~15~
「麗加ー!行くよー!!」
放課後を待ちわびていたと千風が麗加を誘っている。
美兎も加わると以前と変わらない”お決まりの場所”へと向かった。
そこはグランドが見渡せる校庭だ。
その中でも目的のサッカー部が良く見える定位置へと来ると、三人はその場に腰を下ろした。
「うほっ!久しぶりだー!」
青空の下、うーーん!と背伸びをする千風。
「麗加がいない間は用なかったもんねー」
美兎も手を組んで腕を前に伸ばした。
「えー、それはどうかなぁ?私は麗加の付き添いだけどさぁ。本当のトコロ…どうなん?星夜とは!」
千風が美兎に真相を突き止める。
「何言ってんのちーちゃん!!アイツはただの幼馴染だってば!!」
美兎はムキになって否定している。
「ムキになるとこ、怪しいよねー!」
ニヤニヤしながら千風は麗加に振った。
「二人お似合いだと思うけどね!」
「ちょ!!麗加まで!!」
怒る美兎に二人はあはは!と笑い声を上げた。
「ちーちゃんこそ!!丹波君にホレたでしょ!!」
美兎が仕返しに千風に振る。
「そうなの!?」
麗加は驚いて問う。
「エヘヘ…実はドストライクでさー!!一見悪そうに見えてめちゃ優しいし!!そのギャップにもうっ!!」
自分の知らない豪の姿を想像すると思わず笑いがこみ上げてくる。
仁や賢が知ったらどんな顔をするのだろうか…
「家じゃ絶対そんな顔見せないのに…」
麗加が思わず呟いた。
「麗加良いよね~!一緒に住んでんでしょ?まさか!!二人で!!!?」
それは聞いてないよ!?と千風が怖い顔をした。
「まさか!知り合いの人の所にお世話になってるんだよ」
いとこ同士とはいえ……と少し嫉妬している様子の千風だが、千風をなだめるように美兎が麗加に振る。
「麗加は邦鷹だもんねー!!」
そう言われると照れくさそうに俯いて微笑んだ。
「お!噂をすればーー!!」
千風が麗加の手をペンペン!と叩いて知らせる。
その時。
「え……?」
先ほどまで興奮していた千風の様子が急変した。
まるで信じられないものに遭遇したかのようにゾッとした面持ちになっている。
その原因の先に千風は目を向けた。
それは先ほど触れた麗加の手。
驚いてそのまま握り続けている。
「ちーちゃんどうしたの?」
美兎が異様な光景に心配している。
麗加も訳が分からずにキョトンとしていた。
「あ…、いや、ゴメン!麗加の手が……あまりにも冷たくて……ちょっと、ビックリしちゃった」
我に返った千風はパッと手を放す。
「手…?」
麗加は疑問に思い、自分の手を顔の前まで上げると裏と表を交互に見た。
美兎もそんな麗加の手に一瞬触れる。
「わっ…ホントだ!麗加って冷え性だったんだねー!」
千風とは違い、あまり驚いていない美兎がサラッと言った。
「うちのお母さんも冷え性でさー。びっくりするくらい冷たいんだよねー。まるで死人みた……あ」
美兎はNGワードだったという顔をして慌てて口を塞いだ。
家族を失った麗加の前で何て事を言ってしまったんだろうと反省しているようだ。
麗加は、気にしてないと笑って見せる。
「何か…ごめんね!」
変な空気にしてしまった事を詫びた千風は気持ちを切り替えるといつものテンションに戻る。
「ホラ!ホラホラ!愛しの邦鷹ちゃんと見なきゃ!!」
「うん!」
麗加は幸せそうに微笑みながら勇也の姿をずっと見ていた。
日が暮れるのもあっという間で、堪能した三人はそれぞれの帰路に着くことにする。
千風と美兎はSDでの通学の為、麗加とは既に別れていた。
「しっかしびっくりしたなぁ~」
ヘルメットを手にしながら千風が言う。
ヘルメットを装着しながら美兎は「何が?」と問う。
「いや、あんなに冷たいなんてさ…」
千風はずっと忘れられなかったのだ。
「ちーちゃん、冷え性とは無縁っぽいもんね。どっから見ても健康元気娘だし!」
アハッと笑って美兎が無邪気に言う。
確かに自分には無縁で、あんなにも驚く程とは思わなかった。
だけど………
そう思い自分の手のひらをじっと見た。
「なんか、まるで本当に…」
千風は一人そう呟くと、その先は言葉に詰まる。
「ちーちゃん帰ろー!」
既に準備を終え、SDを起動させて待っている美兎が叫んだ。
「あ、ゴメン!」
慌ててヘルメットを装着し、SDを起動させると千風と美兎は高度を上げその場を去った。