依頼
「・・・で、僕は何をしたらいいんですか?」
高峰が来る前にはもう既に、テンダーロインのステーキセット&ライス大盛を平らげている啓介、デザートのチョコレートパフェに手を付け始めた。
「何って、いつものやつやってくれればいいから・・・。・・・って良く食べるわね。人のおごりだからって」
「取材したテイでどうとでもなるじゃないですか。正規依頼の探偵料とってないんだから、これぐらい当然ですよ」
高峰は人差し指を横に振り、
「チッ、チッ、チッ。今回は、依頼者ありよ。ちゃんと報酬も出るんだから。こっちが仲介料欲しいわ」
「・・・まさか・・・。僕の事、話たんですか?」
「大丈夫よう。ただ、探偵やってる知人がいるって話、しただけだから」
「それでも、あまり宣伝しないで下さい。高峰さん、自覚してないかもですけど、結構影響力あるんですから・・・」
高峰は肩をすぼめて舌を出し、
「エヘヘ、ごめんね」
「茶目っ気たっぷりでもダメです。前にも話しましたが、僕のこの力を宣伝するつまりはないんです。むしろ、なくなったほうがいいとさえ思ってるんですから」
「えー、もったいない」
あきれ顔でため息をつく啓介。パフェスプーンを高峰に向けながら、
「いいですか。そもそもですね・・・。あ」
スプーンからパフェのアイスがポタポタ落ちる。
「もう。子供か。・・・わーってるわよ。あなたに調査協力してもらうのは、あくまでもオフレコ。霧島 啓介の名前は出さない条件だって・・・」
紙ナプキンでテーブルを拭く高峰、
「じゃ、断る?これから依頼者に会いに行くの・・・」
そう言いながら、注文したハーブティをソーサーごと持ち上げて香りを楽しむ。
「・・・って、ちょっと待って下さい。なんでそんなに親切なんですか?高峰さん。自分の仕事以外で動く訳がない。・・・なにか裏があるんですね?」
・・・ソーサーを置き、ハーブティを一口飲む。空いた側の手を口に沿え、小指を立てて、
「オホホホホ・・・」
「お嬢様でもダメです」
高峰の運転する道中、啓介は依頼に関する事の成り行きを説明された。
話を要約すると、新築アパート一年目にして既に入居者が3回入替わり、今では一年以上空室のまま使われていない部屋があるという事。そこの管理会社 立石という人物からの調査依頼。
高峰の以前特集した記事『噂の幽霊マンションの真偽を徹底検証』(無論、この記事の取材協力にも啓介が一枚噛んでいるのだが・・・)を目にした立石が、出版者に連絡。高峰が相談に乗り、実名等伏せる条件付きで記事にするという了承を得て調査に応じた。との事だった。
「立石さんから、もう一つ条件があってね」
そう言いながら、通りに面した住宅街に入る道へ、ハンドルを切る高峰。
「・・・?」
「もし、前入居者さんの身辺調査ができたとしても。ご親族には、秘密にしておいて欲しいって・・・」
「・・・。了解しました・・・。あの建物ですね、オレンジ色の・・・」
「・・・わかる?」
啓介は、首をすぼめ、アパートとは逆の車窓の一点に注視する。あえて視なかった事にしたいかのように・・・。
「やだな。・・・もう、視えちゃったんですけど・・・。3人・・・いや。2人・・・?」
数百メートル進んだところで車はゆっくりと徐行し、黒い外車の後続に停車した。
問題の建物に到着した。
オレンジ色の屋根にアイボリー壁。プロヴァンス風のキレイなアパートだ。