証明
「塩・・・?」
「はい。ちょっと強すぎる場所は僕にとって、生気を吸い取られるようで、良くないんですよ」
啓介は、高峰から手の平一杯に塩を受け取り、頭、肩、両腕、両足と、くまなく全身にすり込む。
「僕のような人間は、そうでない人から見ると変人か、詐欺師のように見えるんでしょうね。僕も、客観的に見ればそう思いますし・・・」
自傷気味に目を細める啓介。
「予め言っておきます。パフォーマンスでもなんでもないんです。懐疑的な人は、トリックだの、なんちゃらリーディングだのと言って否定なさるのでしょうけど・・・。まあ、信じざるを得ない事は、時として異端視されますから。信じる信じないはお任せします。高峰さん、メモ帳と何か書くものを・・・」
高峰は自分のバッグから、メモ帳とボールペンを取り出し、啓介に手渡した。それらを受取り、啓介は両手をポケットに突っ込んで、アパートと向き合う。
「10分たっても出てこなければ、入って来てください」
そう言い残し、歩みを進めた。
道路を挟んだ向かいのアパートをただぼんやりと眺める立石と高峰。外観から、啓介の様子が全く分からない以上、ただ待つしかなかった。
待たされる10分というのは非常に長く感じる。時計の秒針が、たまに止まっているのではないかと思えてならない。ちらちらと時計を気にしながら立石は、なんとも形容しがたい表情をして、
「高峰さん。・・・彼は、何をやってるんですか?」
「ああ、いつもあんな感じで・・・。人には見せたがらないんです。でも、いろいろ取材してきた中で、本物だと信じる事ができたのは彼だけです。心配なさらなくても、ちゃんと仕事は果たしますから・・・」
「高峰さんが仰られるのなら、ひとまず信じます。ただ、目に見えないものを信じろといういうのは、いささか乱暴な気がするんです・・・。私は、結果が全てという仕事をしてきた人間ですから・・・」
「証拠が欲しいと・・・?無理もないですよね。でも、その応えも彼が証明してくれると思いますよ。ちょっとひねくれた性格ですけどね。彼、自分の才能が災いして人に対してはあんな感じですけど、引き受けた仕事に対しては、非常に真摯的なんですよ」
「はあ」
もう一度、時計を見る立石、そろそろ約束の10分を経過しようとしていた。
「話変わりますが、例のお話。考えておいてくださいね」
「え?あ、ああ。あの話ですね。ええ、いいですとも」
高峰は、立石に見えないように、小さくガッツポーズする。
「何たくらんでるんですかー」
部屋から出てきた啓介は、高峰に向かって叫ぶ。
(チツ、あのバカ遠視・・・)
「やっぱり、2人居ました」
そう言いながら、メモ帳の2ページを切り離し、立石に手渡す。その時、わざとらしく立石の指に、啓介は触れる。
「心あたりありますか?前、住んでいた方たちですよね」
「・・・ええ。確かに、そうですが」
続けて、メモ帳に何かを書き込む啓介。
「お二人とも亡くなっていますね。それと、この方も・・・。ただ、この方、あの部屋には憑いていないみたいです。どうします?ほっときますか?」
立石は、もう一枚メモを受取ると、表情が大きく変わった。驚きを隠せないようだ。
メモに書かれている内容はこうだった。
『シミズ マホ 20代前半? 立石さんの愛人? 調査要?』
啓介は言った。
「立石さん、あなたの後ろに居ますが・・・」