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れんたま  作者: 沙φ亜竜
第2章 天然系アイドル、ちかりんみたいに
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-6-

 翌、日曜日。待望の日。首を長くして待ち望んだ日。みんなで遊びに行く当日。

 昨日の夜はドキドキしてなかなか寝つけなかったけど、寝坊することもなく、早めに起きることができた。

 そのせいで、ちょっとまだ眠い気はするけど……。


 最初に軽く朝食を取り、それから洗面所に向かって顔を洗い、髪の毛を整えた。

 普段学校に行くときには、着替えて朝食を終えてから洗面所に向かうのだけど、さすがに洋服が水に濡れたりするのを心配して、順番を変えたのだ。

 そのあと、部屋に戻ったわたしは、ちゃんと鏡で確認しながら、じっくり時間をかけて洋服を着た。


 化粧はしていないけど、うん、それなりに可愛い……かな?

 もともとの素材が地味なわたしだから、だかが知れているとは思う。それでも、素敵な洋服のおかげで、充分輝いて見えるような気がする。


 三人から選んでもらった中で、わたしは結局、大福ちゃんが選んでくれた服を着ていくことにした。

 スカート丈はどうにか耐えられるレベルだし、胸もとが大きく開いている服ではあるけど、中にもう一枚、薄手のシャツを着れば問題なかったからだ。


 パピコからは怒られちゃうかもしれないし、せっかく『れんたま』するなら、もっと白熊くんの目を惹くような露出度の高い服にするべきだったかもしれない。

 だけど、そんなことで食いつかれて、じろじろ見られてしまうのも、ちょっと嫌だし……。

 だいたいわたしの体型じゃ、やっぱり谷間なんてできなかったわけで……。


 だから、これでいいんだと思う。

 いつもの自分から考えたら、大冒険と言ってもいい。


 これなら白熊くん、気に入ってくれるかな……?


 軽くポーズを決めながら、いろいろな角度で鏡に映った自分を眺める。

 フリルがひらひら揺らめくのも、可愛らしさを演出してくれて、結構いい感じかも!

 ふんふんふ~ん♪ 思わず鼻歌まで飛び出す勢い。


 と、そんなわたしのルンルン気分は、すぐに水を差されて冷やされてしまった。


「どうデモいいケドサ、そんなにゆっくりしてて、いいのカイ?」


 微妙にうっとりと鏡の中の自分に見惚れていたわたしに、クリボーからのツッコミが入ったからだ。


「あ……」


 おそるおそる時間を確認する。

 時計の針は無情にも、早起きしたのがまったく無意味になるほどの時間を指し示していた。


「きゃ~~~~!」


 ポーチにお財布とハンカチを詰め込むと、わたしは慌ただしく部屋を飛び出した。



 ☆☆☆☆☆



 今日は遊歩公園で遊ぶことになっている。

 隣町だから、電車に乗って向かったわたし。


 いつものことではあるけど、基本的に現地集合となる。

 なんだかちょっと、わたしを遅刻させて、いじってやろうという魂胆が見え隠れしなくもない。

 そんな企みに、毎回毎回乗ってたまるもんですか。

 なんて思っていたのに、結局遅刻ぎりぎりになってしまうなんて。


 相変わらずわたしってば、そういう星のもとに生まれてきたとしか思えない……。

 ……でもっ!

 今日は違うのだ!


