嗚咽
(なに・・・これ・・・)
キョウコは息を飲み込み、パソコンから再生される音に縛り付けられた。たった12秒の録音。なのに、なぜか心を一瞬でざわつかせ、それでいて聞き入ってしまう。
どこかで体感したことのあるような、懐かしさ・・・。郷愁?。田舎道、蝉の声、遠くで聞こえてくる祭囃子。老婆の声とともに微かに録音された状況が、キョウコの聴覚を通して体中に反響し続けた。
もう一度再生させてみる。
ざわざわと草木の揺れる音。砂利道の上を歩く足音。そして老婆の声。蝉の鳴声はひぐらしだろう、鳴き止み、また鳴き始めると同時にファイルは終了する。
もう一度再生。
もう一つ気づいたこと。『izumi』ファイルは、再生させる度に増殖する。プレイヤーソフトの中の『izumi』ファイルは優に二百を超えている。
マホが何度もこのファイルを再生させていた?何度も、何度も、何度も・・・。
そしてファイルは増殖を繰り返す。またウィルスをネット上に撒き散らすのだろうか。
まるでクモの卵が孵化する様に、一斉に殻をやぶり、無数の子供が、親を捕食する・・・。
そんな連想をしてしまい、口を抑え、マウスから手を離した。
マホは何を感じ、どう過ごしていたのだろう。会社を辞め、先週再会するまでの数ヶ月間を・・・。
それとも病はそれ以前にすでに進行しつつあったのだろうか。
気づくと大粒の涙が頬をつたっていた。せき止めていた感情が溢れ出る。止まらなかった。思い切り叫びたい衝動に駆られた。
(マホごめんね。ごめんねマホ。気づいてあげられなくて。ごめんね・・・ごめんね・・・ごめんね・・・)
こみ上げる後悔、罪悪感、恐怖、さまざまな感情が嗚咽にかわる。