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れんたま  作者: 沙φ亜竜
第1章 ポップでノリノリな、YUUI(ユーイ)さんみたいに
3/45

-3-

 雨は途絶えることなく降り続く。

 わたしの心の中までをも、じとじとと湿らせてゆくかのように。


 畑が広がる一角に建っていた、年季の入った木造の小屋。

 わたしはとりあえず、雨宿りできる場所を探してここまで退避してきた。

 中には農作業に使うような道具が納められているのだと思う。ドアには南京錠がかけられていて、開けることはできなかったけど。

 ドアのすぐ上にはひさしがあるため、今現在求めている用途としては申し分なかった。


 わたしと、濡れるのかはわからないけど、この人とふたりだったら充分に雨をしのげる。

 もっとも目の前にいるのは、どうやら人ではなさそうだけど……。


「えっと、死神さん……でいいのかな……?」

「ウム、オレハシニガミダ」


 わたしの問いかけに、素直に応じてくれる死神さん。


「ふ~ん、そうなんだ……」


 意外と冷静に言葉を返すわたしではあったけど、落ち着いて対応しているというよりは、これは夢なのかな~とぼんやり考えながら現実逃避モード実施中といった感じだった。

 あまり頭が働いてない状態とはいえ、わざわざここまでこの死神さんを引っ張ってきたのだから、いろいろと訊いてはおきたい。

 わたしは意を決して質問を開始する。


「さっき、力を貸すとか言ってた?」

「アア、イッタゾ」


 やっぱり、聞き間違いではなかったのだ。

 だけど……いったい死神さんが、どのようにして力を貸してくれるというのだろう?

 もしかして、ノートに名前を書いた人を殺せるとか……?

 そ、そんな怖いこと、わたしにはできない……!


 青い顔で震えるわたしに、死神さんは笑いながら言う。


「ドウシタ? オレガコワイカ? ソウダロウナ……ダガ」

「あ……死神さんのことは、なんだかあまり怖くないです」


 思わず本音で返していた。

 現実逃避しているからなのか、わたしは死神さんには全然恐怖を感じたりはしていなかったのだ。

 人知を超えた力とかを与えられちゃったりしたら怖いなぁ、とは思っていたのだけど。


「ナ……ッ!? オマエ、ケッコウズブトイシンケイシテルンダナ」

「……こんなか弱い女の子に向かって、失礼です」


 クラスメイトにだって強く言い返したりできないのに、なぜだか妙に強気になる。

 どうしてなんだろう?


「ア~、ソウカ。スデニチカラガモレテ、ドウチョウシチマッテルンダナ」


 え~っと、力が漏れて、同調してる?


「それってどういうことですか?」


 わたしの疑問を、死神さんは一蹴する。


「ソンナコトヨリモ、チカラヲカシテヤル、ッテハナシニモドスゾ」


 最初の質問に戻った形だし、それはそれでいいかと納得する。

 わたしは小さく頷いた。


「オレガオマエニ、タマシイヲレンタルシテヤルノサ。ソレニヨッテオマエハ、ジブンイガイノセイカクニナレル」


 さっきからずっと思っていたけど、発音の仕方が違うのか、死神さんの言葉は非常に聞き取りにくかった。

 少しずつ頭の中で反芻し、意味を理解してみる。


 え~っと、「オレがお前に、魂をレンタルしてやるのさ。それによってお前は、自分以外の性格になれる」ってところかな?


 …………。


「ほ……ほんとにっ!?」


 わたしは死神さんの話に飛びかかる勢いで食いついた。


「ア……アア、ホントウサ。モチロン、タダッテワケニハ、イカナイガ」


 ニヤリ。

 深い暗闇の顔が、微かに笑みを浮かべたように見えた。


「それって……」


 死神さんとの、取引ってこと……?

 つまりは、寿命やら魂やらを吸い取られてしまうとか……。

 あっ、レンタルしてくれる魂って、そうやって手に入れたものだったりするのかな?


 不安をありありと浮かべたわたしに、死神さんは再確認するかのように言い放つ。


「タイセツナモノヲ、イタダカセテモラウ」


 大切なもの……。

 言葉を濁してはいるけど、それってやっぱり……。


「命を代償に……ってこと?」

「マァ、ソウイウコトニナルナ。ダガ、アンシンシロ。イタダクトイッテモ、スコシダケダ」


 恐る恐るしぼり出したつぶやきに、死神さんからは予想どおりの答えが返ってきた。

 少しだけと言われても、魂を吸い取られてしまうとか、そういうのはさすがに怖い……。

 わたしの苦悩をよそに、死神さんはさらに聞き取りにくい言葉を続ける。


「ケイヤクスレバ、シバラクノアイダ、オマエノソバニツイテイテヤル。オマエガノゾムカギリ、ナンドデモレンタルシテヤルゾ?」


 再び頭の中で反芻する。「契約すれば、しばらくのあいだ、お前のそばについていてやる。お前が望む限り、何度でもレンタルしてやるぞ?」か。

 それは、とても魅惑的なささやきだった。


 恐怖心がわたしの胸の中いっぱいに広がっていたのは確かだ。

 だけどわたしは元来、暗くてはっきりしない性格をしている。この性格を、変えられるかもしれないと考えたら、そんな恐怖心も薄れてしまうというものだ。

 ずっと性格を変えたままにするのは、寿命を吸い取られ続けるってことになるだろうから危険すぎるし、絶対に却下だとしても。

 何度か魂を貸してもらったりしていれば、自分を変えるきっかけくらいにはなるはずだ。


 大丈夫……。

 誘惑に負けないで、無理しないように気をつければ、きっと……。


 ごくり。

 ツバを飲み込む。

 そしてわたしは、口を開いた。


「う……うん、それじゃあ、お願いします……」

「ヨシ、ケイヤクセイリツダ!」


 真っ黒な死神さんは、なんだかとっても嬉しそうに弾んだ声を響かせた。


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