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れんたま  作者: 沙φ亜竜
第2章 天然系アイドル、ちかりんみたいに
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-3-

 次の日、学校へと向かったわたしは、安心感を取り戻していた。

 昨日はなかったクリボーの気配が、わたしの背後にしっかりと感じられる。

 うん、やっぱりこうでなくっちゃ。


 なんだか数日のうちに、死神が取り憑いている状態が普通になってしまったらしい。

 魂をレンタルしてくれる代わりにわたしの魂を吸い取る、恐ろしい存在のはずなのに。


 もっとも、そんなクリボー本人は、不満たらたらだった。

 そんなに髪の毛が恋しいの? と思うくらい、今日も家に残って育毛剤でトントンし続けることを主張していたし。

 ま、キャラメルをちらつかせたら、しぶしぶながら諦めてくれたけど。

 いまいちクリボーの思考回路は理解できないものの、死神の考えが理解できるわけもないか、と思い直す。


 ともかく、そんなわけで今、クリボーはわたしのそばにいる。

 そばにいるということは、いつでも『れんたま』してもらえるということ。

 自分に自信のないわたしには、クリボーは紛れもなく心強い味方なのだ。


「はいっ! 次の日曜にさ、みんなでどっか遊びに行かない?」


 休み時間、いつものようにわたしの席の周りに集まってきていたメンバーの中で、パピコが勢いよく右手を挙げて提案の声を響かせた。

 それを聞いたパナップと大福ちゃんは、すかさず肯定の意思を示す。


「あっ、いいね! ウチ、ちょうどヒマだったんだよ!」

「ええ、わたしも大賛成です!」


 三人の視線が、ただ一点、わたしの顔に注がれる。


 う……。

 いくら友達でも三人からいっぺんに見つめられるなんて、やっぱりちょっと、恥ずかしい……。

 うつむき加減のわたしに、パピコが尋ねてくる。


「ピノ、どう?」

「えっと……うん、いいよ」


 休みの日には基本的に一日中家でごろごろしているだけのわたしだから、断る理由なんてあるはずもなかった。

 それなのに遠慮がちに答えていたのは、わたしの引っ込み思案な性格を如実に表しているとも言える。

 そんな自分を変えるためにクリボーがいてくれるのだ。

 などと考えているわたしの耳に、パピコの嬉しそうな声が届く。


「よし、それじゃ、白熊も誘うね」

「……えっ? 白熊くんも?」


 わたしは思わず訊き返していた。


「ふっふっふっ! さすがにそろそろ進展してもいいんじゃないかな~ってね! そうでないと、親友としては気が気じゃないのさ!」


 パピコはわたしのすぐ目の前まで顔を寄せ、トーンを落とした声でそう言うと、パチンとウィンクした。


「興味本位なくせに!」

「うっさい!」


 パピコはパナップのツッコミを軽くあしらう。大福ちゃんはそんなふたりの様子を微笑みながら眺めていた。

 と、そんなことより……。

 わたしは控えめに質問の声を上げる。


「あ、あのさ……、白熊くんだけ誘うの?」

「ん? そうだけど?」


 さも当然そうなパピコの答えに、わたしはさらに言葉を重ねる。


「で……でも、女の子の中に男の子ひとりって、嫌がらないかな……?」


 嬉しいけど、ほんとに来てくれるのか不安で、ついつい疑問符ばかりが浮かんでしまっていたのだ。

 だけどパピコはそれすらもお見通しだったのか、まったく表情を変えることなく、


「大丈夫っしょ。あいつ、姉三人、妹ふたりっていう、女家庭で育ってるからさ!」


 と答え、わたしの目をじっと見つめてきた。


 ――そんなに緊張しなくても、あたしに任せていれば大丈夫だって!

 パピコの澄んだ瞳は、そう語りかけてくれているように思えた。


「さてと、それじゃ声かけるか。お~い、白熊~!」


 いまだに戸惑いが残ったままではあったけど。

 そんなわたしを置いてけぼりにして、パピコは大声で白熊くんに呼びかけた。


 白熊くんは素直に呼びかけに応じ、すぐにわたしたちのそばまで来てくれた。

 そしてパピコから一緒に遊びに行こうとの提案を受けると、ふたつ返事でイエスの答えを口にする。


 わ~……、今度の日曜は、白熊くんと一緒に過ごせるんだ……。

 考えただけで頭から湯気が立ち昇ってしまう。


「ん~と、それで、どこに行くの?」


 投げかけられた白熊くんの質問に、あっ……と声を失うわたしたち。


「……そいや、決めてなかったな!」

「そうですね。すっかり忘れてました」

「なんか、やけにウチらっぽい感じだね!」


 それって、バカっぽいとも言い換えられるんじゃ……、とは言わないでおく。


「だけど、ウチ、あまりお金ないよ?」

「ふっふっふ、大丈夫! あたしもないから!」


 パピコ、それ、全然大丈夫じゃない……、というツッコミも、結局入れられず。

 やっぱり白熊くんが目の前にいると、声を出すことも難しい。過呼吸気味にすらなってしまう。


「う~ん……。仕方ない、それじゃ、遊歩公園ってことで!」

「あはは、了解」


 パピコの最後の手段的な提案に、白熊くんはそれでも笑いながら頷いてくれた。


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