薮蛇
「はい、高峰です」
(立石です。先ほどは、有難う御座いました)
「いえ、私は何も・・・。あ、今、霧島君も一緒なんですが・・・」
(それはちょうど良かった。彼にお礼が言いたかったので。代わってもらってもよろしいでしょうか?)
「ええ」
高峰は自分の携帯を啓介に差し出す。
「もしもし」
(霧島さんですか?)
「はい」
(すばやい対応に驚きました。有難う御座います。すぐに、謝礼の用意させていただきます)
「ありがとうございます。振込先の口座は追って連絡させていただきます」
(はい・・・)
「・・・」
(・・・)
「では・・・」
(あ、霧島さん。まだお話があります。折り入って相談したい事が・・・)
「・・・彼女の事・・・ですか?」
短く笑う息使い。の後、立石は、
(全く。霧島さんには隠し事はできませんね)
「清水 真帆さんの捜索・・・」
くわえたたばこに火をつける啓介。
(はい・・・)
「僕としましては、一向に構いませんが、立石さん。調査結果次第では貴方の立場が危うくなる可能性もある。その覚悟ができた・・・。そう、僕は判断してよろしいんでしょうか?」
(無論です。昨日あなたに会わなければ、その決断をできずに一生、頭の片隅で悩み続けているでしょう・・・。・・・彼女を放置した・・・そのために・・・)
「・・・わかりました。お引き受けします。少々込み入った案件なので、時間かかると思います。彼女、立石さんならご存知でしょうが、既に死亡している。僕も、立石さんが清水さんを発見した状況を視ましたので・・・」
(!・・・。ええ・・・そうですね。私は、彼女が死んでいるのをこの目で見ています。間違いないのです。・・・しかし、彼女の遺体が無くなった。物件担当者の・・・田口という者なんですが・・・彼にたびたびそれとなく入居者の報告をするよう指示したのですが、一向に清水さんを発見したという話は上がって来なかった・・・。しかし数週間後、突然空室になっていました。田口が言うには、遺書らしいものも何もなく、ただ忽然と消えたのだということです。一応、警察には失踪届けを提出したということですが・・・。手がかりは何もありませんでした。結局そのまま・・・誰にも相談できずに・・・)
「何か心当たりはありませんか?例えば・・・彼女を恨んでいたり、殺そうと考えていた人物に・・・」
(・・・・?。いえ・・・ありません。でも、彼女は自殺ではないんですか?)
「僕はそうは考えていません。彼女が消えた理由は、おそらく殺害した人物にとって都合の悪い証拠が遺体に残されていたのに気づき、再び自宅に戻り、遺体を隠した。そう考えられます」
(そんな・・・。信じられません・・・。でも、もし霧島さんの仰られる事が本当ならば、私に相談しないはずがない・・・。彼女は、私には本当の事を話してくれてましたから・・・)
「そうですか・・・。ひとまずこの件、預かります。彼女の失踪の裏に何が隠れているのか。藪をつついて、思わぬものが出てくるかもですが・・・」
(・・・?・・・はい。よろしくお願いします)
「そうだ、立石さんにもう一つお聞きしたいんですが・・・。彼女が、あの部屋での最初の失踪者ですか?」
(ええ。新築後すぐに彼女が住み始めたので・・・)
「なるほどです・・・ありがとうございます」
立石との会話を終えると、すぐさま高峰に携帯をつき返す。毛布を被り、ソファに横になる。
高峰はニ、三、立石と言葉を交わし、通話を切る。啓介に話しかけようとするが、すでに啓介はいびきをかき始めていた。
黒電話を見る高峰。
「清水さん。今は居ないですから。大丈夫ですよ」
目を開いて驚く。自分の思考を啓介がどこまで感づけるのか・・・高峰はいつも疑問に思う。
「彼女、また何処かへ行っちゃいました。・・・ふぁあ・・・」
寝返りをうつと、白い粉末がソファに付いている。
(きたね!風呂入れ!)
「・・・ぐお・・・」
高峰は、ため息を一つ残し、事務所を後にする事にした。