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れんたま  作者: 沙φ亜竜
第3章 美人ランナー、有森尚子さんみたいに
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-2-

 悩んでいたらなかなか眠りに就けず、睡眠不足気味のまま朝を迎えてしまった。

 なんだか頭が重い。

 ぼーっと制服を着て、ぼーっと朝食を口に運び、ぼーっと歯を磨き、ぼーっと髪をとかし、ぼーっとしたまま家を出た。


 制服のリボンが曲がっていたり、口の端にパンくずがついたままだったり、寝グセが残ったままだったり……。

 それくらいは普段からよくあることだし、それほど気にはならなかったのだけど。(いや、もちろん気にするべきだとは思うけど……)


 ともかくわたしは、学校に着いてからも、ぼへ~っとしていた。

 担任の牧村先生が教室に入ってきて、朝のホームルームが始まってもなお、わたしの眠気はまったく薄れることがなかった。

 すぐ背後の席のパピコが、シャープペンの後ろ側でわたしの髪の毛をツンツンつつきながら、


「お~い、起きてるか~?」


 とかなんとか声をかけて注意を促してくれていたみたいだけど、わたしの頭はふらふらと揺れるばかり。

 なにやら、いつものホームルームとは、ちょっと違うような……。

 そんな感覚だけはあったけど、わたしの頭の中にまでは届いてこない。


 でも、べつにいいよね……。重要な連絡があったら、あとでパピコにでも聞けばいいわけだし……。

 なんて余裕をかましていたわたしが悪かったのだけど。


「……さん、雫宮さん、聞いてるの?」

「え、あ、はいっ?」


 突然先生から名前を呼ばれ、わたしの思考はようやくモヤが晴れたようにクリアになった。


「まったく、ぼーっとしないの。とにかく、もう決まりましたから。いいですね?」

「え……っと……」


 いきなり決まりましたなんて言われても……と思ったけど、わたしがぼーっとしていただけで、実際にはいきなりってわけじゃなかったはずだ。

 視線を前に向け、黒板を確認してみる。

 そこには、こう書かれてあった。


 体育祭の参加種目選定会議。


「あれ? でも、わたし……」


 黒板には体育祭の各種目名が書かれ、その下に参加希望者の名前が書き連ねられている。

 ぼーっとした頭ではあったものの、なんとなく周りのクラスメイトが、手を挙げたりしているのは覚えていた。

 だけど、わたしは参加希望種目に手を挙げた記憶はない。


 無意識のうちに手を挙げていたってこと……? さすがに、そんなわけないよね……。

 困惑気味のわたしに、パピコが耳打ちしてくれた。


「ピノがぼーっとしてるあいだに、全部終わったんだよ。全員必ず一種目には出る決まりだから、余ってた種目に強制参加ってことになったのさ。よく見てみ? ピノの名前もあるっしょ?」


 わたしは種目名と参加者の羅列を端から端まで順に眺めていく。


「あ……あった」


 雫宮。わたしの名字。

 その上に書いてある種目名は――。


「くらすたいこうりれー」


 まだ頭がぼーっとしているからなのか、いまいちすぐには頭の中に浸透してこなかった。

 え~っと……。


「って、クラス対抗リレー!?」


 クラス対抗リレー、それは体育祭の最後を締めくくる一番盛り上がる種目。

 クラスごとに色分けされたチーム対抗戦の大詰め、点数配分も大きくて、優勝を目指すなら一番重要となってくる花形種目だった。


「ど……どうして~!?」


 思わずわたしらしくなく、大声を上げてしまう。

 だって、どう考えてもわたしにふさわしい種目ではなかったからだ。


 自慢じゃないけど、というか、だいたい予想はつくだろうけど、わたしの足はとっても遅い。

 それだけじゃなく、体力も持久力もないし、さらには体の重心バランスまで悪いのか、走り方も不恰好だったりするし……。

 とはいえ、どうやらもう決定してしまったらしい。


「誰も出たがらなくてさ、余ってたってわけ。このクラス、なんか運動が苦手な人ばっかりみたいだしな~」


 パピコがそんな説明を加えてくれた。


 学校のクラスって、成績も運動能力も、クラスごとにあまり大きな差が出ないように分けるものだと思う。

 ともあれ、わたしたちは高校一年生。入学したばかりでは、学力については入試の点数なんかでわかるかもしれないけど、運動能力まではわからないだろう。

 中学時代の体育の成績や運動部に入っていたかといった経緯でも、ある程度の判断はつくかもしれないけど。実際には、まったく考慮されなかったに違いない。


 そんなわけで、運動が苦手な人ばかりとなってしまったこのクラス。

 はなっから、優勝とか高得点とかなんて、狙ってもいないということか。


 それにしたって、いくらなんでもこのわたしがクラス対抗リレーに出るなんて……。

 辞退したいところではあったけど、ぼーっとしていた自分が悪かったというのもあるし、そもそも自己主張の苦手なわたしだから、結局なにも言い出すことはできず。

 そのあと続けて行われた参加種目ごとのミーティングでも、嫌だとは口にできなかったわたしが、あろうことかアンカーという大役を任される羽目になってしまうのだった。


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