうぶん。


「ありがとう」


「え?」


「もう一日だってムダにしねえぞ! 今日からはなにひとつガマンしないでグイグイ行くから」


「ちょ、ちょっと!」


「イヤなときだけ、そう言って」


困るんだけど!という苦情を無視してその手をつなぐ。


「一緒に帰ろ」


「もうほんとに、受験生なのに頭ん中いっぱいになるのとか困るの!」


「ハイハイ。そういうときは離れてるほうが頭ん中いっぱいになるの。会いたいときは会っちゃいな。そんで飽きるほど一緒に過ごして受験勉強本格的になる前にオレに飽きちゃえばいいんだよ」


「そんなっ…!」


「長い目で見たら、受験前くらいガマンできる。受験終わったらまた思う存分イチャイチャすればいいんだもん」


「イチャイチャって! ……そんなに、長い目で考えてくれてるの?」


そりゃあね。この手をつなぐまでにかけた時間を思えば、そう簡単に終わらせるつもりはないよ。ていうか、てことは、さ。


「とりあえずオレたち始まったと思っていいわけ?」


「~~~っ」


ま、握った手にギュッとこもった力が「Yes」って意味だと思っとくよ。今日からやっと、オレたち始まる。君が期待するような素敵なキスには、少し時間がかかるかもしれないけどね。

上に立ったり、立たれたり。ヨユーがあるように見えても、初めての恋はいっぱいいっぱいなんです。女子も、男子も。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