~16~
その後何事もないまま3日が過ぎ、休日の今日は以前千風が提案した「麗加の復帰祝い」の予定だ。
とは言っても若者同士集まって行う遊びは知れているものではある。
「二人とも気を付けて」
身支度を整えて準備が揃った麗加と豪が玄関に立ち、仁と真純が見送る。
「いってきます!」
笑顔で返す麗加とは反対に何も言わずに出ていく豪。
そんな二人を送り出すと仁が呟く。
「こうして見ていると、麗加の方が心を持っているようだな。本当は豪の方がずっと人間に近いんだが…」
「あれが全て錯覚させられているなんて…」
そんな仁の言葉に真純も寂しそうに答えた。
麗加と豪は待ち合わせ場所まで一緒に向かう。
別行動では怪しまれると思い、珍しく豪も歩いている。
「ごめんね…?本当はスカイシステム使いたいでしょ?」
ずっと無言の豪に麗加は申し訳なさそうに言う。
「気にするな。俺だってそこまでめんどくさがりではない。それにこうして改めて目を向けるのも必要だろう。良い機会だ」
そうは言うが合わせてくれていることに麗加は嬉しい感情を覚えニコッと笑った。
待ち合わせ場所はブルータウンの中心地にある駅である。
目的の場所が見えてくると既に他のメンバーは集合していた。
「あ、こっちこっちー!!」
千風が麗加と豪の姿に気づき大きく手を振った。
「お待たせ」
麗加が小走りで先に近づき、後から歩調を変えずに豪も到着した。
「キャー!丹波君私服姿クールだね!!」
細身の白のパンツに黒のシャツを合わせたシンプルなコーディネートだが、千風にはそれがまたそそられたようだ。
「よしっ!行くかー!!」
先頭を切ったのは星夜だった。
「つーか、アンタ誘ってないし!!」
美兎が冷たい一言を放つと星夜はプーっと頬を膨らませ拗ねる。
麗加と勇也はそんな光景に思わず顔を合わせ、笑った。
六人はその場を移動する。
星夜と美兎の恒例の喧嘩を微笑ましく見守る勇也と麗加、その後ろを千風と豪が歩いている。
ふと何かを感じ取ったかのように豪が足を止め振り返る。
周りを見渡している豪に気が付いた千風も振り返り足を止めた。
「丹波君~!どうかした?」
千風が小走りで豪の元へ駆け寄る。
豪は「気のせいか」と思い直すと千風に「なんでもない」と告げた。
「いこいこ!」
千風は豪の腕を引き、先に行く四人の元へ戻った。
しかし豪は確かに誰かの視線を感じた…とどうしても気になるのだった。
ゲームセンターへ行き、カラオケをして、デパートを回り楽しい時間を過ごした。
皆が楽しんでいる中でも常に周りを警戒していた豪を除いては…。
「ねぇ、お茶しよーよ!」
千風がそう言って若者に人気のカフェに誘った。
六人はカフェに入店していく。
最後に店に入ろうとした豪はその時強い視線を感じた。
豪はとっさに警戒心を強め、思わず威嚇するように身構えて振り返る。
一瞬凍りつくような形相を向けたその相手の顔を見た瞬間に豪の表情は一転した。
「やあ」
そこにいたのは須吾だった。
ずっと視線を感じていたのは須吾だったのか…?
「あれー?センセーじゃん!!」
気づいた千風に続き他のメンバーも「こんにちわー」などと声をかけた。
「楽しそうだね。僕も仲間に入れてくれよ」
にっこり笑って須吾が申し出た。
須吾が加わった7人は飲み物を購入して席に着いた。
「そういえば麗加は初めてだよね!須吾センセー」
千風がそう言うと、須吾は麗加の方へ目を向ける。
「そうか、君が暮内さんだね。世界史の須吾です。よろしく!」
優しい笑顔を向ける須吾に、麗加もニコッと笑顔を見せた。
「宜しくお願いします」
そんな麗加を見た須吾は安堵とも不安ともとれない眼差しを麗加に向ける。
そこに深い意味が込められているとは誰にも分からないままにその場は盛り上がり始めた。