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れんたま  作者: 沙φ亜竜
第1章 ポップでノリノリな、YUUI(ユーイ)さんみたいに
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-7-

「よかったわよ、あなたたち!」


 クラス全体を巻き込むほどの勢いで歌い上げたあと、わたしたちは先生から褒められた。

 ああ……こんなの、生まれて初めてかも!


「とくに雫宮さんは素晴らしかったわ! ちょっと弾けすぎって感じではあったけど、わたしも思わずノリノリになっちゃった! いつもおとなしいから、少し驚いたけどね!」


 もう、手放しで大絶賛。

 それを聞いた友達三人組も他のクラスメイトたちも、みんな納得顔で頷いてくれていた。

 ふわぁ~、ほんっと、気持ちいいっ!


「今どきの歌謡曲っぽくて、みんなも楽しかったんじゃないかな?」


 先生はなおも、とびきりの笑顔で褒め称えてくれる。

 だけど先生……今どき、あまり歌謡曲なんて言い方はしないかも……。


 普段のわたしだったら、そんなツッコミの声なんて、当然のように飲み込んでしまうところだけど。

 まだ『れんたま』の効果が残っているからか、調子に乗ったわたしはほとんど条件反射のごとく、先生に対してツッコミを入れていた。

 しかも、


「今どきだとJポップとかって言うかな? ま、先生は今どきの人じゃないから、仕方ないと思うけど!」


 な~んて、激しく余計な言葉までつけ加えてしまって。


 ピシッ!

 先生のこめかみには、そんな音が聞こえてきそうなほどの青筋が、ありありと浮かび上がっていた。


 心の中では焦りまくって、どうにかごまかさなきゃ、と考えていたのだけど。『れんたま』の効果はどうも融通が利かないようで、自分の意思とは無関係にさらなる言葉が吐き出される。


「とにかく、これだけ頑張ったんだから、成績のほう、よろしく頼みますよ、先生!」


 うわうわうわ……。わたしってば、すっごく嫌な奴だ……!

 内心の焦りは、まったく表に現れることはない。


「ちょっと、あの、クリボー、もういいから、キャンセル……」


 ぼそりとつぶやいてみるも、


 ――う~ン、それがムリなんだよネ~。効果が切れるマデ、待つしかナイヨ。


 そ、そんなぁ~……。

 心の中で涙を流しながら、わたしは友人三人からも浴びせられる賞賛の声に、


「あっはっは、ま、わたしにかかれば、こんなもんよ! 崇め奉るがよいぞ、みなの衆!」


 なんて勝手に口走る始末。

 ひぃ~、あとで袋叩き決定かも~……。


 というわたしの考えは、ありがたいことに現実にはならなかった。

 よく見れば、パピコもパナップも大福ちゃんも、いつも以上の笑顔を輝かせている。


「いや~、ほんとよかった! マジ最高!」

「そうですね~。わたしたちも、つられて楽しく歌えましたよ」

「うん。ウチも思わず体が動き出しちゃったし!」


 三人とも、心からそう思って言ってくれているのが、一点の曇りもない澄みきった笑顔からうかがえた。

 わたしも自然と笑みがこぼれる。

 みんな、ありがとう……。

 そんな感謝の言葉は、『れんたま』効果のせいなのか、結局わたしの口から飛び出していくことはなかった。



 ☆☆☆☆☆



 ほどなくして、音楽の授業は終わりを告げる。

 チャイムの余韻が消えると同時に、わたしはいつもどおり、パピコたち三人と一緒に教室へと戻った。


 まだ『れんたま』の効果時間は過ぎていない。

 三人からの明るい賞賛の声は、いまだに途切れることなく続いていた。

 さすがにここまで褒めまくられると、ちょっと恥ずかしくなってくる。

 なんて思いが浮かぶくらいだから、そろそろ効果は切れ始めているのかもしれない。


 それでも、褒められるとやっぱり悪い気はしないもので。

 わたしは楽しくて嬉しくてなんとも言えない気分を抱え、三人の笑顔に応えていた。

 と、不意にパピコが笑顔を崩す。


「……でもさ、なんか……ピノじゃないみたいだったよな~」


 はしゃいでいた気持ちが、一気に冷める。

 他のふたりも、それにつられたのか、さーっと波が引くように笑顔が薄らいでいった。


「な……なに言ってるの! わたしはわたしだよ!」


 そう、これもわたしなんだ!

 魂をレンタルしてもらったとはいえ、わたし自身なんだ!

 自分に言い聞かせるも、納得なんてできるわけはなく。


「……こ、この話はここまで! さ、早く教室に帰ろう!」


 わたしは努めて明るく振舞いながら、無理矢理軽やかなステップを踏んで歩き出した。


 なんだかちょっと、嬉しいだけではない複雑な気分ではあったけど。

 でも、クリボーが言っていたことが本当だというのは、これでよくわかった。

 わたしは魂をレンタルしてもらって、自分の性格を変えることができるんだ!


 一回三十分という時間制限はあるし、「大切なもの」を引き換えにもしている。

 魂をレンタルするたびに寿命が減ってしまうことになるはずだ。

 そう考えると、怖くなってくる。


 だけど……。


 以前のわたしは、自分の意見だってろくに言えなかった。

 生きているか死んでいるかわからない、いてもいなくても変わらない状態だったとも表現できる。

 だったらこうやって、クリボーの力を借りて性格を変えるは、全然悪いことではない。

 それどころか、プラスに働いている。


 うん、そうよ。これからも、積極的に使っていくべきなのよ!


 クリボーはしばらくのあいだ、ついていてくれると言っていた。

 それはつまり、この先も『れんたま』してもらえるということだ。


「……クリボー、これからもよろしくね」


 ぼそっと小さくこぼした意思表示の言葉は、しっかりと背後の死神に届いていた。


 ――うム。こちらコソ、よろしく頼むヨ。


 背後からわたしの頭の中に答えを返してくれたクリボー。

 あまり抑揚のない感じの声で、事務的に答えただけの言葉だったとは思うのだけど。

 わたしにはなんとなく、クリボーが薄く笑っているように感じられてならなかった。


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