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れんたま  作者: 沙φ亜竜
第3章 美人ランナー、有森尚子さんみたいに
20/45

-6-

 わたしは走る。

 白熊くんから渡されたバトンを、この手にしっかりと握りしめて。


「雫宮さん、頑張って~!」


 走り終わったばかりでつらいはずなのに、白熊くんからの声援も背後から聞こえてくる。

 うん、任せて!

 さすがに声を返す余裕はなかったけど、わたしは心の中で声援に応える。

 クリボーに頼んで『れんたま』してもらっている今、わたしはランナーの有森尚子さんなのだから。


 わたしは風になる!


 そりゃあ、運動が苦手でどちらかといえば鈍くさいわたしだから、いくら頑張ったところで、ぶっちぎりのトップを快走なんてことになるはずはないけど。


 それでも、みんなの声援が後押ししてくれる!

 白熊くんの応援が、わたしの気力を極限まで高めてくれる!

 風もわたしの背中を押してくれる!


 クリボーの気配も、背後から感じられる。つまり、死神の力までをも背負っているのだ!

 もしかしたら『れんたま』効果で、有森尚子さん本人も応援してくれているかも!

 ……いや、まぁ、それはないと思うけど。


 ともかく、クラスメイトの勝ちたいという願いが、今わたしの足を動かしている。

 さすがにアンカーは足の速い人に任せるのが普通だから、差はどんどんと縮まってきていた。

 だけど、風と声援の勢いに乗り、気持ちもノリにノッているわたしは、自分でも驚くほど軽やかに走っている状態だった。


 半分の二百メートルを走りきった時点で、まだトップのまま、二番手との差は十メートル近くあった。

 ともあれ、さすがに四百メートルを全力疾走できるほどの体力はない。

 明らかに速度が落ち始めているわたしの背後に、足音が大きく響いてくるようになる。


 苦しい……!

 でも……ここは踏んばらなきゃダメ!

 今までのみんなの頑張りを、無駄にするわけにはいかないもん!


「ピノ、行け~~~~! 気ぃ抜くな~~~~~!」

「追いつかれてきてる~! もうひと踏んばりだよ~!」

「頑張って~! ファイトです~!」


 パピコが、パナップが、大福ちゃんが、それぞれに声援を送ってくれる。


「落ち着いて~、無理しなくていいよ~! 抜かれてもいいからね~!」


 そう言ってくれているのは、白熊くんだ。

 嬉しいけど……ここで弱音は吐けないよ!

 わたしは気合いを入れ直し、最後のコーナーを回る。


 そこでわたしは、

 大失態を演じてしまう。


 気負いすぎたからかもしれない。

 相手が白熊くんだったというのに、抜かれてもいいからと言われたことに反発してしまったのかもしれない。

 それ以上に、自分の体力と持久力の限界を考えなさすぎたというのが、一番の原因だったかもしれない。

 ともかく。


「あ……」


 と思ったときには時すでに遅し。

 さっきまで軽やかに繰り出されていたはずのわたしの足が、ふらりと挙動を乱し、もつれ、絡まるほどの勢いで、走る動作を妨げる。


 そしてそのまま、思いっきり、ものの見事に、

 スローモーションのような、もしくはフラッシュバックのような光景を、脳裏に焼きつけつつ、

 わたしは――コケた。


 あ~~~~……。

 クラスメイトのため息が聞こえる。


 膝から地面にごっつんこ。勢い余って顔面から落下していくような感覚さえ受けた。

 どうにか両手をつき、顔面強打だけは免れたけど、わたしの走りはそこで完全に止まってしまった。


 打ちつけた膝からは、血がにじみ出している。それに合わせて、瞳の端からは涙もにじみ出てきた。

 痛みと、そして悔しさと情けなさで――。


 間髪を入れず、二番手三番手の人がわたしの横をすり抜けていった。

 ……痛い……けど、泣いちゃダメ! 少しでも、頑張らないと!


 わたしは涙を拭い、すぐに立ち上がると、追い越していった背中を必死で追いかける。

 されど、当然ながら追いつけはしない。

 どうにかそれ以上順位が下がるのだけは食い止めたけど、結局わたしは三位でゴールすることになってしまった。


 膝の痛みと、息苦しさと、心苦しさで、ゴールしたわたしはその場にうずくまる。

 走ったあとにすぐ止まっちゃうのは、あまりよくないはずだけど。

 ゆっくり歩いて呼吸を整える、なんて余裕が、今のわたしに残っているわけもなかった。


 クラスメイトは、誰も話しかけてくれない。

 やっぱり、わたしってダメだな……。

 みんなの頑張りを、全部無駄にしちゃって……。


 何重もの苦しさがのしかかる中、クラス対抗リレーは二年生、三年生と続いていった。

 二年生が一位、三年生が二位と健闘したものの、わたしたち一年生が足を引っ張る形で、水色チームは結局二位止まり。

 こうして、体育祭最後の種目は終了を迎えた。


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