呼出
エレベーターを3Fで降りると、高峰は探偵事務所のドアを叩いた。
しばらくしても返事がない。
(もう、霧島君。いないの?)
ドアノブをガチャガチャ回したが、鍵は閉まっている。
気持ちは焦るばかりで、考えが一向にまとまらない。確かに先ほどまで女性の声で誰かが電話に出たのだから、誰か居るはずなのだ。
(一体・・・。誰?)
もう一度、高峰は携帯を取出し、探偵事務所に電話を掛ける。
ジリリリリリン・・・。
黒電話がドアの向こう側で鳴っている。番号はやはり間違っていなかった。
高峰からは死角になり見えていないが、通路奥のエレベーターが音もなく動き出した。
2F、1F、と表示ランプが移動した。高峰は電話のコールに集中して、それには気づかない。
ジリリリリリン・・・。
ジリリリリリン・・・。
根気強く電話を掛け続ける高峰。エレベーターは再び上昇を始める。1Fから2Fへランプが移動する。
リン・・・。
(出た!)
「霧島君!」
「・・・あなた・・・。だれ?」
またもや、同じ女性の声。このドアの向こう側に居るのだ。
エレベーターのドアが開く。
「あなたこそ誰なの!霧島君は?」
「・・・わたし・・・?」
高峰の背後に、人影が立つ。
「高峰さん。何やってるんです?」
「ひゃあ!」
あまりの驚きに高峰は腰を抜かした。
振り返ると啓介が立っていた。
事の次第を高峰から説明され、啓介は理解したらしく、
「ああ、彼女。電話に出れるんですね。」
「?・・・。誰か居るの?」
「まあ、居るっちゃあ居ますけど、居ないっちゃあ居ません・・・」
矛盾した答えをつぶやきながら、鍵を取り出し、ドアを開ける。啓介はコンビニの袋からジャムパンを取り出し、高峰を室内に促しながら、パンをくわえた。
「ちょっとした調査で、出てました。ついでに・・・飯」
コンビニの袋を見せる啓介、中から紙パックのオレンジジュースを取り出した。
「・・・まだ居るんだ、ヤだなあ。いつまで居る気なんだろ・・・」
紙パックにストローを刺しながら、
「紹介します。清水 真帆さんです」
そう言って、誰も座っいないソファの方に手をかざす。が、誰も見当たらない。
「・・・って、誰も居ないじゃない」
「だから、言ったじゃないですか。居るっちゃあ居ますけど、居ないっちゃあ居ないと・・・」
パンを飲み込みながら、啓介はソファ奥の床に転がされている黒電話を拾上げ、応接用のテーブルに置く。
「これが、今、清水 真帆さんなんですよ。あ、怖がらせてごめんなさいと言っています」
「余計怖いわ。・・・じゃあ。電話の中に彼女が居るって事?」
「んーまあ。そうですね」
なんとも歯切れの悪い返答をする啓介。
「・・・?」
なんとも言いようのない表情をする高峰。
「しょうがないなあ・・・。・・・高峰さん。ゴーストノイズってご存知ですか?」
「ゴーストノイズ?・・・」