理由
「で、僕も興味持ちまして・・・。この依頼引き受けたわけです。行方不明者の捜索といって、パターン的に考えられるのが二つです。事件に巻き込まれて連れ去られるというような、誘拐、拉致というケース。それとは対照的に自主的に身を隠す、逃亡、失踪というケース。この二つのどちらかで捜索方法もまた変わってきます。警察では明らかな犯行を証明できる事件でしか・・・、んー例えば、争った後があったり、身代金の要求があったり・・・。そういった類のものがない限り、あまり積極的には動いてくれないですからね。まあそういったわけで、僕のような職種の人間がいるんですが・・・。話を元に戻しましょう。今回の依頼、僕は終始この二つのケースのうち、どちらに当たるのだろうかずっと考えていました。そして、結論づけた僕なりの答えは『どちらとも当てはまる』でした」
「・・・はい・・・」
「マルタイをいろいろ調べていくうちにですね、ある都市伝説的な噂話に行き当たりまして・・・。パソコンやら携帯やらに送られてきたメールを開くと、動画もしくは音声が再生されて、それを見たり聞いたりしたら呪われる・・・そんな感じの。その噂の出処を調べてみたんです。難儀しました。話のタイトルからしていろいろでしたから。『キリコさん』『シズコさん』、『サトウさん』だったり、『タロウさん』なんていうのもありました」
彼女はアゴに手を添えて首を傾げる。どうも自分の知っているモノと違う、ピンとこない。
「まあ噂ですから、解釈が人それぞれで、しかも体験したという人物が、死ぬか失踪してしまうという話なもんで、当事者から話を聞くことができない。ほら、よくあるでしょう、花子さんとか・・・神隠しの伝説とか。噂っていうものは不思議と尾ヒレが付いていろいろな話に変わっていく。・・・いや、変えていくと言ったほうが正しい言い方なのでしょうか、僕ら受手の解釈に差異があるのかもしれませんしね」
どうも講釈が長くなるこの男の話を、しばらく黙って聞くことにした。
「ネット社会の弊害とでもいうんでしょうか、かなりの速さで全国的に広まった噂なので・・・。特定は難しいんですが、過去の履歴から、最も早いうちに騒がれ始めた時期と、その噂で亡くなった、もしくは失踪したのではと、思われる当事者達の当時の住所からわりだすと、関東近辺であることが判ってきたんです。そしてその噂の当事者たち・・・。もっともネット上の話ですから、確かな裏付けはありません。その約6割近くが、行方不明として語られている。ちなみに死亡したという結末は1割。話の結末はそこまでは語られていないものが3割。驚いたことに、5割以上が失踪したと言う結論で語られているんです。これは無視できない数字です。怪談として恐怖心を煽るならば、『見たり聞いたりした者は呪われて死ぬ』というのが常套句なはず。それが『行方知れず』という結果で結ばれているのには、何か確固たる理由があるからとしか考えられない・・・。そう僕は思うんです」
探偵は、ここまで熱っぽく饒舌にしゃべり終えると、満足げにコーヒーに口をつけ、一息ついた。
「そうそう、八百比丘尼の伝説というのを、ご存知ですか?」
「・・・ヤオ、ビクニ・・・?」