~23~
日が沈みかけの小さな公園にぽつんと一人美兎はたたずんでいた。
ベンチに座りため息をひとつつく。
気が沈む美兎とは裏腹に、きゃっきゃと幼児の楽しそうな声が耳に届いた。
5歳くらいの男の子と女の子が二人滑り台で遊んでいる。
その光景をボーッと眺めているといつしか昔の自分に重ねていた。
「せいやー!まってよー!」
高いところが少し苦手な美兎はいつも滑り台を上るのが遅かった。
「はやくこいよーみうー!」
ひょいっと素早く上っていく星夜が天辺から美兎を呼んでいる。
滑り台の梯子を上るのは足元から下が丸見えでそれが怖くて一歩一歩慎重になる。
「みう!した、みるな!」
「う…」
恐る恐る足元から目を離し上を見上げると、太陽と重なる星夜の眩しい笑顔が見えた。
その笑顔を見ると美兎はいつも勇気がでるのだ。
そんな思い出に浸っていたとき。
「わーー!!!」
いきなり耳に飛び込んできた子供の叫び声にハッとする。
見てみるとさっきの幼児二人がいつの間に現れたのか大きな野良犬と向かい合いになっていた。
男の子が小さなその体を盾に女の子をかばっている。
男の子は必死に大声で威嚇するが野良犬はびくともしない。
野良犬は幸い威嚇する様子はなく静かではあったが幼児からしたら自分より大きな存在であり恐怖感を与えている。
思いきって美兎は立ち上がった。
「二人ともこっちおいで!」
美兎は公園の入り口に子供たちを呼び寄せ、そのまま家に帰るよう告げ逃がした。
自分も帰ろうとしたのだがその足は酷く震えている。
実は美兎も犬が苦手だった。
それこそ今と同じ理由で、小さい頃に追いかけられて恐怖を覚えて以来怖い存在だったのだ。
「う……うぅ…こないで!こないで!」
動けない美兎は呪文のように何度も願いながら犬が去るのを待ったが、期待とは裏腹に美兎の方へ向かってくる。
「なんで?なんで?こないでこないでこないでこないでー!」
思わずその場にしゃがみ込み頭を抱えて身を縮めた。
「おりゃー!!!」
その時どこからかまた人の叫び声が聞こえた。
そっと美兎が目を開くと目の前に向かってきていたはずの犬は何故か自分とは距離をおいた場所で何かを頬張っていた。
何が起きたのか一瞬分からなかったが美兎が振り返ると…
「なん…で?」
そこにいたのは星夜だった。
不機嫌そうにして立っている。
犬が頬張ったものを完食しまた近づいてきそうだったので星夜は手に持っていた残りのお菓子を遠くへ頬り投げると犬は走って行ってしまった。
「たく、何やってんだよ」
「は?…別に、誰も助けてほしくなんかなかったんだから!!」
「なっ!」
美兎は星夜に背を向けツンとする。
不穏な空気が流れた。
「てか、何でいんの?!部活でしょ!?」
「腹イテェから…休んだんだよ!わりぃかよ!」
「何それ。"可愛い彼女"がせっかく出来たのに随分とか弱いのね!」
「………」
否定しない星夜にズキンと胸が痛んだ。
背を向けたまま沈黙が走る。
悲しくなり美兎の目には涙がたまっていた。
「あの…さ、美兎…」
「やだ……」
「え?」
美兎の背中が震えている。
堪えきれず美兎は振り向くと泣き叫んだ。
「やだ!!!!星夜が他の人の所に行っちゃうなんて絶対にイヤ!!!」
「美兎…」
美兎は本音をぶちまけた。
恥ずかしさと悲しさで顔をぐちゃぐちゃにして、手で顔を覆った。
「………ごめん」
美兎は凍りついた。