自殺
「とりあえず、彼女の事調べてみるつもりです。ていうか、もう、調べ始めているんですが・・・」
「なんで?」
「だって、清水 真帆さんからの依頼ですから。もう、立石さんから離れて、僕の所有物の電話に取り付いてるわけですから・・・。立石さんの許可はいらないと思うんですが」
「清水さんが?依頼?」
「ええ」
黒電話をチラ見。
「・・・依頼ねえ・・・」
しばらく考える高峰。目を大きく開いて『あ』の口に開いた。
「そういえば、わざと立石さんに触れた時、何かあると思ったけど・・・」
「分かっちゃってました?そう、あの時、清水さんを僕の方にのり憑いてもらったんです。立石さんに『憑いてます』って言ったのは・・・ハッタリです。そう思わせておけば、追加調査依頼、もらえるかもですから・・・」
「ホント、ちゃっかりしてるわね」
ため息まじりにタバコの煙を吐き出す。すでに満杯になった灰皿を持ちながら、ゴミ箱までの距離をのろのろ歩いて行く。立ったまま寝てしまうのではないかと思せるほど、ゴミ箱の前でずっと立ち続ける啓介。しばらくの間、ようやく吸殻をゴミ箱に捨てる。
(ジジイか!?)
と、内心、啓介につっこむ高峰。
「昨日、立石さんにメモを渡した時にですね・・・。立石さんの記憶。まあ僕が見たビジョンなんですが・・・。清水さんを発見した状況が見えたんです。明らかな自殺の現場でしたが、不信に思ったんですよ。何か違和感を感じたんです。」
頭をぼりぼり掻きながら啓介は、コーヒーサーバーの電源を入れる。
「高峰さんは?お茶?」
「ええ、ありがと」
ヤカンに水を入れ、コンロの火にかける。
「それでちょっと気になって、清水さんのこと調べてみたんです。すると彼女の遺体。まだ見つかってないって言うんですよ。今だ失踪人扱いなんです。不思議じゃないですか?」
「それホント?」
「ええ、警察で調べたんで間違いないです。それともう一点。そのビジョンの中で、気になった点。彼女、目を開けたまま死んでいたんです。普通、お風呂場で手首を切って自殺なら、意識が朦朧として、眠くなり、目を閉じた状態で亡くなるのが自然だと思うんです」
「確かにそうよね・・・」
「またですね、死後どのくらい時間が経っていたかはわからないんですが、手首を切って自殺となると、もっと大量の血がいろいろな所に飛び散ってないといけないはず。壁のタイルや、バスタブなど・・・。しかし僕の見たビジョンでは、とてもキレイな状態でした。立石さんの衣服にも、少なからず返り血が付着したはずなんですが・・・」
カップを二つ用意し。一つにお茶のティーパッグを入れながら、
「よくよく考えると違和感だらけなんです。・・・おそらく生活反応の無い清水さんの手首を切り、その手だけバスタブから出して自殺に見せかけた・・・。バスタブに寝かせられた清水さんにシャワーを浴びせておけば、血は流されたように思わせられますし・・・」
カタカタとヤカンのフタが音を立てる。
「他殺の可能性があります。だとすると・・・、またそこで一つ。大きな謎が出てきてしまう」
少し考えた後、高峰も何かに気づいた顔をする。
高峰が、何か言おうとしたその時、バッグの中から着信音が聞こえてきた。
カップを二つ持ちながら啓介は、
「そろそろ掛かってくる頃だと思いました。当てましょうか?立石さんでしょう?」
携帯の画面を確認する高峰。
着信は、確かに立石の番号からだった。