第四話 森の中の少女
え…………なんだって?
もちろん俺は目の前の少女に見覚えはない、けれどこいつは確かに今「隼人」、俺の名前を呼んだ
周りに人はいないし
人違いっていうわけでもないだろう
じゃあ……俺?
と、とりあえず確認してみよう
「…それは俺に言ったのか?」
「……………」
「…………」
コクッ
あ、頷いた
あんまり喋らない性格のようだ
「えっと…確かに俺は隼人だけど……君は?」
「…………」
「…………」
「………………水上蓮」
「はい?」
「…………………………水上蓮」
みなかみれん?
………あ、なるほど
もしかして、こいつの名前か
「……………」
「………で?」
「……………?」
水上とやらが不思議そうにこちらを見つめる
まるで、俺に自分に覚えているかと聞いているように……
って待てよ…
こいつ…、俺のことなにか知ってるのか!
とにかく聞いてみないと
「君!俺のこと知ってるの!?」
「……………?」
彼女はしばらく不思議そうな顔のまま無言だったが、やがて…
「……私のこと覚えてる?」
少し悲しそうにそう言った
参ったな…
もう間違いなくわかる
こいつは俺を知っている、こう…結構近い感じで
それなら、やはり…
記憶喪失の話はしたほうがいいだろう
「あのさ…悪いんだけど」
「………?」
「君は俺のことを知ってるみたいだけど、俺は知らないんだ、君のこと」
「………えっ…」
「確かに俺は神崎隼人だよ、でも今は記憶喪失で何も覚えてない」
ちょっとはしょりすぎたかな
「…………」
「………」
じーーっ
少女の疑いの眼差しがささる
明らかに信じて貰えてない
「って、これはほんとだぞ」
「…………」
「ホントです」
「…………」
「「…………」」
しばし互いに沈黙。
そして…
「私は…水上蓮」
心なしか、寂しそうな表情をして言った
どうやら信じてもらえたらしい
「ごめんな、でもいつか思い出すからさ」
「………うん」
辺りはすっかり暗くなっていた
「あ、ところでさ」
「…………何」
「道を教えてほしいんだけど」
「…………分かった」
おお、よかった
これでもう安心だ
俺は彼女に家の住所がかかれた紙を手渡した
「…行けるか?」
「……………」
コクン
「………ついて来て」
そう言って少女は歩き出す
まぁ、知っている人にも偶然会えたし、
運よかったかな
そう自分に言い聞かせながら俺は今まで来た道を歩きだした