~28~
研究所では賢が何時間もモニターに向かっていた。
外観プログラムのパターン照合を一つ一つ行っている。
半分以上のデータを見終わって疲労感に襲われていると、あるデータで賢の手が止まった。
「こ…れ………」
信じられないものを見るかのように硬直した。
「嘘…だろ?」
そのモニターに表示されたA-D2Xの外観に驚きを隠せなかった。
間もなくして麗加のE-noteに連絡が入った。
どさくさ紛れに繋いだ手がその電子音により放たれる。
「ごめんなさい…」
「いや…」
少し気まずさが漂う。
麗加がE-noteを確認すると、賢から至急帰宅してほしいとの連絡だった。
同時にそれは豪にも伝わる。
豪は連絡を見ると何か進展があったものと察した。
「悪い、急用のようだ」
「そっか」
折角腹を割って話せたのでもう少し話したかった千風が残念そうな顔をした。
豪が控え室を出ようとした時。
「豪!!」
突然、千風から初めて名前で呼ばれて振り向く。
「………って、呼んでもいい?」
千風は少し緊張しながら尋ねる。
「友達…だし!」
続けて問う。
豪は笑みを浮かべ、
「もちろんだ。じゃあまた、千風」
そう言って控え室を後にした。
千風は安堵と喜びに包まれた。
「帰らなきゃ、家から呼び出し。迎えに来るって」
麗加は残念そうに勇也に告げた。
「あ、そうなんだ」
もう少しこのままいたかった…そんな想いをお互いに抱いていた。
人混みの中で立ち止まってしまった為にすぐに人波に押し寄せられ麗加は思わずよろける。
拍子に麗加は勇也の腕の中に飛び込んでしまった。
「あっ…」
あっという間の出来事で、勇也も咄嗟に麗加を抱き止めた。
ドクン…ドクン…ドクン…
騒がしい会場の中で麗加の耳に一番近く聞こえたのは勇也の心臓の鼓動だった。
ハッとし麗加は離れようとした。
「ごめんなさ…」
しかし、再び麗加は勇也の腕の中に引き戻される。
今度は勇也自身の力で、ぎゅっと抱き締められた。
それはほんの数秒間だったが、勇也の温もりが麗加を包み込んだ。
「あ、ご、ごめん!」
急に我に返った勇也は麗加から手を離した。
お互いに呆然としてしまう。
引き留めたい気持ちが行動に出てしまい勇也は焦っていた。
「ううん……」
麗加はうつむいたまま返事をする。
「おーい!大丈夫かーい?」
はぐれて心配して戻ってきた星夜と美兎が二人に声をかけてきた。
「あぁ、暮内急用で帰るって」
「えー、麗加帰っちゃうのー?」
美兎が残念そうに言った。
「ごめんね、今日はありがとう。じゃあ、またね」
麗加はその場の皆にお礼を告げ、迎えの来る場所へ向かおうとする。
「気を付けてねー!」
「まったねぇ~!」
美兎と星夜が手を振る。
勇也は静かに麗加を見送った。
会場の外では仁が車で待機していて、既に豪の姿もあった。
二人の表情は固かった。
「ごめんなさい。お待たせしました」
「すまないね、呼び出したりして。乗って」
麗加が乗り込むと仁は車を発進させた。
「おーい!」
麗加を見送った3人の元に千風がやってきた。
「やーっと見つけたぁ!だーれも戻って来ないんだもーん」
千風は膨れっ面を見せる。
「え?どーなった?どーなった?え?」
茶化す星夜に美兎の鉄拳が飛んで来た。
「あんたはもう!デリカシーないんだから!」
「だってぇ、気になるじゃーん!」
「あっはは!」
そんなやり取りに思わず千風は笑った。
「皆ありがと。お陰でスッキリした!」
清々しい笑顔を見せるので上手くいったのかと思えるが、豪の姿がないので疑問に思う。
「丹波は?」
勇也が問う。
「急用だって、帰っちゃった。あれ?麗加は?」
麗加の姿がない事に気付き今度は千風が問う。
「暮内も家から呼び出しだって」
「ふーん、そうなんだ」
そう聞いて千風はちょっとだけつまらなさそうな顔をした。