〜30〜
外観プログラムの中から見つけた弟だと言う1つの顔。
仁はそんな弟の存在を語る。
「蓮は産まれたときから体が弱く、まだ医療がここまで発達していなくて長くは生きられないと言われてた。5年前、蓮は危篤状態に陥ってしまいそのまま…」
仁が言葉に詰まると、賢は憶測を述べる。
「ボディーガードプロジェクトが始まったのがその頃だった。父さんはこのプロジェクトで開発した技術を蓮の再生に活かそうとしたのか。となるとA-D2Xは蓮……」
殺人マシーンに弟が悪用されたと思うと、ますます父親を理解できなくなる。
仁は苛立ちが押さえられず壁を力一杯叩きつけると"ガン!"と大きな音を立てた。
麗加と真純は言葉を失ったままだ。
身内なだけに取り乱す仁とは逆に相変わらず冷静を保つ豪。
「いや、あくまでこれはデータの一つに過ぎない。A-D2Xが蓮の姿とは限らない。…でも、近くにいる可能性は高いな」
そう告げると、すぐさまその場から立ち去って行く。
麗加は黙ったまま豪を慌てて追いかけた。
実は麗加はあることに気付いていて、それは豪も同じであった。
廊下を進み他の誰の気配も無いところまで来ると歩みを止める。
「おい、気付いたか?」
「うん…」
二人はこっそりと会話を交わす。
「間違いなくアイツがA-D2Xだな」
豪は確信すると、再び他に気配がないかを確認する。
「明日学校で計画を立てるぞ。それまでは仁達にはバレないようにする」
「分かった」
そう交わすと二人はお互いの部屋へ戻った。
翌日、麗加と豪はそれぞれにいつも通りの登校をするが心中穏やかではなかった。
麗加は千風と美兎と過ごすも時々他の何かに気を取られるような瞬間が度々あった。
そんな麗加に対して、あれから確かめたい気持ちが募るもなかなか聞き出せずにモヤモヤしているのをひた隠しにする千風は麗加の些細な行動も気になってしまう。
美兎は自身の事で頭が一杯で浮かれておりそんな二人の様子には全く気付いていない。
昼休みになると3人は校庭でお弁当を広げる。
一見いつも通り楽しんでいるが、個々に心中はバラバラであった。
千風が思いきったように切り出す。
「ねぇ、昨日……豪何か言ってた?」
「え?えっと…私は何も聞いてないよ」
「そっか……」
会話がぎこちない気がした。
気まずい空気が流れる。
「私振られたよ。好きな子いるんだって。でも大事な友達だって言ってくれた」
「あ、そうだったんだ……残念だったね…」
「うん」
千風はその好きな子が本当は目の前にいる麗加なのではないかと疑いが募り上手く表情が作れない。
「麗加は?」
「え?」
「麗加は何で邦鷹に告白しないの?」
急かすように問いかける。
「あー、うん、自信ないよ…」
麗加は苦笑しながら髪を押さえて答える。
「大丈夫っしょ、どう見ても両思いじゃん。早くくっついちゃいなよ!」
黙って見てた美兎は何だかいつもと様子が違う千風に不安になる。
「ちーちゃん?落ち着こ?」
少し恐怖心を覚えた美兎の表情が引きつっていた。
千風は深いため息をつく。
「……うん、ごめん」
「私がウジウジしてるからイライラするよね。ごめんね、ありがとう」
麗加は申し訳なさそうに答える。
「何かごめんね、私先戻るね」
お弁当箱をサッと片付けると千風は校舎へと行ってしまった。
「ちーちゃん、傷心なんだと思う。麗加気にしなくて良いよ」
「うん…」
なぜ急に気まずくなってしまったのか分からず困惑する。
両思いならどんなに嬉しいか。
でも……
麗加は明かせない使命を背負う事に懸念を抱き躊躇うのだった。