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れんたま  作者: 沙φ亜竜
第4章 優雅な歌姫、アユカさんみたいに
23/45

-2-

「それじゃ、バンドのメンバーに決まった人たちは、グループごとにそれぞれの役割分担を決めておいてね。それ以外の人たちは、また改めて会議をして役割を決めましょう」


 生徒たちの会議を黙って聞いていた牧村先生が最後にそう言葉を添え、ロングホームルームは締めくくられた。

 なんだかみんな、すごく盛り上がっちゃって、意外と時間がかかっていたみたい。


 まぁ、それはともかく。

 わたしにはそんなことより、もっと別に考えなくてはいけない問題があった。

 クラスの総意として決定された、バンドメンバーに選ばれてしまった件についてだ。


「よっし、そんじゃ、ちゃちゃっと分担決めちゃうかね!」


 パピコが声を上げる。

 すぐそばには当然のように、パナップと大福ちゃんも集まってきていた。

 いつものメンバーであり、そしてわたしと同じバンドのメンバーということになる。


「あ……あの、わたしは、あまり目立たないのが、いいな……」


 わたしの弱々しい申し出に、三人は目を丸くする。


「アホか! 目立たないボーカルがいるかっての!」

「そうだよ! 真ん中に立って盛り上げる一番重要な役割なんだから!」

「そうですね。ピノリーダー、頑張ってください」


 ……どうやら、わたしがボーカルを務めるというのは、決定事項のようだった。

 というか、リーダーって!


「ちょ……! あの、わたし、リーダーなんて絶対に無理だから……」

「なに言ってんだよ! こないだの音楽とか体育祭のリレーとかの勢いはどこに行ったのさ!?」


 わたしの訴えは、パピコによってあっさりと退けられた。

 と思ったら、


「な~んてな! 安心しろ、リーダーなんて肩書きだけだから! ボーカルがリーダーのほうが、それっぽいだろ? 誰もピノにリーダー役なんて期待してないって!」


 などとピシャリと言ってのけるパピコ。

 そ……それはそれで、なんだかちょっと、悔しいというか、悲しいというか……。

 とはいえ、そんなのいつものことだし、わたしは胸を撫で下ろす。


 続いてわたしたちは、それぞれの担当を決めていった。


 まず、パナップがキーボード。

 ピアノを習っていたらしいから、まさに適任って感じ。

 もちろん、ピアノが用意できたら一番いいわけだけど、教室を使う以上それは難しいし、だいたいバンドなんだから、ピアノは普通ないよね。

 オリジナリティを強調して、という方向性にするって手もあるけど、わたしたちの他にふた組のバンドがいて、楽器も共用する予定あのだから、使える楽器はほとんど決まっているも同然だった。


 それから、大福ちゃんがドラムで、パピコはギター担当になった。

 わたしがボーカルなのは確定だから、これで全員の役割が決定したことになる。

 パピコは中学時代にペースをやっていたことがあるのだとか。家には自前のベースもあるらしい。

 だから、できることならパピコがベースで、わたしがギター兼ボーカル、っていうのがベストだという話だったけど。


「ま、ピノに楽器なんかできるわけないってのは、みんなわかってるからさ!」


 パピコが歯に衣着せぬ物言いで言い放つ。

 うん、そうだよ! そのとおりだよ! 自分自身でも自信満々に胸を張って答えられるよ! ……ちょっと情けないとは思うけど。


 ちなみに、コーラスはわたし以外の三人で分担。

 音楽の授業のとき、恥ずかしながらわたしが一番目立ってはいたけど、三人のハモリも好評だったから、それなりに期待されているらしい。


「そんじゃ、みんな、精いっぱい頑張ろう!」

「お、お~……」


 気合いの声を促すパピコに、わたしはいつもどおりの気弱な調子で答えることしかできない。

 すかさず、パピコによって思いっきり遠慮のない平手打ちが繰り出され、わたしの後頭部は非常に素晴らしい音を響かせることになってしまったのだけど。



 ☆☆☆☆☆



 放課後、勢いに乗っているからか、早速練習を開始しようという流れになった。

 帰りのホームルームのあと、担任で音楽教師でもある牧村先生に、音楽室の使用許可をお願いしてみたところ、あっさりとOKをもらえた。

 過去に軽音楽部があった名残で、バンドで使うような楽器も音楽室に残っているというので、それを使わせてもらえることにまでなった。

 もっとも、ちょっと古い上にあまり手入れをされてないから、自分たちで綺麗にして使ってねと、掃除命令まで出されてしまったのだけど。


 それはともかく、こうしてわたしたちは音楽室での練習を始めた。

 でも、その練習が問題なく順調に進むはずはなかったのだ。

 わたしが音楽の授業で褒められたのは、『れんたま』してもらっていたからで……。

 普通に歌ったらどうなるかなんて、今さら改めて言うまでもなく。


「ん~~~~~~……」


 試しに一回セッションしてみよう、全然合わなくても構わないから、とスタートしてほんの十数秒程度で、みんなの楽器の音が止まり、パピコの唸るような声が発せられた。


「ダメじゃん、ピノ。声全然出てないよ? 音楽のときの勢いはどうしたのさ?」

「そ……そんなこと言ったって~……」


 練習のときから『れんたま』してもらっていたら、それこそ命がいくつあっても足りない。

 だから、練習するとしても、そのときは普段どおりのわたしでしかないわけで。

 いくら聴衆がいない状態の練習とはいえ、大声で歌うなんて、わたしには所詮無理だったのだ。


「なんか、前途多難だね!」


 パナップはなぜかちょっと嬉しそうだった。

 彼女はきっと、困難があればあるほど燃えるタイプなのだろう。

 だけど、パピコはため息をついているし、穏やかな大福ちゃんも、「これは少々大変ですね」なんて言いながら苦笑している。


「うう、ごめんなさい……」


 わたしはひたすら、謝ることしかできなかった。

 こうなると、結果は見えている。


「謝ってるヒマがあったら、しっかり練習せ~い!」


 スパコーンといい音を立て、またしてもパピコから後頭部への平手打ちを食らう羽目になってしまうのだった。


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