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れんたま  作者: 沙φ亜竜
第6章 毒リンゴを食べた、白雪姫みたいに
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-5-

 正門まで近寄ってみると、当たり前だけど門は閉まっていた。

 時間はおそらく、もう九時を過ぎている頃だろう。

 それでも、職員室の明かりが点いていたわけだから、少なくとも誰か先生が残っているのは確かだ。

 ということは……。


 わたしは正門のすぐ横まで移動してみる。

 やっぱり。

 正門は閉まっていても、通用門はまだ開いていた。


 ためらうことなく、わたしは門の中へと自分の身を滑り込ませる。

 なんとなく、ひんやりとした空気に変わったと感じたのは、わたしの気のせいだろうか。


 念のため周囲に目を光らせ、足音を立てないようにこそこそと校舎へと近づく。

 普段使っている昇降口に向かってみたものの、カギがかけられていて入れなかった。

 とすると、開いているとすれば、職員玄関くらいだろうか。


 わたしは職員玄関へと忍び寄る。

 案の定、カギは開いていた。


 ただ、そのすぐそばに職員室がある。

 おそらく残っている先生はひとりだけ。職員室の自分の机で、なにか作業をしているとか、そんなところだろう。

 だとすると、静寂の中にいると考えられる。

 つまり、ちょっとでも物音を立てれば気づかれてしまう可能性が高い、ということだ。


 もし気づかれたら、早く帰れと怒鳴られながら職員玄関まで連れていかれ、強制的に外に出されてしまうに違いない。

 さすがに先生に抗う勇気なんて、わたしにはなかった。


 わたしは慎重にドアを開けると、靴を脱いで片手に持ち、抜き足差し足で廊下まで歩みを進める。

 靴を持っているのは、職員玄関に置いておくわけにもいかないからだ。


 小さくひとつ深呼吸。

 職員玄関があるこの場所は、特別教室棟一階の一番端っこ。なお、こちら側の端っこには階段がない。

 構造上、職員室前の廊下を通らないと、昇降口のある渡り廊下まで行けないのだ。

 目指す教室棟は、渡り廊下のさらに先にあるわけだから、職員室前の廊下を避けては通れないことになる。


 わたしは意を決して、一歩、また一歩と、忍び歩く。

 靴下をすすすっと滑らせるように足を繰り出しながら、ゆっくりと慎重に進む。

 汗が頬を伝って、そのまま地面に落ちる。その音さえも、大きく響き渡ってしまうのではないかと心配になるくらい、辺りは静寂に包まれていた。


 早く教室まで行かなくちゃいけないのに、急ぐことができないもどかしさ。

 職員室前の廊下なんて、ほんの十数メートル程度でしかないはずなのに、永遠に続くかと思えるほど長い時間を費やしたように思えた。

 ともかく、難関は越えたようだ。ほっと息をつく。


 廊下をさらにしばらく進み、角を曲がって渡り廊下に差しかかるまでは、慎重に足を滑らせていたものの、もうそれも限界だった。

 わたしは駆け出し、自分の教室へと一目散に向かう。

 靴下のままだったから、何度もバランスを崩して転びそうになってしまったけど。

 こんなことなら、下駄箱に靴を置いて、上履きを履いてくるべきだったかな。靴を持ったままだというのも、バランスを崩す原因になっていると思うし。


 でも、そんなことを今さら言っても仕方がない。

 早くしないと、すべてが「終わって」しまうかもしれないのだから。


 教室棟は三階建て。一年生の教室は三階にある。


 白熊くん、無事でいて!

 クリボー、「消す」なんて恐ろしいこと、お願いだからやめて!


 心の中で叫びながら、わたしは階段を駆け上がる。

 三階の廊下に出て、視線を一番奥の目的地、すなわちわたしたちの教室のほうへと向ける。

 暗い廊下に、煌々と明かりが漏れていた。


 白熊くんとクリボーは、やっぱりあそこにいる!


 姿が見えるわけではなかったけど、確信めいた思いがわたしにはあった。

 一瞬の間すら置かず、ダッシュを再開。

 わたしのすぐ横を、通過点の教室が流れてゆく。


 一年三組、四組……。

 もう少し!


 五組、六組……。

 あと少し!


 ……七組!

 わたしは教室のドアに手をかける。

 と同時に、躊躇することなく思いっきり横に引いた。


 ガラガラガラ!

 乾いた大きな音を立てて、ドアは開け放たれる。

 明かりのまぶしさに目がくらみながらも、教室内の光景を脳裏に焼きつけ、瞬時に状況を把握しようとする。


 思っていたとおり、そこには、白熊くんとクリボーがいた。

 クリボーはじっと視線を落としたまま立ちすくんでいる。

 その視線の先には、仰向けに倒れた白熊くんの姿が――。


「白熊くん!」


 わたしは持ったままだった靴を放り投げ、白熊くんに飛びつかんばかりの勢いで駆け寄った。


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