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れんたま  作者: 沙φ亜竜
第3章 美人ランナー、有森尚子さんみたいに
17/45

-3-

 運動が苦手なわたし。当然ながら体育祭なんて楽しみでもなんでもなかったのだけど。

 待ち望もうが気が進まなかろうが、時間は変わらずに流れゆくもので。

 あっという間に体育祭当日となってしまった。


 木々は確実に秋めいてきているというのに、真夏に戻ったかのような強い日差しが照りつける。絶好の体育祭日和だ。

 始まる前は気乗りしていなかったものの、普段の授業とは違った雰囲気に、わたし自身も知らず知らず呑み込まれ、気づけばそれなりに心躍らせていた。


「どうせうちのクラスなんて運動はダメなんだから、点数なんか気にせず、思う存分楽しもう!」


 今朝のホームルームで、クラス委員長であるパナップがそんなことを言っていた。

 クラス委員長自ら、ダメだなんて宣言してしまっていいものか。なんて思わなくもなかったけど。

 点数を気にせず楽しめばいい、という意見には大賛成だった。もちろんクラスのみんなも同じ思い。そういった意味では、クラスが一丸となったとも言えるのかもしれない。


 最初からそんな心持ちだったことで余計なプレッシャーもかからず、みんな楽しんでいることで変に無駄な力も入らず、いい方向に進んだのかもしれない。

 なんだか思いがけず、わたしたちのクラスは、なかなかいい感じに点数を稼げていた。


 といっても、同じ学年の中で見れば中盤くらいの成績でしかないのだけど。それでも、大健闘だと思う。

 それに体育祭の点数は、クラスごとに色分けされたチーム対抗となっている。

 一学年に七クラスあるから七色。それぞれの色のハチマキをしたチームが、一年生から三年生まで一クラスずつある。


 チームごとの点数を見てみると、なんとわたしたちの水色チームは、ずっと上位三チーム以内に入っている状態だった。

 そして午前中の種目が終わり、昼食を挟んで午後の種目が次々と進んでいっても、その状況は変わらない。


「いい感じですね~!」

「そうだな~! マジ燃える! こりゃ、頑張るしかないっしょ!」

「うんうん。正直ウチも、ここまでできるとは、思ってなかったよ!」


 大福ちゃんもパピコもパナップも笑顔だった。

 三人はすでに、午前中で参加種目が終わっているから、余裕があるのだろう。


 パピコはうちのクラスでは足が速いほうだから、個人種目の百メートル走に参加していた。

 それならリレーに出てほしかったと思わなくもないけど、早めに終えて楽になりたいという理由で、一番初めの種目を選んだとのことだった。

 う~ん、なんというか、さすがだな。


 一方、パナップはムカデ競争に参加していた。

 運動は苦手だからね、大勢で参加するような種目に紛れるのが、クラスにとって最善の策だと思ったんだ、とか言ってたっけ。

 それは本当に正しい判断だったようで、持ち前のリーダーシップを発揮し、見事に一位を獲得していた。


 それから、大福ちゃんは綱引きに参加していた。

 お嬢様である彼女が薄汚れた綱を引っ張る姿っていうのも、違和感があって新鮮だった。

 もっとも大福ちゃんの場合、体育祭自体似合わないというか、汗をかくこと自体が似合わないのだけど。


「いや~、でも、ここまで楽しくなるとは、正直思ってなかったよね! 最高の気分だよ!」

「そうですね~、わたしも足を引っ張るだけだと思ってましたけど、他のみなさんと一緒に頑張れました」

「いやいや、大福ちゃん、かなり力強かったっしょ? 力こぶもすごかったし! どう考えてもベストな参加種目だったと思うよ! ……体型的にも」

「もう、嫌だわ、そんな」


 恥ずかしがりながらパピコをバシッと叩いた大福ちゃんの手は、わざとなのか無意識なのか、思いっきりグーだった。

 しかも狙い澄ましたかのように、パピコのみぞおちにクリーンヒット。


「うぐぉっ!? ……く~、そうそう、この力強さ、本物だね~!」


 とかなんとか言いながらも、パピコは涙目でうずくまっていた。おちゃらけて見せてはいるけど、結構苦しそうだ。

 だけど、頑丈にできているパピコなら、心配はいらないだろう。こんなのいつものことだし、それに自業自得だと思うし。

 いくら仲のいい友達で、心の中では思っていたとしても、言っていいことと悪いことってのがあるよね。


 それにしても大福ちゃん、わざとやっているのだとしたら、なかなか恐ろしい子なのかもしれない。

 虫も殺さないような顔でほんわかした雰囲気の彼女だけど、確かに力は強いんだよね……。

 わたしは絶対怒らせないように気をつけようと改めて心に誓っておく。


 と、こんな感じで友人たちのはしゃいだ会話に紛れ、わたしも穏やかな気持ちに包まれていたのだけど。

 わたしの気持ちを一気に冷ます言葉を放ってくれたのは、案の定、パピコだった。


「さて、そんじゃラストはピノだな! 頑張ってこ~い! ぶざまなコケっぷりとかは、いらないからな!」

「う……!」


 そうだった。

 今やっている種目が終わったら、次はもうわたしの出番となってしまう。


 そんな中、わたしに声がかかった。

 対抗リレーに参加するメンバーで集まって最後の作戦会議をしようと、クラスメイトから呼び出しを受けたのだ。

 得点ボードを見てみれば、水色チームは現在三位。最後のリレーの結果次第ではトップにもなれるという、絶好の位置に着けていた。


「そ……それじゃ、行ってくるね……」


 友達三人に見送られながら、わたしはリレーメンバーの集まっている場所へと向かった。


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