~32~
翌朝、豪と麗加はいつものように登校して行く。
しかし、2人にとってはこれが最後の登校となるであろうと、そう覚悟を決めてのものだった。
教室でいつものように千風と美兎に声をかける。
麗加はなるべく普段通りに接するが、心中穏やかでないのは彼女だけではなかった。
千風もまた、自分が麗加に対して抱く嫉妬心や嫌悪を見せたくなくて必死で隠す。
親友だと思ってた麗加の恋を心から応援してたのに、まさかほんとは自分が好意を抱いた相手と隠れて付き合っていたのかと思うと憎しみが芽生えてしまう。
千風はそんな自分の事も嫌でたまらず複雑な心境下にいた。
そして放課後。
豪は遂に直接対決を挑む事にする。
「豪!私も行く」
「いや、俺一人で行く」
「でも…!!」
「最後だろ。目に焼き付ける時間くらいは稼いでやる」
麗加も行こうとするが、豪はほんとにこれが最後になるだろうからと、勇也に費やす時間にしたら良いと告げてくれたのだ。
「豪………ありがとう」
豪はA-D2Xと思われる人物を屋上に呼び出した。
そこに現れたのは……
「やっぱり、あんたがA-D2Xだったのか…」
「あぁ、そうだよ」
諏訪だった。
そう認めた瞬間、豪は憎しみを込めて諏訪に向かって攻撃を仕掛ける。
「うぁああぁぁ!!!!!!」
全身全霊込めて殴りかかるが、諏訪はそれを簡単に交わしてしまう。
やはり強い。
「クソッ!!あぁあぁぁぁ!!!!!!」
豪は更に怒りを込めたパンチを繰り出すが、それも諏訪の手で封じられてしまう。
諏訪は豪の拳をグッと握ると、睨み付ける豪に語りかけた。
「でも君が戦うべき相手は僕じゃない」
そう諏訪が言うと豪は諏訪と距離を取った。
「黙れ!家族を…レッドタウンをやったのはお前だろ!」
諏訪は静かに目を閉じ少しの間の後ゆっくり目を開く。
「守れなかった。ごめんね」
思いがけない返答に豪は戸惑う。
「兄さん達に会わせてくれないか?全てを話すよ。」
思いがけない展開だったが、豪は諏訪を田上兄弟の元へ連れて行った。
諏訪は外観プログラムを切り替えるとその姿は仁らの知る蓮の姿に変化した。
「蓮…!!!」
初めて見る光景に一同は息を呑んだが、見覚えのある姿に思わず名を呼ぶ。
「仁兄さん、賢兄さん、お久しぶりですね」
ずっと探し求めていた殺人マシーンが今目の前に、しかも弟の姿で存在していると思うと複雑な表情を浮かべるしかない。
蓮の姿をしたA-D2Xは語り始める。
「僕は、ボディガード型アンドロイドのモデルとして造られました。だけど本当の目的は……人型兵器開発です」
「人型……兵器………」
賢が青ざめて呟く。
「父さんの技術を盗み、兵器として開発するのが国の目的だと知り、父さんは悪用されないようすぐに僕にプロテクトをかけて逃してくれました。だけど国は技術さえ手に入れば用無しな人間を排除すべく僕を暴走マシーンに仕立て上げ町を破壊しました」
A-D2Xが暴走したと言うのは偽造された真実だった。
「この3つの町に住む人間は兵器として改造されるために存在しています。此処はかつて技術の優れた小さな1つの先進国でしたが今はもう地図にも存在しない極秘な存在です。今此処に存在している人々は優れた能力を持って生まれた選らばれし者たち。一番安全で一番危険な人間そのものを兵器にすること、それが真の目的なんです」
事実を知ると一同は言葉に詰まってしまう。
「………!!それで、父さんは?!」
ハッとした仁が問いかける。
「父さんは生きていますが、病んでしまっています。今は安全な場所に確保しています。それよりも僕を探し出すために先日の祭りで撒かれたウイルスに麗加が侵されています。ホントに危険なのは……彼女です」
「麗加は今どこに?」
賢が慌てて豪に問いかける。
「連れ戻してくる」
豪は急いで学校へと向かった。
麗加は勇也の姿を目に焼き付けるようにグランドが見える教室から部活に励む姿をひっそりと眺めていた。
もう会えなくなるかもしれない。
でも守るためにはやるしかない。
その時教室の戸が開いた。
振り返るとそこにいたのは千風だった。
「ちょっと良い?」
「うん…」
千風は教室に入ると戸を閉めた。
「何してたの?」
「え…あ、ちょっとね…」
照れくさそうにする麗加に思わず顔が強ばる。
「なんで……」
「え?」
絞り出すような言葉が聞き取れなかったかと思うと、千風は我慢できずに声を張る。
「何でほんとの事言ってくんないの!?私に気使ってるつもり?!!」
「え?!」
麗加は訳が分からず戸惑う。
「麗加、ほんとは豪と付き合ってるよね!!?」
「え?!違うよ?!何で?!」
「この前聞いちゃったんだよね、豪と二人で教室で…俺たちの事は知られない方が良いって話してるの」
「あれは!!」
誤解を解こうとしたその時、
「ああ、事実だ」
教室の隅から別の声が聞こえた。
二人が振り返るとそこには豪の姿があった。
「豪!!何言って!!」
またも弁解を図ろうとする麗加に黙ってろと目で合図しながら近づくと、麗加の肩を引き寄せる。
「黙ってて悪かった」
千風は感情がまとまらず引きつった顔をしている。
「好きな子いるって……死んだって……話しは、嘘?」
「……すまない」
千風は思わず豪にビンタしてしまう。
「馬鹿にしてんの!!?最低だよ!!私嬉しかったのに……。別にさ2人が付き合うのは勝手だけどさ、じゃあ何で麗加は邦鷹の事今も眺めてたの?邦鷹がどんなけ麗加の事想ってるか分かってんの?!!半端なことすんなよ!!」
千風は怒り任せに吐き散らすと2人の前から去って行った。
「豪!!何であんな嘘を!!」
「返って好都合だろ。正体を知られるよりはマシだ。どのみちもう会うことはない」
「……」
「それより、予想外の事実が発覚した」
「諏訪はA-D2Xじゃなかったの?」
「いや、それは事実だったが…」
豪は少しの間を置いて告げた。
「お前はウイルスに侵されている。機能停止させないと、殺人マシーンになるのはお前だ」
「え…?」