気質
(順を追って話しましょう。きっかけは、雑誌記者からの取材協力の依頼から始まります・・・)
数ヶ月前。Kz探偵事務所。
朝から季節外れの暴風雨で、窓を打ち付ける雨の音とひどい風鳴りが、終始部屋中に響いている。懐かしくさえある黒電話のベルが、どこかで鳴っている。
そんな中、事務所の主、霧島 啓介は、ソファで毛布に包まり、眠っている。
しつこい電話のベル。もう3回目の呼出だった。居留守中の啓介は、そのたびに何度も寝返りをうち、煩わしく思っていたのだが、電話の相手は許してはくれないらしい。
結局根負けした。机の上に行き場所を無くして床に転がされている黒電話を、ソファから身を乗り出しながら受話器をあげる。
「はい・・・。ケイズ探偵事・・」
「霧島君?やっぱりいた」
かぶせ気味に、透き通るような耳当たりの良い女性の声が返ってくる。
やっぱり出なければ良かったと後悔する啓介。
「もう、10時よ。いつまで寝てるの」
「・・・まだ10時ですよ」
「あのねえ、社会人はとっくに仕事してる時間なの。いいから出てきなさい。ちゃんと身だしなみ整えて来るのよ、人に会うんだから。いつもの店で、そうね、1時に待ち合わせ。OK?」
「あの、高峰さん。今日は天気悪いので・・・、ちょっと・・・」
「大丈夫。午後から晴れる」
彼女の天気予報は外れた事がない。・・・というか晴れ女だ。彼女が歩くところ雲が逃げていくように不思議と晴れる。
「でも・・・」
「じゃ。よろしくー」
またもかぶせ気味に押切られた。
雑誌記者、高峰 恵理子に関わるとろくな事がない。
かといって、この探偵事務所の数少ない収入源である事も確かで、弱みにつけこまれ、特集記事の取材やら事件の調査やらで、ほぼ強制的に引受けさせられる。啓介とはもう数年前からの腐れ縁となりつつあった。
だから、啓介にとってみては今回の依頼もいつもの事だった。
啓介と高峰は、まるで真逆の気質を持っている。
そう啓介は感じていた。
例えるならば、陰と陽。裏と表。ネガティブとポジティブ。
その事自体が悪い事だと啓介は思わないが、高峰の記者として、人の裏側、心の陰惨な部分を感じ取る直感力とでもいうのだろうか・・・そういった資質に欠けているように啓介は感じる。しかも特集記事が、心霊現象や超常現象などのオカルトものばかり。自ら好んで担当する。
意気込んで現場入りするも、持ち前の気質が邪魔して霊の方から彼女を避けて逃げる始末。
そんなことだから高峰も、知ってか知らずか啓介の力を頼って引っ張り回すのだ。
「まったく・・・」
ソファのひじ掛けに腰を据え、たばこに火をつける。
「せちがない世の中ですな・・・」
(それを言うなら世知辛い。でしょ。)
と、高峰のツッコミが聞こえてきそうだ。
窓の外は相変わらずの暴風雨だが、心なしか先ほどよりは弱まっている気がする。空も幾分晴間が出始めているようだ・・・。
前のりして、記者もちで飯でも食っていようか。
と、たばこをふかしながら、啓介はそう考え始めていた。