~22~
「あ、美兎!おかえりー」
美兎が立ち去ってから30分くらいが経っていた。
やっと帰ってきた美兎を手を振りながら千風が出迎える。
「遅かったねぇ、大丈夫?」
立ち去るときから様子が変だった美兎を心配する。
「うん。……ちょっと、お母さんから連絡来て急用頼まれたから私先に帰るね!」
苦笑を浮かべながら美兎が置きっぱなしだった鞄を取る。
「そかー、じゃあ、また明日ね!」
「気をつけて。また明日!」
千風と麗加は美兎を見送る。
「またね!」
美兎は笑顔で二人の元を去っていった。
「急用ねぇ…?」
千風が疑問を抱きながら呟いた。
連絡手段であるはずのe-noteも置きっぱなしだったのを知っていた千風は美兎の嘘を見破っていた。
「こりゃヒト波乱起きそうだねぇ」
グランドに姿を見せない星夜と嘘の理由で帰った美兎の様子に千風は直感する。
「おい、東海林はどうした?」
グランドでは部員らが集合し、星夜がいないのを顧問が部員に問う。
なかなか現れない星夜に勇也は呆れてため息をこぼした。
「俺、見てきます!」
勇也はしびれを切らし星夜を呼びに校内へ向かった。
勇也もいなくなってしまい、グランドに用がなくなってしまった麗加も複雑な表情を見せる。
「今日はなんだか皆都合悪そうだね」
千風が退屈なんじゃないかと気を使い麗加は帰宅を促す。
「麗加はどうする?」
残念な気持ちもあるが、AD-2Xの事を全く手伝っていないのもあることを思い解散を選択する。
「"家の手伝い"もしなきゃだし、今日は帰ろうかな」
「んじゃぁあたしも帰ろー」
二人はその場で解散し、それぞれ帰路に向かった。
その頃校内では勇也が星夜の姿を見つけるが、その姿はとても部活をするようには見えず、結局制服のまま教室で一人物思いに更ける様子だった。
「何サボってんだよ!」
呆れた顔で星夜に問う。
「………すまん」
それどころじゃなくてと言った様子で星夜は答える。
しばし沈黙が続き、勇也は致命的な一言を放つ。
「愛しの美兎ちゃん、帰ったぞ」
グランドから密かに麗加を見ていた勇也はそこにいた美兎が去っていくのも見ていたのだ。
「えっ!!!…あ!べ、別にそんなの……」
すぐにはぐらかしたが動揺しているのがバレバレだった。
しかしその場を動こうとしない星夜。
また沈黙が続いた。
「…俺なら、追いかける」
勇也は自分ならそうすると一言告げた。
星夜は頭をグシャグシャとかきむしり、大声を上げる。
「あー!!クソッ!!!」
その怒りの矛先は自分に向いているようだ。
星夜はやっと思い立ち鞄を掴み取る。
「わりぃ、"腹イテェ"から今日は帰るわ」
監督にはそう伝えてくれと言う意味で勇也に告げ、星夜は教室を出ていく。
勇也は笑みを見せ、一言「お大事に!」と返し、グランドに戻って行く。
星夜はSD乗場に急ぐとすぐさま起動させ、美兎を追って発進させた。
勇也が校舎玄関に来ると、丁度玄関前を歩いて通ろうとする麗加とハチ会った。
「あっ!」
「おう!」
偶然か必然か、出会えたことに喜びを感じあう空気が流れる。
しかし、それは帰路に向かう麗加の様子に気づき無念へと変わる。
「帰り?」
「う、うん。最近家の手伝いサボっちゃってて…」
「そっか」
平静を装うが残念そうに勇也が答える。
麗加もせっかく勇也が戻ってきたが露骨すぎて戻るに戻れずといった感じになってしまった。
お互いに引き留めたいが余計な気持ちが邪魔して押さえてしまう。
何とももどかしい空気だった。
「じゃあ、気を付けてな!」
「うん、邦鷹君も部活頑張ってね!」
「おう!またな!」
「またね!」
お互いに気を使う気持ちに満たされ二人は笑顔で別れた。