-5-
買った服を入れた手提げ袋を持ち、わたしが三人のもとへ戻ると、「それじゃ、帰ろうか」と店を出ることになった。
「……あれ? みんなは買わないの?」
「ウチらは、べつにいいよ。今日はピノの服を買いに来たんだから!」
わたしの言葉には、パナップがすかさず答えてくれた。
「そうそう。それにさ、あたしらまで可愛い服を買って、ピノより目立っちゃっていいのか? 白熊がこっちに惹かれちゃうかもよ?」
パピコもニヤニヤしながら、そんなことを言ってくる。
「そ……それは、嫌……」
『あははは!』
控えめに返すわたしの言葉に、みんな笑顔を見せてくれた。
「だいたい、あたしはお金もないしさ! 今月は買い食いしすぎた!」
「うん、ウチもない!」
パピコとパナップのふたりは、そうつけ加えていたけど。
そういえば学校で、お金がないと言ってたっけ。
「ともかくさ、ちゃんとオシャレしなよ? あっ、でも、高いヒールとかはダメだからな? 遊歩道を歩くんだからさ。足もとの覚束ないピノじゃ、絶対に転んじゃう!」
パピコがわたしを心配してくれているのはよくわかってるけど、なんだかちょっと自分が情けなく思えてきた。
だからといって、どうなるものでもない。
「そ、そうだね……」
わたしは小さく微笑み返し、三人と別れて家に帰った。
☆☆☆☆☆
自室までたどり着いたわたしは、早速、買ってきた服を着てみることにした。
ショップで試着はしていたけど、改めて着直し、鏡に映った自分の姿を見てみると……。
「はう……。やっぱり、恥ずかしいよ……」
鏡を見つめながら、ひとり赤面する。
実際にはそのそばにクリボーが立ち、わたしの様子を眺めていたりするのだけど。
最初こそ気になって、こっちを見ないように注意していたけど、どうもクリボーはわたしの裸なんかに興味はないみたいだった。だから今では、わたしのほうも全然気にしなくなっている。
三人が選んでくれた服は、おへそが丸出しだったり、胸もとがざっくりと開いていたり、パンツが見えそうなくらい短いスカートだったり……着るのに抵抗があるような服ばかりだった。
露出度が高めなことを除けば、見た目にはとっても可愛らしくて、今どきの女の子だったら素敵に着こなせるのだとは思うけど。
なにぶんわたしは見た目からして地味だし、好みだって地味だから、正直こんなに可愛い服を着こなせる自信なんてない。
今着ている、胸もとが大きく開いているタイプの服は、確かパピコが選んでくれたものだ。
これを着るなら、寄せて上げて、しっかり谷間を作ってきなよ! なんて言われたけど……。
「わたしがどう頑張って寄せて上げたところで、しっかりした谷間なんてできるわけないのに……」
……言ってて空しくなってきた。
う~~~、どうしよ~……。どれも恥ずかしい~。
だけど、普通のTシャツなんかを着ていったら、こっぴどく怒られる結果になるだろうな。
どの服を着てくるかで賭けているなんて、パピコは言っていたし……。
何度も服を着替え、鏡で全身を確認しながら、わたしはいろいろと考えを巡らせていた。
自分の控えめな性格じゃ、こんな服を着たら恥ずかしくて平常心ではいられない。
とすると、ここは――。
「オレのチカラが必要カナ?」
「う……。……お願いします」
わたしの思いを察してくれたクリボーからの質問に、ためらいながらもイエスの声を返す。
また寿命を吸われてしまうのね……。
でも仕方がないよ。白熊くんに、可愛いって思ってもらうためだもん。
そこまで考えて、はたと気づく。『れんたま』の効果は、一回三十分程度だということに。
「確かに一回の効果は三十分だけどネ。延長するコトも可能だヨ? もちロンその分、タイセツなモノも多くいただくコトになるケドサ」
わたしが尋ねてみると、クリボーは平然とそう答えた。
待ち合わせが午後だから、遊歩公園で白熊くんと一緒にいる時間は、おそらく長くても五時間くらいといったところだろう。
一回三十分として計算すると、五時間だとしたら十回分、寿命を吸われてしまうってことになってしまう。
一回の『れんたま』で、どの程度寿命が短くなるのか聞いてはいない。だけどなんだか恐ろしくて、それを訊く気にはなれなかった。
それにしても、十回分はちょっと怖いな……。かなりの浪費だよね……。
わたしは迷った挙句、
「少しはサービスとか、してもらえないの……?」
なんて、みみっちいお願いをしてしまう。
「ふム。う~ん……ま、イイカ。特別に五回分で、明日一日面倒見てあげるヨ!」
「ほんと? ありがとう、クリボー!」
なんだか出血大サービスってくらいの特価ぶりに、わたしはまったく不信感を抱くことなく素直に感謝の言葉を述べ、クリボーを抱きしめると坊主頭をくりくり撫で回した。
クリボーも嬉しそうに笑顔をこぼす。
「それで、効果は公園に着いてカラにするとシテ、どんなカンジにするんダイ?」
頭をくりくり撫でられて喋りにくそうにしながらも、クリボーはそう尋ねてきた。死神としての仕事は忘れない、ということか。
「う~ん、そうね~……」
あんなに露出している部分が多い服を着ても恥ずかしくないのって、グラビアアイドルとかかな?
といっても、あまりよく知らないんだよね。だいたいわたし、自分の体にまったく自信ないし……。
だったら、芸能人とかは……? 最近だとおバカ系アイドルとかも、人気があったりするよね。
そこで思いついたのは、ひとりのアイドル。
天然不思議系きゃぴるんアイドルなんて言われている、星野ちか、通称ちかりんだった。
「ちかりんみたいに、お願い。クリボーもテレビで見たことあったよね?」
「ふム。やたらと騒がしいフリフリヒラヒラの衣装着てた、あの子カイ?」
「そうそう、その子」
「ん、わかったヨ! 任せといて!」
クリボーは右手の親指を立て、元気いっぱいにOKポーズで応えてくれた。
そしてそんなクリボーの坊主頭は、契約成立を示すかのように輝きを放っていた。