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みんなと別れ、わたしはクリボーとふたり、帰路に就いた。
歩きながらも勝手に頬が緩んでしまう。
白熊くんと相思相愛になれたことで、この上ない幸せを感じていた。
できればまだ一緒にいたかったけど、すでにかなり遅い時間になっていたから、今日のところは帰ろうという話になった。
送ろうか? 白熊くんはそう言ってくれたけど、丁重に断った。クリボーがそっと袖を引っ張ったからだ。
それはきっと、ふたりきりで話したい、という意思表示。
白熊くんとの時間もほしかったけど、クリボーがいる状態では、どうせふたりきりにはなれないし。
ふと隣を歩くクリボーに視線を向けてみる。
クリボーもなんとなく満足そうな表情をしていた。
「……よかったネ」
よかったね。白熊くんとのことを言っているのだろう。
「うん……」
照れくさくはあったけど、素直に答える。
クリボーが言っていた、決まりだから白熊くんを消さなくてはいけない、というのは真っ赤な嘘だった。
それ以前に、わたしとクリボーの会話を、白熊くんは聞いてなんていなかった。
パピコからお願いされた作戦を遂行するために、そう言ったにすぎなかったのだ。
クリボーとしては、わたしが幸せを感じることも、望むべき結果につながると考えているらしい。
どうしてクリボーは、わたしのそばにいてくれるのだろう?
どうしてクリボーは、わたしに『れんたま』してくれるのだろう?
疑問の声に、答えはなかった。
「ホラ、もう家に着いたヨ」
代わりに前方を指差す。
「家族がピノを待ってるヨ」
クリボーはそう言うと、すーっと姿を消した。
「ただいま~」
玄関のドアを開けて中に入ると、家族三人が飛びかかるほどの勢いで飛び出してきた。
「おい、陽乃! 遅かったじゃないか! 大丈夫だったか!?」
「まったく、遅くなるなら言ってけよな、陽乃」
お父さんが心配の声を叫ぶ。
お兄ちゃんからは文句の声が飛ぶ。
昨日は文化祭の見学に来てくれたけど、お父さんは今日、仕事だったはずだ。
でも、もうこんな遅い時間になっている。わたしよりも先に帰ってきていたのだろう。
「……陽乃、お帰り。もう、心配かけさせないでよ……」
続いて驚いたことに、お母さんが控えめに安堵の声をこぼしながら、その場にぺたりと座り込んだ。
「お母さん!?」
「ずっと心配してたんだぞ? そりゃあもう、泣きそうなくらいに」
え……?
お兄ちゃんの言葉に驚く。
だって、お母さんはわたしのことを嫌っていて、だからほとんど話しかけてきたりもしなくて……。
混乱してはいたけど、お母さんに心配をかけてしまったのはどうやら事実のようだ。
「ごめんなさい。文化祭の成功をね、みんなで集まって喜んでたの。ちょっとした打ち上げみたいな感じで……」
少し嘘がまざってはいたけど、本当のことを言うのも恥ずかしいし、まったくの嘘というわけでもないし、と心の中で言い訳をしながら、わたしは家族に謝った。
「そうだったのか。それならそうと言ってから……。いや、まぁ、いいだろう。なんにせよ、無事でよかった」
お父さんが文句をぶつけようとするのを途中でやめ、お母さんのそばに屈み込む。
「ええ、本当に……。さ、夕食の用意はできてるわ。ちょっと冷めてしまったけど……。みんなで、ご飯にしましょう」
お母さんは、お父さんに支えられて立ち上がりながら、温かな笑顔を浮かべた。
そのあと、わたしは家族四人で食卓を囲った。
わたしがこの世に生を受けてから、初めてのことだったかもしれない。
それは自然と会話が飛び交い、素直に楽しいと思える、本当の意味での一家団らんのひとときだった。