噂話
「イズミさん?」
「そう。今ネットで流行ってるんだって、都市伝説みたいなやつなんだけど。キョウコ知らない?」
「うん。・・・?。なにそれ、怖い話?」
「ま−怖いっちゃ怖いけど。怪談ではないんだよねー。コンピュータウィルスってあるでしょ?それの一つらしいんだけど、たち悪いらしいのよ。ほんとかウソかわかんないんだけどね」
「ふ〜ん。私、自分のパソコンあんまり開かないから、そういうの疎いのよ」
駅前のカフェで、キョウコはマホと二ヶ月ぶりに再会していた。
あまり人付き合いの良くないキョウコにとって、マホは希少な親友だ。
二人は新入社した会社の同期だった。
その頃からずっと一月おきくらいのペースで二人だけの女子会をやっていた。
やっと先輩社員からのイヤミが無くなり仕事になれはじめた二年目の頃、唐突にマホは退社してしまう。
その時の事は、キョウコにとってかなりショックだった。
仕事の悩みや恋愛、親友だと感じていたからこそ、包み隠さず素直に話せる仲だと思っていたのに・・・。なぜ、自分に何も相談してくれなかったのだろうか。
今だにあの時の彼女の本心は謎のままだ。
マホの退社後、なんとなく距離をおくようになってしまい、そのままが続いてしまうかもと思い始めていたのだが・・・。
マホの退社から二ヶ月後、何事もなかったかのように、今度の休みに会わないかと、マホからいつものような文面でメールを送ってきたのだ。
他愛のない都市伝説が話題になったのは、久しぶりの再会で花を咲かせ、お互いの近況を一通り話終えた後だった。
「・・・でね、送られて来たメールを削除しても、パソコンの中にウィルスが潜伏してるんだって。何度か来たメールを削除し続けるてると、デスクトップに音声ファイルが出てるんだって。そのファイルを開くと、おばあさんの声で『そろそろイズミさんのころさね・・・』って!・・・っね。怖くない?」
「・・・・〜ん。やっぱり怖い話じゃん。最近流行ってるネットの噂話でしょ?」
「最近、変なメール多いのよね・・・。」
マホはそう言いながらアイスカフェオレに口をつける。
キョウコは、悲しげに虚空を見つめるマホの瞳に漠然とした違和感を感じたが、かける言葉が見つからなかった。
その後、キョウコは買い物にマホを誘ったが、マホは用事があるからという理由でその店で別れた。
今思い返せば、あの時もっと突っ込んだ話ができていれば、何かもっと違う未来が開けたのではないだろうか・・・?
そう思わずにはいられない。彼女の身に何が起こっているのか聞き出せば良かったとキョウコは後悔する事になった。