~08~
あれから1ヶ月。
麗加は人が変わったように呆然と空を見上げるばかりだった。
本当は何もかもが嘘だったような気さえしていた。
レッドタウンに行くのも、街が爆発した瞬間も、すべてが夢だったような。
いや・・・夢であってほしい。
「暮内さん食事の時間ですよ」
看護婦が麗加に食事を運ぶ。
しかし麗加は言葉にならない返事を返すだけで、目線は空に向けたままだった。
「・・・、少しでも良いから、食べてね」
看護婦は麗加を心配に思いながら部屋を後にした。
鬱状態にあった麗加はしばらく食事も喉を通らなかった。
治療は受けているものの心の傷は深かった。
こんな日が何日も続いた。
家族を失った麗加のショックは相当なものだったのだろう。
生きる希望さえ失ったようにも感じる。
まだ痛々しい傷跡も残るが、命が助かったのは本当に奇跡だった。
今では自分で歩くことも出来るようになった。
しばらく様子を見た後、仁は少し時間をとり、こっそり麗加を学校の前まで連れて行くことにした。
「君は決して一人ではないはずだよ。早く元気になって友達とも会いたいだろう?」
少し遠くに車を止め、学校を眺めた。
麗加の表情に少し変化が見られた。
丁度部活に励む勇也の姿が目に入ったのだった。
仁は更にと、小型のノートパソコンを麗加に渡し、メールの一覧を見せた。
「君がうちに入院してると聞いてクラス中からメールが来たんだよ」
麗加は一つ一つに目を通した。
『元気になったら学校においで』
『無事でよかった』
『また一緒に授業を受けられる日を待っている』
などどれも暖かいものだった。
親友の千風と美兎からのメールもある。
『麗加が無事でホント良かった!!残念なこともあって辛いだろうけど、麗加には私らがいるよ!
すぐには無理かもしれないけど少しずつ元気を取り戻して・・・。
元気でたら連絡してね!そしたら私たち会いに行くから』
麗加が元気になって会いたいと思うまで待っている。
二人の精一杯の友情が込められていた。
勇也からもメールが来ていた。
『今は辛いだろうけど、無理はしなくて良い。
だけど、君は一人ではない。
また元気な姿で会える日を楽しみにしてるよ』
麗加の目に涙が溢れた。
悲しみの涙ではない。
嬉しい涙だった。
何より勇也からの言葉が嬉しかった。
「先生・・・ありがとう」
麗加は仁に礼を言うと、メールをじっと見つめていた。
安心した仁は微笑み車を発進させた。
それから麗加は少しずつ前向きになり、回復していった。
怪我の傷も大分消え、麗加は学校に行きたいと思い始めていた。
「暮内さん、そろそろ自分で外に出てみる気はない?」
「え?」
「外出許可。出してあげるよ」
「本当!?私、学校に行きたい!皆に会いたい!!」
麗加がはじめて笑みを見せた。