再生
メールの内容は何となく予想がついていた。送信元がマホのパソコンからだ。
マホがキョウコの携帯のアドレスをパソコンに登録していたのだろう。そこからウィルスの影響で、あのメールが転送されてきてもおかしくはない。
メールを開いてみるとやはりあのURLアドレスのみ。新着順に何件か開いてみたが、どれも同じ物だ。
一斉送信されたのだろか?マホのパソコンはシャットダウンしているはずだからこんなに定期的に送る事はできないはずなのに・・・
携帯の画面下をスクロールしていくと残りの30件位は自分のパソコンのアドレスから送信されたものだ。
キョウコは重いため息をついた。
目を閉じ、今度は悪い憑き物を吐き出すような深呼吸の後、覚悟を決めて、着信履歴のボタンを押す。
キョウコは首を傾げた。
全く憶えのない電話番号からの着信。そして、携帯画面に留守番サービスの新しい伝言がある事を知らせるマークが自然に付いた。
会社からだろうかとも思ったが、頭の番号があまりにも違いすぎる。
すぐにリコールしたほうがいいのかもしれないが、留守伝を聞いてからでも遅くはないだろうと思い、留守番サービスに電話した。
機械的な女性の音声ガイダンスの後、キョウコは指示通りボタンを押す。
「イッケンメノメッセージデス・・・ピーッ。・・・・・・プツ・・・」
(?・・・)
「コノメッセージヲショウキョシタイバアイハ・・・」
キョウコはまた一つため息をつき。迷うことなくメッセージを消去する。
「・・・ジ、ゴフン。ニケンメノメッセージデス・・・」
(・・・ザザッ!・・・ザザッ!・・・ザザッ!・・・・・・)
キョウコは一瞬にして凍りついた。
聞きとりにくいノイズに混じって録音されている不吉な音。なぜだかその状況がすぐにわかった。
その音を聞き逃すまいと、携帯を押し当てた耳の、そうでない耳を手で塞ぎ、目を閉じ、息をころして、録音再生に集中した。
人間を引きずる音だ。
しかも屋外の、土や落葉、枯木の上を・・・。
山中だと、キョウコは直感した。
引きずられている人間が、死んでいるのか、気を失っているのかは判断できない。
一定の間隔をおきながら少しずつ遠ざかって行く音。二人の気配から察すると、どちらかの携帯電話が地面に落ちている状態の録音だと判断できた。
引きずられている方の人間が、助けを求めるため電話をかけてきたと考えるのが自然だとキョウコは判断した。かけている最中に襲われたのか、襲われたからかけてきたのか・・・。どちらにしても、留守電サービスにつながった時には既に持主の手から離れてしまっていたのだろう。
録音再生終了と共に、同じ機械的なアナウンスが始まるとキョウコは携帯を閉じた。
目の裏側が熱くなってくるものを感じながら、うつむき、携帯を額に押し付けながら、人知れず泣くのをこらえようとした。
疲弊しきったキョウコには、もう考える力はなかった。
まるでわけの判らない夢でも見ているのではないかと思えるほど、次々と奇怪なことが起こっている。
この不思議な世界に出口があるのだろうか・・・と、ふと、キョウコは思った。