~14~
長い休学を経て、ようやく麗加が復学する時が来た。
相変わらずの真面目を保った制服の着こなしに、キリッとした面持ちが合っている。
「いってきます!」
麗加と豪は一緒に玄関に立ち、見送る仁に麗加は嬉しそうに振り返って声をかけ二人は外へ出た。
久しぶりの街の朝の光景に懐かしいような気分に少し浸った。
気が付くと豪は既に歩き出していた。
しかしその方向は麗加の思っている学校へとは反対の方角だ。
「ねぇ!」
麗加は慌てて豪を呼び止めた。
方向が違うのではと疑問を投げかる前に豪が答える。
「スカイシステムを使ったほうが早い。こっちだ」
豪は首で方向を示すと再び歩き出す。
「……あのっ!」
少し迷ったような仕草を見せ、麗加は豪をもう一度呼び止めた。
足を止め振り返る豪に麗加は語りかける。
「私…、本当はまだ自分の身に起きた事が理解しきれてないんだ…。もう、人間ではないんだろうけど、でも……それでも人間らしくいたい気持ちもあって。だから、必要ないときは出来るだけ……前みたいにいたい」
こんなことを言ってはダメだろうか?と不安そうに豪を見る。
うまく言えない様子だが、そんな麗加の気持ちを察した豪は「そうか」と一言だけ残し、一人人目のない路地へと入っていった。
麗加は少しホッとすると学校の方角へ歩き出す。
その後方からは猛スピードで上昇し、肉眼では見えない程の高度を飛行する豪があっという間に麗加を追い抜いて行った。
20分程歩くと学校が見えてくる。
久々の光景に思わず笑みがこぼれた。
門に近づくとそこには見慣れた二人の姿があった。
千風と美兎だ。
「麗加ーー!!!」
麗加の姿に気が付いた千風が大きく手を振って叫んだ。
麗加は小走りで二人の元へ向かった。
三人は再会を心から喜んだ。
久々の顔ぶれに笑が絶えない会話の中、教室へ入ると既に豪は席に座っていて静かに外を眺めている。
「丹波くーん!おっはよー!!」
いつもの事だと言わんばかりに千風が豪に声をかける。
「おはよ」
ニコッとしながら返す豪。
その様子を見た麗加の目が点になる。
そんな麗加の視線に気が付いた豪は気まずそうに顔を背けた。
豪も人間らしい部分は捨てていないのだと知ると、麗加は微笑ましく思った。
朝会の時間が近づくと、朝の部活を終えた勇也が教室へとやってくる。
「麗加!!そろそろ来る頃だよ!!」
千風にそう言われると麗加は落ち着きがなくなる。
教室に入ってきた勇也に気づき、麗加は恥ずかしそうに目を向けた。
麗加の姿に気づいた勇也も反応を示す。
「よう!暮内!!!久しぶりっ!!!!」
期待とは裏腹にその声は勇也の後ろからヒョイっと姿を現した星夜だった。
誰も求めていない人物だけに静まる女子三人。
「ちょっと!!アンタはいいのっ!!邪魔っ!」
星夜の頭をペンッ!と叩いて注意するのは美兎だ。
「何でだよー!あっっ!!美兎お前……ヤキモチ?!!エヘッ!」
「はぁ?!誰がアンタにヤキモチなんか妬くのよ!!」
そんな二人のやりとりに麗加、千風、勇也の三人は思わず笑う。
まるで夫婦漫才のような光景を笑って見ている千風の後ろに回り、麗加の元へ寄る勇也。
「おかえり!元気そうで安心したよ」
そこには大好きな笑顔を向けてくれる勇也がいる。
「ありがとう!」
嬉しさと恥ずかしさと、色々な感情が溢れる。
つかの間の幸せに浸る間もなく、朝会を知らせるチャイムが無情にも鳴り響く。
勇也は自分の席の方へと行ってしまった。
しかし、やっぱりこの時を迎えられて良かったと今は心一杯に感じるのであった。