~26~
「だから、お願いっ!来週の大会丹波くん誘って見に来てくれないかな!?」
千風は頭を下げながら手を合わせた。
「うん、分かった」
麗加は快く引き受けた。
「ありがとー!」
千風は麗加の手を握り上下に勢い良く振る。
「そしたら次は麗加の番だね!」
ニッと白い歯を見せてテンション高く千風が言う。
麗加は微笑んで見せるが胸中はそう浮かれてもいられなかったのだった。
帰宅した麗加は豪の部屋へ向かった。
戸をノックし、ドアを開けると熱心にモニターを見ている豪の姿があった。
一瞬こちらを見るとまたモニターに視線を戻す。
「何か分かったか?」
豪は賢から貰ったA-D2Xのデータに目をやったまま問いかける。
「その事じゃないんだけど…いい?」
ちょっと言い出しにくそうに麗加は尋ねる。
相変わらずモニターに目をやったまま少し間を置いて豪は再び口を開く。
「どうした?」
「あのさ、今度千風がダンス祭に出場するから皆で応援に行かない?って誘いなんだけど…」
この様子だと断られるかと少し不安になった。
少しして豪が振り返る。
「分かった。人も沢山集まるだろうし何か見つかるかもしれないしな」
承諾はしてくれたがそれはあくまでA-D2X捜しの口実だからだった。
麗加は自分の事も応援してくれる親友の力に少しでもなりたい気持ちもあるのでちょっと腑に落ちなかった。
「ねぇ、千風の事、ちゃんと見てあげてね!」
そう言って麗加は部屋を後にした。
豪は少し複雑そうな顔をしたが再びモニターを眺めた。
当日、千風は華麗なるダンスを披露。
見事千風は優勝を果たした。
「お疲れー!おめでとぉ!」
「まじすっげかっこ良かったわー!」
控え室に駆けつけた美兎と星夜が千風を盛大に祝う。
「ははっ、なんか照れ臭いわ」
照れ笑いを見せる千風。
麗加と勇也も祝福する。
だが麗加はそれよりも豪の様子が気になるのだった。
AD-2Xの手がかりばかりを気にしてなかなか控え室に現れない。
少ししてやっと豪が姿を現した。
「遅くなってすまない。優勝おめでとう」
「ありがと」
千風は今日一番照れ臭そうに、でも一番嬉しそうな顔をした。
豪が来てホッとしたところで、作戦を開始した。
「あ、私何飲み物買ってくる!」
麗加が切り出すと、美兎が「私も手伝うー!」と言って麗加についていく。
すると「俺、美兎手伝うー!」と星夜が美兎に続き、「じゃあ俺も手伝うよ」と勇也も続いて4人は控え室から出て行った。
千風と豪はシンと静まる控え室に残された。
豪は状況が呑み込めず少し唖然としたが「俺も手伝うべきなのかな?」と困惑した。
「丹波くん、ごめん。皆私に気きかしてくれたんだ」
千風はうつ向いて豪に話しかける。
一気に緊張が高まり顔が上げられなくなった。
「今日、来てくれてありがとう!どうしても今日、見てほしかったんだ。これが私の一番の姿だったから…」
豪は黙って千風の言葉に耳を向けている。
「私、丹波くんが、好きです」
震える声で千風が告白した。
豪は思わぬ言葉に少し動揺した。
二人の間に沈黙が走る。
豪は何かを考えているようだった。
なかなか返事がない事に耐えられず千風が先に口を開く。
「ごめん!何か突然だよね!困るよね!」
やっぱいいや!と軽く流してしまおうとしてる千風に豪は「すまない」と告げた。