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れんたま  作者: 沙φ亜竜
終章 飾らず無理せず、自分らしく
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-2-

 わたしが自分の部屋に入ると、クリボーが姿を現した。


「ちゃんとわかってるカイ?」

「……え?」


 クリボーがなにを言っているのか、まったくわからなかった。

 フゥ、やっぱりネ、とクリボーはため息をつく。


「お母さん、いつもピノやお兄さんのコトを考えて、食事を作ってくれていたんダヨ?」

「え?」


 わたしは言葉を失う。

 だってお母さんは、わたしを嫌っていたはずだから……。

 でも確かに、ご飯はちゃんと作ってくれていた。

 ずっと、親だから仕方がなくやっているだけ、なんて思っていたけど……。


 思えばわたしは、食生活に関して不満に思ったことは一度もない。

 性格的には引っ込み思案すぎで問題ありだったけど、健康面の問題はまったくなかった。

 それもひとえに、お母さんの作る食事が、栄養バランスなんかもしっかりと考られていたおかげだったのだ。


「つけ加えるナラ、ここ最近、ピノが体力作りをしたりルームランナーで走ったり、トレーニングしているのを見て、カロリーが多めの食事に変えたりもしてたんダヨ」

「あっ、だから、お肉の料理が多くなってたんだ……」


 以前はどちらかといえば、お肉よりはお魚のほうが出てくる比率が高かったのに、考えてみると最近は連日のようにお肉がメインの料理を食べていた。


「バランスもタイセツだカラ、野菜も食べやすいヨウに細かくシテ、ふんだんに使ったりしてたんダヨ」

「うん。ご飯も、野菜の入った炊き込みご飯とか、多かったもんね……」


 一日三十品目食べるのが健康にいいと言われているけど、思い返してみれば、食卓には毎日もっとたくさんの食材を使った料理が並んでいた。


「お母さんは、わたしのこと、嫌っていたわけじゃ、ない……の……?」

「当たり前ダヨ。自分の子供を嫌いな親なんて、いるワケがない」


 クリボーが言うには。

 わたしは全然わかっていなかったけど、お母さんはずっとわたしやお兄ちゃんのことを見守ってくれていたらしい。


 だったらどうして、顔を合わせそうになったら、慌てて逃げていたのか?

 それは単に、お母さんが極度の人見知りだからだという。

 お父さん以外の人とは、たとえ息子や娘であってもなかなか話しかけられないほどに。

 なるほど、わたしの引っ込み思案な性格は、思いっきりお母さんからの遺伝だったのか。


 そして、そんなお母さんを支えるため、お父さんは頑張って働いていた。共働きなんて、できるはずもなかったからだ。

 ほとんど家に帰れないのは、土日もなく必死に働いていたからだったのだろう。

 一日だけとはいえ文化祭に来てくれたのは、実はかなり無理してくれた結果だったのかもしれない。


「ソレに、お兄さんのコトだって、ピノは全然わかってないダロ?」

「え……お兄ちゃん……?」


 高校を卒業してから一年間以上も働きに出ず、ほとんど部屋に引きこもっているお兄ちゃん。

 昔はよく一緒に遊んでいた仲よし兄妹だったけど、今では言葉を交わすことも少なくなっている。

 ここ数日は文化祭の話題もあって結構話した気がするけど、それもかなり稀な出来事だった。

 そのお兄ちゃんのことを、わたしはわかっていない……?


「確かにお兄さんは、ずっと部屋にコモってるヨ。でも、引きこもってるワケじゃナイ。ちゃんと仕事をしてるんダヨ」

「ええっ?」


 だけど、考えてみたら当たり前だったのかもしれない。

 お父さんもお母さんも、お兄ちゃんに対してなにも文句を言ったりしていなかったのだから。

 放任主義なだけだと思っていたけど、そうではなかったのだ。


 お兄ちゃんは、知り合いの会社に契約社員として雇われ、在宅勤務をしていた。部屋にあるパソコンでプログラムを組む仕事をしているらしい。

 その知り合いの会社はかなり小さな規模のようで、ほとんどがお兄ちゃんと同じく在宅勤務という形態で雇用されているのだという。

 パソコンがあれば、ボイスチャットを使ってリアルタイムで会話もできる。そうやって他の人たちと意思疎通や情報交換をしながら、お兄ちゃんは仕事をしていた。


 そういえば、他には誰もいないはずなのに、お兄ちゃんの部屋からなにやら話し声が聞こえてきたこともあったっけ。

 ゲームとかをしながら独り言でも喋ってるのかな、なんて考えて気味悪く思ったりもしていたけど、実際には仕事中だったのだ。


「イイ家族なんだカラ、タイセツにしなヨ?」


 そう言って、クリボーは屈託なく笑った。


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