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れんたま  作者: 沙φ亜竜
第4章 優雅な歌姫、アユカさんみたいに
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-1-

 体育祭が終わると、めっきり秋めいてくるのって、いったいなぜだろう。

 天の神様も、声援に疲れてしまうからかな?

 なんてくだらないことを考えていると、決まってクリボーからツッコミが入る。


「ちょうど、そうイウ時期に合わせて体育祭が開催されてるだけナンじゃないカナ?」


 もちろんわたしは、思いっきり無視。

 夢のない言葉になんて、わたしは反応しないのだ。

 最近なんだかうるさいくらいにツッコミを入れてくるから、鬱陶しくなっている、という理由もあるのだけど。


 クリボーのほうも、わたしが相手にしないとわかると、ぶつくさ言いながらも静かになることが多い。

 いじけちゃうこともあるし、意地悪しすぎるのもかわいそうだ。

 だからそういうときは、あとで「ごめんね」って謝りながら、甘いお菓子とか……とくに大好物になりつつあるキャラメルなんかをあげたりする。

 そうすると、一気に雲が晴れ、輝くほどの青空を背負った太陽のような笑顔を向けてくれる。


 ……え~っと、クリボーって死神なんじゃなかったっけ……?

 ほとんど幼い子供みたいな感じになっちゃってるけど、それはそれで可愛くていいかな、なんて思っている。

 もっとも、『れんたま』してもらったら代償が必要なのは変わっていないわけだし、気を許しすぎなのかもしれないけど……。


 ともかく、そんな秋めいた空を眺めながら、ぼーっとしているわたし。

 今日のロングホームルームの議題は、体育祭の次に控える大イベント、学園祭の出し物についてだった。

 クラス委員長であるパナップが教壇に立って議論を進めている。

 副委員長の秋本くんが書記役に徹し、クラスメイトから提案された出し物を黒板に書き連ねていく。


 わたしがぼーっと空を眺めているのは、とくにこれといって案もないから。

 クラス会議で決まった結果にただ従うだけで、わたしとしてはべつに不満はない。

 みんなのやりたいことが、わたしとイコールになるわけではないだろうけど、わたし自身になんの主張もない以上、おとなしくしていればいい。


 というか、挙手してみんなの前で発言するなんて、できる限り避けたいし。

 いざとなったら『れんたま』を使えばいいという余裕があるとはいえ、根本的な性格まで変わるわけじゃないのだ。


「相変わらず、こういうときのピノは、やる気なさそうだな~」


 後ろの席から、パピコがわたしの髪の毛をいじくりながら、そんなことをつぶやく声が聞こえてきたけど。


「だって、べつにやりたいことなんてないし……」


 無気力な答えを返すだけのわたしに、パピコは苦笑まじりのため息をこぼしていた。


 わたしが無気力でも、委員長のパナップが頑張っているのだから、会議は滞りなく順調に進んでいくわけで。

 だからわたしは、いつものように黙って成り行きを見守りながら、せめてパナップを心の中で応援しておこう、なんて考えていたのだけど。

 このあと、そうも言っていられない展開が待ち受けていようとは……。


 会議は進み、黒板にはクラスメイトからの出し物案がいくつも書き出されていた。

 並んでいる案は、どうもありきたりなものばかり。

 喫茶店、お化け屋敷、縁日、迷路、劇、映画上映、などなど。


 わたしとしては、奇をてらった驚きの出し物なんかより、ありきたりなのでいいと思っているから、全然文句なんかなかった。

 そもそも、他の人が出してくれた案に乗っからせてもらうというスタンスなのだから、文句を言える立場でもない。

 これから多数決でも取って、どれかひとつに決まって、それに向けて準備の日々が始まる。


 会議の終わり時間も、そろそろ近いかな。早く終わらないかな~。

 などと完全に無関心を決め込んでいたのが悪かったのだろうか。

 不意にクラスメイトからこんな提案が示された。


「喫茶店ってのに便乗だけどさ、せっかくだからバンド喫茶にしない?」


 最近なにやらガールズバンドが流行っているというのもあってか、教室内がにわかにざわめき始める。

 今回の議題が提示されてから、一番の盛り上がりだったかもしれない。

 パナップが、「発言は挙手してからお願いします!」と声を荒げている。

 口々に繰り出される中には、反対意見もないわけでもなかったけど、どうやらほとんどが好意的な意見のようで。


「お~、いいじゃん!」

「軽食とかを食べながら、バンドの演奏を聴くのね。うるさすぎるとかは、気にならないかな?」

「最初からそういう喫茶店だって、しっかり断っておけば大丈夫だろ!」

「うん、そうね!」


 とかなんとか。

 クラスメイトたちは歓迎ムード一色。


 その流れから、わざわざ決を取る必要もなさそうではあった。

 でも、パナップはしっかりと確認する意味合いもあってか、多数決を決行する。

 結果はほぼ全会一致での可決。賛成票に挙げられた手の多さには、さすがのパナップも苦笑を浮かべながら、「これは数えるまでもないね」とこぼしていた。


 というわけで、圧倒的得票数をもって、わたしたちのクラスの出し物はバンド喫茶に決定と相成った。

 黒板に書かれた『喫茶店』の文字の下に、すぐさまカッコ書きで(バンド喫茶)とつけ加えられる。

 ……と、ここまではまぁ、よかったのだけど。


「バンドは何組かいたほうがいいよね? そうじゃないと交代もできないし」

「そうだね。三組くらいはほしいかな?」

「喫茶店のスタッフも必要だし、そんなもんかな?」

「それじゃあ、とりあえずボーカル三人、決めておく?」


 すでに議長であるパナップが口出すまでもなく、議論は進んでいく。

 そしてクラスメイトから、こんな意見が飛び出した。


「雫宮さんがいいんじゃない?」


 ……えっ?

 ぼーっとしながら聞いていたわたしは、いきなり自分の名前が呼ばれたことで呆然としてしまう。

 ただ、わたしが困惑していようとも、クラスメイトたちの勢いが止まるはずもなく。


「あっ、いいんじゃね?」

「うんうん、そうね! 音楽の授業のとき、すごくよかったもん!」

「よし、まずひとり決定!」


 勝手に話は進んでしまい、秋本くんがしっかりと黒板にわたしの名前を書き留める。


「雫宮さんのボーカルなら、他のメンバーはいつもの桜庭さんたちグループかな?」

「そうだね、それも決定で!」


 なにやらわたしだけじゃなく、パピコもパナップも大福ちゃんも決定のようで、同じように黒板に名前を書かれていた。

 パピコたちは、それでいいのかな……?

 わたしが振り向いて疑問を含めた目を向けると、パピコはしっかりと察してくれたようで、


「ここまで期待されちゃ、やるっきゃないよな! マジ頑張ろーぜ、ピノ!」


 と言いながら、ウィンクを返してくれた。


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