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れんたま  作者: 沙φ亜竜
第6章 毒リンゴを食べた、白雪姫みたいに
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-7-

「どうしてみんながいるの? それに先生まで……」


 まだ恥ずかしさは残っていたけど、いつまでもわけがわからないままでは納得がいかない。

 ある程度落ち着いてから、わたしは疑問の声をぶつけてみた。

 答えてくれたのは、牧村先生だった。


「わたしは今日、戸締り当番だったから。それで、みんなにお願いされて協力してたのよ」

「協力……?」

「ええ。桜庭さんの作戦にね」


 パピコの……作戦?

 先生の言葉を受け、わたしはパピコのほうに顔を向ける。

 パピコは一瞬肩をすくめる仕草を見せると、自分の考えた作戦について白状した。


「そう。今回のことはあたしの作戦。クリボーにもお願いして実現させた、カップルにしちゃえ大作戦だったのさ!」


 ぐっとこぶしを握り締めながら、力強くそう言い放つパピコ。

 ドーーーーーン! と、背後で火山が大噴火するような演出効果さえも見えそうなほどの勢い。

 それにしても、カップルにしちゃえ大作戦って。パピコ、ネーミングセンスないね。なんて言葉は口にしない。


 ちなみに。

 まず、誰もいなくなったあと、白熊くんはあらかじめ教室に戻り、待機しておく。

 わたしとクリボーは一旦家に帰る。しばらく待機したのち、学校から他の生徒たちが誰もいなくなる頃合いを見計らって、クリボーがわたしを連れ出し、そのまま教室まで向かう。

 教室に入ると白熊くんが倒れている。それを目にすれば、わたしはきっと取り乱すはず。

 そこでクリボーが、「白熊くんを目覚めさせるには、お姫さまのキスが必要だ」みたいな感じのことを言ってわたしを騙し、キスさせてしまおう。

 というのが、パピコの作戦だった。


 なんというか、作戦って言えるほどなのかな、と思わなくもない。パピコらしいとは思うけど……。

 それに、現実とは少し違っているし。

 どうやら細かい部分はクリボーに任せていたようだから、おそらくクリボーはクリボーなりに考えて、こう言ったほうが効果的だ、という内容に変更してわたしを騙したのだろう。


 校舎内に入ったわたしが職員室の前を通ったとき、牧村先生だけじゃなく、パピコたち三人も職員室にいたらしい。

 そしてわたしが通り抜けたあと、少し離れて、気づかれないように追いかけてきた。

 あとは教室でキスしているわたしと白熊くんを目撃、囃し立ててくっつけてしまえば万事OK、という目論みだった。


「それにしても、見事に引っかかってくれたよな! いや~、あたしの作戦の完璧さ、マジすごくね?」


 満足そうに笑っているパピコだったけど、作戦が成功したのは、パピコの作戦がよかったからじゃないと思うよ……?

 なんて言葉も、もちろん呑み込んでおいた。


 実はパピコの作戦はそれだけではなく、もっと以前からいろいろと手を回していたようだ。


「ピノの気持ちには気づいてたけどさ、中学からずっと進展しないんだもんな。恥ずかしがってなかなか話もできないくらいだし。ここはもう、あたしらが手伝うしかないじゃん! って思ってね。

 で、白熊にも聞いてみたのさ。遊歩公園で一緒に遊んで、家に帰ったあとだったかな。そしたら案の定、ピノのこと、好きだって白状した。……ま、だいたいわかってたけどな。

 とにかくそういうわけで、あたしは今回の作戦を立てたってわけ! マジ、世話が焼けるったらないよな!」


 パピコは得意げに語る。

 やっぱり彼女はわたしの想いに気づいてくれていたのだ。

 おそらくはパナップと大福ちゃんも、パピコの作戦にいろいろと関わってきたに違いない。


 また、文化祭の出し物であるバンド喫茶さえも、作戦の一部を担っていたのだという。

 バンド喫茶になったことは、さすがにパピコたちの作戦ではなかったけど、わたしがステージで転んだこと、あれは作戦のうちだった。


「ハイヒールを履かせてたからな。足もとの覚束ないピノなら、絶対転ぶって思ってさ。そんで、白熊にはステージのそばにいてもらって、素早く王子様みたいに助けに入る。そういう作戦だったってわけだ!」


 パピコは、かっかっかと笑いながら「どうだい、あたしの作戦は? マジ最高だろう?」とでも言いたそうに胸を張る。

 ……だけどそれだって、転んだのを助けるんじゃなくて、衣装のスカートが破けてしまったのをお姫様抱っこで助けてもらった形だったし。パピコの作戦どおりだったとは言えないんじゃ……?

 そんなことを考えているわたしに、白熊くんが再び謝罪の言葉を述べる。


「こめんね、騙しちゃって」

「ううん、いいよ。っていうか、その、ホントにホント……なの?」


 わたしのこと、好きっていうのは、ホントなの? と言いたかったのに、わたしは完全に焦ってしまっていた。

 言葉は足りなかったけど、言いたいことはしっかり伝わったようで、


「うん……」


 白熊くんは頬を染めながら答えてくれた。


「わたしも……好き……」


 パピコから作戦の内容を聞いていたはずだから、すでに知ってはいたと思う。

 でも、言葉こそ少なかったものの、わたしは自分の口から愛しの白熊くんへ、今度はステージ上のセリフなんかではなく、しっかりと素直な想いとして伝えることができた。

 見つめ合う、わたしと白熊くん。


「ラブラブですね~」


 うっとりとした大福ちゃんの声が響く。

 さらには、


「そんじゃ、改めてもう一回、今度はちゃんとキスしちゃえ! ほれほれ! あたしたちは気にせず、ぶちゅ~~~っと!」


 当然のように続く、わたしたちを冷やかすようなパピコのはしゃいだ声……。


「そ……そんなこと、できるか~~~~!」


 わたしは真っ赤な顔を隠しもせずに、両手でポカポカとパピコを叩き続ける。

 夜も更けて寂しいはずの一年七組の教室には今、ほんのり甘酸っぱくて、とっても温かな空気がいっぱいに満ち溢れていた。


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