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れんたま  作者: 沙φ亜竜
第4章 優雅な歌姫、アユカさんみたいに
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-7-

 昔……といっても、中学生の頃の話だけど。

 わたしとパピコ、そして白熊くんは、いつでも三人一緒だった。


 中一でパピコと同じクラスになり、わたしのすぐ前の席だった彼女が話しかけてくれて、お友達になった。

 今は少しマシになったと思うけど、当時のわたしは尋常でないほどの人見知りだった。

 人と対面しただけで、じわりと涙が溢れてしまうくらいに。


 人見知りなだけじゃなく、泣き虫でもあったわたし。

 あのときパピコが話しかけてくれなかったら、ずっと寂しい学校生活が続いていたに違いない。

 パピコにはどれだけ感謝しても足りないと、わたしは思っている。

 面白がってからかわれちゃうことが多いのは、少々不満ではあるのだけど……。


 ともかく、パピコと仲よくなったわたしは、そのまま自然と白熊くんとも仲よくなった。

 パピコと白熊くんは、小学校入学当時からの知り合いだったらしい。

 幼稚園こそ違ったものの、幼馴染みと言っても差し支えない間柄だ。


 そんなふたりだから、中一になったそのときも、お互いに気兼ねなく話したりふざけたり殴ったり(これはパピコだけだけど)できる関係だった。

 当然、教室の中でも仲よく喋っていたふたり。

 わたしはパピコの後ろの席で、彼女とは友達になっていたわけだから、なし崩し的にわたしも白熊くんとの会話にも巻き込まれていった。


 それほど頻繁にではなかったけど、わたしのほうから白熊くんに話しかけることだってあった。

 おとなしくて泣き虫なわたしを、いつでも笑顔にしてくれたのは、白熊くんの優しくて爽やかな声だった。


 今でこそ我慢するようになってはいるけど、当時のわたしはまだ泣くことが多かった。

 小学校の頃は、一週間に一、二回くらいは泣いていたんじゃないかと思う。

 それは中学に入ってもあまり変わらず、さすがに涙を流す回数は減ってきていたけど、それでも何度泣き顔を白熊くんに見られてしまったことか……。

 そんなとき、白熊くんはわたしの背中にそっと手を添えて、なにも言わずにそばにいてくれた。


 背中を伝ってほのかに感じられる白熊くんの温もり。

 温かく包み込んでくれるふんわりとした優しさが、わたしの心の涙を拭ってくれた。

 心の涙が止まれば、瞳からこぼれ落ちる雫もすぐに乾く。

 ただ、タイミングがいつも悪かったりして、


「あっ、こら、白熊! なにピノを泣かしてんのさ!」


 と勘違いしたパピコがドカドカと音を立てながら近づいてきて、白熊くんを怒鳴りつけた、なんてこともよくあったっけ。

 慰めてもらっていたのに、白熊くんが怒鳴られてしまうなんて……。

 さすがのわたしでも黙って見てはいられなくて、


「ち、違うよっ。白熊くんは、慰めてくれてたのっ!」

「……へ~」


 すかさず放った弁解の言葉に、パピコは一瞬驚きながらも、すぐに笑顔に切り替えてわたしに視線を向けてくる、といったこともあった。

 思えばこの頃から、パピコはわたしの想いに気づいていたのかもしれない。


 もっとも、白熊くん本人は全然気づいてくれないけど。

 ちょっと、というかかなり、ぼーっとしている感じなんだよね、白熊くんって。ぼんやりというか、ぼんよりというか……。

 でも、そんなところもなんとなく心地よくて、惹かれている原因になっていると思うし、だいたいそれ以前に、気づかれたら恥ずかしいし……。


 高校に入ってからは、男子は男子で固まっていることが多くて、喋る機会は格段に減ってしまったけど。

 焦る必要なんてないよね。


 思いきって告白できるようになるまでは、今までどおりでいいや、とわたしは考えている。

 白熊くんの優しい笑顔を、ただ遠くから眺めているだけでも幸せなのだから……。

 パピコのおかげでもあるけど、さっきの教室での会話みたいに白熊くんとお喋りできる機会だって、それなりにあるわけだし。


 ふふっ、そういえば白熊くん、わたしのとをを見ていてくれたみたいな言い方をしてたよね。

 ……嬉しいな。わたしと、同じだ。

 教室でわたしだけに向けてくれた笑顔を思い出し、知らぬ間に顔の筋肉が緩む。


「ナニひとりで笑ってるんダイ?」

「きゃっ! な……なんでもないよっ!」


 突然横から割り込んできたクリボーの声に、わたしは飛び上がらんばかりの反応を示してしまった。

 家に帰って自分の部屋にこもり、着替えるのも忘れてベッドに腰かけたわたしは、ずーっと過去の思い出にふけって、ひとりで百面相をしていたと思われる。

 うん、そりゃあ、クリボーじゃなくたって、ツッコミを入れたくもなるよね……。


 とはいえ、さすがに恥ずかしさで赤面していたわたし。


「あ~、のど渇いちゃった! ジュースでも取ってこよ~っと。クリボーもいる?」

「うン、ほしい!」

「はいはい、了解!」


 そうやって逃げ出すようにそそくさと部屋をあとにした。


 ……階段を降りて台所に入ろうとしたところで、お母さんと鉢合わせして、まだ真っ赤なままだった顔をばっちり見られてしまうことになるなんて、まったく想定外の出来事だった。


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