 電車から降り、駅を出たわたしは、遊歩公園へと向かって走りながら、クリボーと話し合っていた。


「クリボー、昨日話したとおり、お願いね」

「うム。わかってるサ。任せておきなって!」


 遊歩公園の入り口となっているアーチが見えてくる頃には、わたしは走りながら、湧き上がってくる明るい気持ちに満ち溢れていた。


「やっほ~みんな~! 元気ぃ~!? ピノりんは、こんなに元気だよ~!」


 いつものわたしとは違った登場に、みんな驚いてはいたけど。

 すぐに笑顔で迎えてくれた。


「はろ~! あっ、可愛いね!」

「ほんとですね~。お姫様みたい」


 パナップと大福ちゃんが、すかさず嬉しい言葉を投げかけてくれる。

 お姫様はさすがに言いすぎなんじゃ……、と思わなくもなかったけど、すでに『れんたま』中のわたしは、完璧にアイドルの性格になっていて。


「わ~い、ありがっと~☆ みんな、大好きっ! ちゅっ♪」


 とかなんとか、こっぱずかしいセリフがわたしの口から飛び出していく。


「あっはっは! でもほんと、マジ可愛いじゃん! あたしの選んだ服じゃないけど……」


 パピコだけは、ちょっと不満まじりのようで、そんなつぶやきを添えていたけど。

 とはいえ、すぐにパピコも笑顔に切り替え、もうひとりの人に向かって、続けざまにこう問いかける。


「ほらほら、ピノ、可愛いよね? 白熊もそう思うっしょ?」


 パピコの視線の先にいたのは、もちろん白熊くんで。

 うわ~、どんなふうに答えてくれるんだろう~、と期待いっぱいの瞳で見つめていたのだけど。


「え、あ、うん……」


 白熊くんは、微かに赤くなりながら、ぼそっと答えるだけだった。


 あれ? あまり、気に入ってもらえなかったのかな……?

 思わずブルーになってしまっていたわたしに、白熊くんが視線を向けてくる。

 ただ、その視線が少々低い。


 きゃっ! もしかして短いスカートだから、太ももに目を奪われてちゃってるとか……?

 一瞬そう考えるも、どうも視線の方向は、わたしの太ももやら腰周りやらの位置からは、微妙にずれているようで……。

 困惑気味のわたしに、白熊くんは控えめな様子で、こんなことを尋ねてきた。


「ところで、その子は……?」


 え……?


「わっ、可愛い~!」


 わたしには、わけがわからなかったのだけど、他の三人までもが黄色い声を上げ始める。

 不思議に思って振り向くと、そこには坊主頭の男の子、クリボーが笑顔で立っていた。


「クリボー!?」


 思わず叫んでしまったわたし。


「クリボー?」


 白熊くんがオウム返ししながら首をかしげる。


「あ……えっと、その……クリボーは、わたしの親戚だよ!」


 慌てて適当なことをでっち上げた。


「クリボーってのは、あだ名?」

「う……うん、そ、そうだよ! えっと……クリ……栗……栗の実……。そう、いとこの実栗(みくり)くん! だからクリボーなの! もう、ダメだって言ったのに、ついてきちゃったみたい。ごめんね~」

「へ~、そうなんだ~!」「可愛いですね~」「よっしゃ、そんじゃクリボーも一緒に遊ぼう!」


 女子三人がはしゃいだ声を響かせる。


「クリボーちゃん、こっちにおいで~!」


 大福ちゃんが呼びかけると、クリボーは「うン!」と喜んでそっちに駆け寄り、差し出されていた手を握った。


「お姉ちゃんたち、今日はよろしくネ! あっ、お兄ちゃんも!」


 クリボーは無邪気な笑顔を振りまき、すんなりとわたしたちのグループに溶け込んでいった。

 そっか。クリボーも一緒に遊びたかったのね。

 わたしはほのぼのとした気持ちに包まれ、自然と笑顔になっていた。

 ほどなくして、


「それじゃ、そろそろ中に入ろっかね!」

「そうですね」「うん、れっつご~だよ!」「うン!」


 パピコの号令を合図に、わたしたちは遊歩公園のアーチをくぐり、池の周囲を巡る爽やかな並木の遊歩道へと向かった。

 大福ちゃんがクリボーの手を引いてくれて、その後ろにパピコとパナップのふたりが並んで歩いていって……。

 気づけば自然と、残されたふたり――つまりわたしと白熊くんが、横に並んで歩く流れになっていた。


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