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れんたま  作者: 沙φ亜竜
第2章 天然系アイドル、ちかりんみたいに
14/45

-7-

 わたしは、『れんたま』効果もあるんだからと思い、結構頑張ってみた。

 だって今、白熊くんと腕を組んで歩いているんだもん。

 だけど、魂をレンタルして性格を変えていても、恥ずかしいものは恥ずかしいらしく、しっかり赤面している。

 会話も頑張ってはいるものの、少々ぎこちない。


 実際、白熊くんも悪いと思うんだよね。普段からおとなしい感じだとはいえ、全然話しかけてくれないから、わたしが話しかけるしかないわけだし。

 もっとも、わたし以上に真っ赤になって、うつむきながら歩いているところを見ると、白熊くんのほうも恥ずかしさで余裕のない状態なのだろう。


 う~ん、絡めている腕だけでも離せば、もうちょっとは自然な会話ができるのかもしれないけど……。

 それもなんだか、もったいない気がして……。せっかく頑張って、ここまでこぎつけたのに。


 真っ赤になって、大して会話もせず歩き続けるだけのふたり。

 そんなわたしたちに、前を歩いていたパピコから、こんな提案の声が飛んでくる。


「よし、そんじゃ、ボートに乗ろう!」


 その声に視線を前方へと向けると、すぐ目の前にボート乗り場の看板が立っていた。

 ボートはふたり乗り。

 組み合わせはさっき歩いてたのと同じでいいよね、ということになった。


 提案したのはパピコ。

 わたしと白熊くんも含め、誰からの反論もなく、そのまま提案どおりの流れとなったのだけど。


 白熊くんと向き合ってボートに乗っている状態になった今も、やっぱりまともな会話はできないままだった。

 組んでいた腕を離したら、少しは自然体になれるかと思っていたけど。もともとおとなしいわたしと白熊くんじゃ、変わるはずもなかったのだ。


 ともあれ、忙しなくボートを漕ぎながらも、よくやく気持ちが落ち着いてきたのか、白熊くんはポツリポツリと話しかけてくれるようになっていた。

 ただ、その表情は、なんだか浮かない様子。


 いったい、どうしちゃったんだろう?

 ……もしかして、まだ乗り始めたばかりだけど、ボートに酔っちゃったのかな……?

 そう考えた、今は『れんたま』中のわたし。努めて明るく振舞い、質問してみることにした。


「あれ? 白熊くん、どうしたの~? ボートに酔っちゃった~?」


 首をかしげながらの笑顔を向け、自然に顔を近づける。


「いや、大丈夫……」


 と答えてはくれたものの、白熊くんはやっぱり浮かない微妙な表情のままだった。

 わたしから顔をそむけ、それでも気にはなるのか、ちらちらと視線を向けてきていた。

 これってもしかして、わたしのことを意識してくれてるってこと?

 でも、恥ずかしがってる、というのとも違うような……。


「……ピノりん、可愛くな~い~?」


 今のわたしは、アイドルのピノりん。

 そう自分に言い聞かせながら、ちょっとブリっ子すぎるかもしれないほどの拗ねた仕草で尋ねてみる。


「か……可愛い、けど……」

「けど……?」


 ゴクリ。白熊くんの答えに息を呑む。


「なんか、雫宮さんっぽくないなって……」

「…………」


 わたしには返す言葉もなかった。


 中一で友達になったパピコと幼馴染みの白熊くん。いつしか自然と、わたしもお話するようになっていた。

 そりゃあ、引っ込み思案なわたしは、あまり積極的に話しかけたりできなかったけど。

 パピコも交えての三人でだったら、いろいろとお喋りできるようにまでなった。


 だからこそ……親友のパピコと同様、三年以上のつき合いだからこそ、こんなにも明るくて元気なわたしは、違和感があって嫌なのかも……?


 思わず黙り込んでしまったわたしに、白熊くんもなにも言ってはくれなかった。

 そのまま、楽しいはずのボートの時間は、沈黙の中で終わりを告げた。



 ☆☆☆☆☆



「あんたたち、どうしたの?」


 ボート乗り場に戻ったわたしたちの様子を見て、パピコが心配そうに声をかけてきた。

 そしてすぐにわたしのそばに寄り添い、耳もとでささやく。


(コクって、ふられた?)

(ちちちちち、違うよぉ……!)


 わたしは慌てて、彼女と同じくささやき声で答えた。


 それからも、遊歩道を歩きながらのお喋りタイムは続いたけど、はしゃいだ気分にはなれなかった。

 横に並んで歩いてはいたものの、結局、白熊くんとはほとんど言葉を交わすこともなく、公園の遊歩道も最終地点を迎えた。

 池の外周をひと回りして、入り口に戻ってきたのだ。


「えっと、今日はありがとね、楽しかったよ」


 アーチをくぐって外に出ると、無理に笑顔を浮かべ、白熊くんは帰っていった。

 この公園は、わたしやパピコ、白熊くんが住んでいる町からすると隣町にある。現地集合だったから、自転車で来ていたようだ。

 パピコは電車で来たみたいだから、隣の家なのに一緒に来たわけじゃなかったんだ。


 それにしても……。

 すぐに帰っちゃうなんて、白熊くん、ちょっとひどいよ……。

 沈みきっていたわたしに、パピコが問いかけてくる。


「ねぇ、いったい、どうしたのさ?」


 わたしは、ボートの上での出来事を、パピコたちに話した。


「そっか……。ピノは、いつもどおり自分らしくしてればいい、ってことかねぇ?」


 控えめながら、そう結論づけるパピコ。

 パナップも大福ちゃんも、小さく頷いていた。


「自分らしくって言われても……。普段のわたしは自分の意見もはっきり口にできない、つまらない子だし……」

「ま、ピノはもうちょっと自己主張したほうがいいとは思うけどな」


 そんな会話を交わしたあと、パピコはパンッと手をひとつ鳴らす。

 暗い話はここまで! と言わんばかりに。

 そしてわたしたち女子四人も、夕焼けが周囲の景色を染め上げる中、家路に就いた。


 だけど……。

 自己主張するなんて、わたしには無理だよ……。だって、ずっと自分を押し殺して生きてきたんだから……。

 帰り道の途中も暗い気持ちを背負ったまま、わたしは果てしなく悩み続けていた。


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