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れんたま  作者: 沙φ亜竜
終章 飾らず無理せず、自分らしく
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-1-

 みんなと別れ、わたしはクリボーとふたり、帰路に就いた。

 歩きながらも勝手に頬が緩んでしまう。

 白熊くんと相思相愛になれたことで、この上ない幸せを感じていた。


 できればまだ一緒にいたかったけど、すでにかなり遅い時間になっていたから、今日のところは帰ろうという話になった。

 送ろうか? 白熊くんはそう言ってくれたけど、丁重に断った。クリボーがそっと袖を引っ張ったからだ。

 それはきっと、ふたりきりで話したい、という意思表示。

 白熊くんとの時間もほしかったけど、クリボーがいる状態では、どうせふたりきりにはなれないし。


 ふと隣を歩くクリボーに視線を向けてみる。

 クリボーもなんとなく満足そうな表情をしていた。


「……よかったネ」


 よかったね。白熊くんとのことを言っているのだろう。


「うん……」


 照れくさくはあったけど、素直に答える。

 クリボーが言っていた、決まりだから白熊くんを消さなくてはいけない、というのは真っ赤な嘘だった。

 それ以前に、わたしとクリボーの会話を、白熊くんは聞いてなんていなかった。

 パピコからお願いされた作戦を遂行するために、そう言ったにすぎなかったのだ。


 クリボーとしては、わたしが幸せを感じることも、望むべき結果につながると考えているらしい。


 どうしてクリボーは、わたしのそばにいてくれるのだろう?

 どうしてクリボーは、わたしに『れんたま』してくれるのだろう?


 疑問の声に、答えはなかった。


「ホラ、もう家に着いたヨ」


 代わりに前方を指差す。


「家族がピノを待ってるヨ」


 クリボーはそう言うと、すーっと姿を消した。


「ただいま~」


 玄関のドアを開けて中に入ると、家族三人が飛びかかるほどの勢いで飛び出してきた。


「おい、陽乃! 遅かったじゃないか! 大丈夫だったか!?」

「まったく、遅くなるなら言ってけよな、陽乃」


 お父さんが心配の声を叫ぶ。

 お兄ちゃんからは文句の声が飛ぶ。

 昨日は文化祭の見学に来てくれたけど、お父さんは今日、仕事だったはずだ。

 でも、もうこんな遅い時間になっている。わたしよりも先に帰ってきていたのだろう。


「……陽乃、お帰り。もう、心配かけさせないでよ……」


 続いて驚いたことに、お母さんが控えめに安堵の声をこぼしながら、その場にぺたりと座り込んだ。


「お母さん!?」

「ずっと心配してたんだぞ? そりゃあもう、泣きそうなくらいに」


 え……?

 お兄ちゃんの言葉に驚く。

 だって、お母さんはわたしのことを嫌っていて、だからほとんど話しかけてきたりもしなくて……。

 混乱してはいたけど、お母さんに心配をかけてしまったのはどうやら事実のようだ。


「ごめんなさい。文化祭の成功をね、みんなで集まって喜んでたの。ちょっとした打ち上げみたいな感じで……」


 少し嘘がまざってはいたけど、本当のことを言うのも恥ずかしいし、まったくの嘘というわけでもないし、と心の中で言い訳をしながら、わたしは家族に謝った。


「そうだったのか。それならそうと言ってから……。いや、まぁ、いいだろう。なんにせよ、無事でよかった」


 お父さんが文句をぶつけようとするのを途中でやめ、お母さんのそばに屈み込む。


「ええ、本当に……。さ、夕食の用意はできてるわ。ちょっと冷めてしまったけど……。みんなで、ご飯にしましょう」


 お母さんは、お父さんに支えられて立ち上がりながら、温かな笑顔を浮かべた。


 そのあと、わたしは家族四人で食卓を囲った。

 わたしがこの世に生を受けてから、初めてのことだったかもしれない。

 それは自然と会話が飛び交い、素直に楽しいと思える、本当の意味での一家団らんのひとときだった。


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