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れんたま  作者: 沙φ亜竜
第3章 美人ランナー、有森尚子さんみたいに
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-4-

「作戦会議といっても、今さらできることなんてないんだけどね」


 第一走者となっている中村さんが、そう前置きしながら話し始めた。


 クラス対抗リレーは、男女交互に走る。男子三人、女子四人の七人でのリレーだ。

 女子のほうが比較的多い学校だからか、第一走者の女子から始まり、アンカーも女子となっている。

 そのアンカーが、わたしってことになるのだけど。


「今の水色チームの点数状況は、ボードを見てのとおりよ」


 メンバーが一斉にボードに目を向ける。


「現在三位。四位とはかなり差がついてるし、わたしたちが頑張らなくても二年生と三年生がいるわけだから、このまま三位は堅いわね」


 うんうん、そうだね。メンバーたちからも同意のつぶやきが得られる。


「でも! 一位二位との差は、それほど大きくはないわ! つまり、わたしたちが頑張れば優勝も可能なのよ!」


 ぐっとこぶしを掲げ、熱く宣言する中村さん。


「というわけで、チームの足を引っ張らないように、そしてあわよくば優勝できるように、力の限りを尽くすわよ!」

『お~~~~!』


 メンバー全員の声が重なった。

 ……ただし、わたし以外の。


 わたしはひとり、えええええ~~~? 責任重大だよ~……、と心の中でぼやいていた。

 なにせ、リレーはひとり半周ずつでバトンが渡されるのだけど、アンカーだけは一周丸々走ることになってしまうのだから。


 わたしなんかがアンカーじゃ、絶対無理だよ~……。

 泣き言ばかりが胸を突く。

 不安でいっぱいになっているわたしに、不意に温かな声がかけられた。


「大丈夫、肩の力を抜いて。精いっぱい走れば、結果なんて関係ないよ」


 ふぇ……?

 驚いて顔を声のほうに向けると、わたしの横には白熊くんが立っていた。


「あれ? 白熊くんも、リレーに参加するの……?」


 今さらながらの質問に、白熊くんは呆れることもなく答えてくれる。


「あはは、うん。ぼくもぼーっとしてたら、リレーしか余ってなくて……」


 参加者リストを確認したときも、ミーティングのときも、そして今この場所に呼び出されたときも、余裕がなくて周りをよく見ていなかったからか、全然気がつかなかった。

 他の人ならともかく、愛しの白熊くんがいることにすら気づかなかったなんて、わたしってどこまでぼーっとしてるんだか!

 自分で自分が情けなくなりながらも、白熊くんと一緒の種目だと思うだけで、なんとなくパワーが湧き出してくるように感じられた。


 とはいえ……。


「以上で会議は終わりね。雫宮さん、アンカー、任せたわよ!」


 肩をポンと叩かれ、メンバーみんなから期待の目を向けられたら、さすがにプレッシャーが重くのしかかってくる。

 作戦会議は終了となり、白熊くんから「頑張ろうね」と微笑みかけられたわたしは、決意していた。


 スタートするまで、まだもうちょっと時間がある。


 よし……。

 人目から隠れるように、わたしはなるべく音を立てず、静かに校舎の陰へと身を滑り込ませた。



 ☆☆☆☆☆



「クリボー……」

「レンタマ、行っとくカイ?」


 わたしの呼びかけに、言いたいことはわかってくれていたのだろう、静かに姿を現したクリボーから、すぐさま期待どおりの声が返ってくる。


「うん、お願い!」

「へへっ、まいどアリ~」


 迷うことなく繰り出された契約受諾の言葉に、クリボーは満足そうな笑い声を漏らし、同時に坊主頭がピカッと光る。

 と、その笑顔を、クリボーは頭の光とともに一瞬で引っ込めた。


「おっと、そうダ。ひとつ忠告シテおくヨ。こうやってレンタマ契約するトコロとか、レンタマに関して話してるトコロを、もしダレかに見られタラ、見た人間は消すしかナイ。そういう決まりになってるカラ、気をつけてネ」


 恐ろしい忠告ではあった。

 だけど、わたしには『れんたま』してもらう必要がある。そうじゃなきゃ、わたしは輝けない。

 戸惑いながらも、力強く頷く。


「…………わかった」


 わたしの答えを聞くと、クリボーは再び穏やかな表情に戻り、今までと同じようにレンタルする魂の希望を尋ねてきた。


「さて、今回はどんなカンジにするカナ?」

「えっと、そうね……。スポーツマン系で、周りを引っ張っていく力のあるような人がいいかな……。具体的には、ランナーの有森尚子さんみたいな感じ?」

「ン、了解だヨ!」


 一瞬の強風をこの身に感じた、その次の瞬間には、わたしの全身から果てしない力が湧き上がってくる。

 やっぱり、『れんたま』の力って、すごい!

 わたしは改めてそう感じた。


 ただ、ちょっと気がかりな点がある。

 これって、あくまでも魂をレンタルして、性格を変えているだけなんだよね……?

 運動能力まで変わるわけではないはずだけど、大丈夫なのかな……。


 不安はあった。

 でも……、

 気合いがあれば、運動能力なんてどうにでもなるわ!

 わたしはそう考えて、不安を振り払う。

 この時点ですでに、『れんたま』効果は充分に発揮されていたと言えるのだろう。


 よし、頑張ろう!

 自分自身に言い聞かせ、わたしは校舎の陰から勢いよく飛び出した。


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