~12~
キューーーーーン!
C-M2X型がゆっくりと目を開けた。
「おはよう」
仁が声をかけ、賢も寄る。
目の前にいる二人を不思議な様子で見た後、自分が目覚めたその部屋を見渡している。
「おはようございます・・・私なんでこんな所で寝てたんですか?」
そう言って驚く表情を見せた姿は今までのC-M2X型とは明らかに違った。
それは生前の麗加とほぼ同じと思える反応だ。
二人は本来の正常な姿で起動した「麗加」に安堵の表情で微笑みかけた。
「少しメンテナンスをしたよ。楽になっただろう?」
優しく語り掛ける賢だったが、とても人間に言うような台詞ではない。
「メンテ・・・?あ、そっか・・・」
麗加は何故メンテナンスを?と疑問を抱いた直後に自ら解決して苦笑した様子を見せた。
その表情からは複雑な心理だったのだろうと感じる。
そうプログラムによって自然に錯覚させたのだ。
賢はこれなら大丈夫だろうと納得した様子だ。
「明日一日様子を見て、問題なければ復学しても大丈夫だろう」
そう聞いた麗加は嬉しそうに笑みを浮かべた。
「もう行ってもいいですか?学校の準備もしたいので」
太陽のような明るい笑顔で問いかけてきた。
よっぽど嬉しいのだろう。
仁と賢は顔を見合わせると、賢がコクリと頷きそのOKの合図に仁が口を開く。
「少しでも何か感じたら直ぐに言って。あと、準備に足りないものとかも遠慮なく」
「はい!ありがとうございます!」
麗加は小走りでその場を後にした。
麗加の姿が見えなくなると、部屋の空気は一変する。
先程まで太陽の眼差しで明るかったのが嘘のようにそれは深まる闇のようだ。
「兄さん・・・彼女、麗加には、やっぱり戦わせてはいけない」
何かに怯えているような、重大な事に気づいたような賢の突然の発言に、仁は今ひとつ理解に苦しんだ。
「・・・俺には全部話せ」
仁が静かに告げると、しばらくの沈黙の後賢は辺りを見渡し他に誰の気配もない事を確認すると重い口を開いた。
「あのプログラムは、元々父さんが開発したものなんだ。だが、実用化には至っていなかった・・・いや、実用化してはいけなかったんだ。人間の思考を持つがクローンとは全く違う。サイボーグ化することで人間には不可能な能力を持ち、AIで自らの意思で行動する。豪とも、A-D2X型とも違う。彼女こそ・・・完全体の、サイボーグなんだ」
人間をサイボーグ化することは違法であることは知っているが、麗加は人間の能力をそのまま持ち合わせ作られたサイボーグであり、異例の存在なのである。
人間の脳にある記憶などをデータに起こす技術もまだ世間には公表されてはいない。
開発者である父、田神スンさえもそれは法を犯すよりも恐ろしく、科学のタブーだとしていた。
この事は研究に携わった賢しか知らない。
しかし、賢はこの技術がこれからの時代必ず必要になり役に立つと思っており、こっそりプログラムを所有していたのだ。
父の死を確信した今、父の技術を無駄にしないためにも活かす時だと、麗加の死の瞬間に決心したのだが・・・。
その時はまだ、父が恐ろしがっていた意味が分かっていなかった。
しかし、実際に完全体を目の当たりにして初めて理解した。
それは人類の終わりをも意味する程に大きい。
賢は一瞬で全てを悟っていたのだ。
「しかし・・・AIはあくまでプログラムに過ぎない。確かに、サイボーグ化を望んだのは彼女の意思だが、でもあの子は普通の女の子だ。守りたい人がいた。それ以前に、やはり生きたかっただけだろう?」
仁がそう言ったまさにその頃、部屋に戻った麗加は復学の為の準備に勤しんでいた。
壁にかけられた制服を眺め、親友達との再会を想像し笑みを浮かべる姿は普通の女の子だ。
「賢・・・」
黙り通す賢に声をかける。
「そうだよ。彼女は普通の女の子だ。だから、彼女に戦わせては駄目なんだ。豪も。・・・A-D2X型は存在させてはいけなかったんだ。僕等は造ってはいけない時代を造ってしまった。まだ間に合うかもしれない・・・手遅れにならないうちに何としてでも、A-D2X型は・・・僕の手で止めなければ・・・そして、彼女と豪の戦闘能力を省かなければ。せめて違法の存在ではなくして普通に暮らせれる様に」
その言葉には自分の命をかけているであろう意思が込められているように思える。
全て一人で・・・続けてそう言おうとする賢より先に言葉を発したのは仁だった。
「全く。変わってないな。お前はいつもそうだ。全て一人で抱え込もうとする。言っただろう?俺も力になると。お前・・・ずっとA-D2X型の手がかりを探っていてまともに眠ってないだろう。俺や真純ちゃんに迷惑をかけないようにな。そんなんではA-D2X型どころか、自分が先に身を滅ぼすぞ」
図星を突かれた賢は、少し肩の荷が下りたように強張った顔が緩んだ。
「ありがとう兄さん・・・少し考えすぎていたのかもしれない」
仁は賢の肩にそっと触れる。
「あぁ、疲れて判断力も鈍っているだろうし、少し休め。そして冷静に考えて行動に移していこう。俺に出来る事は何でも良い。言ってくれ」
賢はその後しばしの休息についた。
「丹波君!」
放課後、帰宅しようと廊下を歩く豪を呼び止める声がした。
「あっ」
振り返るとそこにいたのは須吾だった。
「帰るのかい?」
「あぁ・・・はい」
須吾はニコッと笑う。
「そうか、気をつけて!またな!」
「はい、さようなら」
豪は一度軽く会釈をし、その場を去って行く。
その姿を見届けた須吾が呟いた。
「ブラフマーは・・・彼か」
その意味深な言葉を他に耳にするものはまだいなかった。