~11~
朝会も通常通り終えると、1限目の始まるチャイムが鳴る。
鳴り終える頃教室の戸が開き、一人の男性が姿を現した。
彼の登場に待っていましたと言わんばかりに女生徒からは黄色い声が上がる。
「センセー!今日も良い男だねー!」
毎回お決まりの台詞がかけられると、彼はニッコリと笑顔で返すのだ。
彼が教壇に立つと号令がかかる。
「起立!礼!」
「皆おはよう!」
彼が元気良く生徒達に挨拶をした。
生徒達を見渡す彼の目がある一人の男子生徒に止まる。
見慣れないその顔をじっと見ている。
一瞬その表情は良くも悪くもない本人にしか分からない複雑さを持ったようだが、感付かれない程であった。
すぐに笑顔を向けたのは豪だった。
「君が編入生の丹波君だね。世界史の須吾です。よろしく!」
とても優しい笑みを向ける須吾に豪も一言返す。
「授業楽しみにしています」
そう言われると須吾はニッコリと嬉しそうに「ありがとう」と答えた。
その頃、田神総合病院の隠れた一室で賢はモニターの画面をじっと見つめていた。
C-M2X型が休止モードに入っている間に初めてのメンテナンスを行っている。
参照していたのはC-M2X型起動から今回休止するまでの間に起動したプログラムの一覧だった。
スクロールする画面があるところで止まる。
「やっぱりな」
賢は思った通りだと不具合を見つけた。
キーボードを素早く叩くと不具合を修正したようだ。
「これで良し!」
そう言うともう一度画面を確認し、うんうんと頷くと一旦その場を離れ仁の元へ移動した。
今は病院の方に出ている為そこには真純の姿はない。
「兄さん、やっぱり一つ上手く起動してないプログラムがあったよ。今その修正をかけた。休止の時間もズレが出ちゃってるから一度再起動して修正をかけるよ」
「そうか。ところで、起動していなかったプログラムってのは何なんだ?」
「うん、感情表出プログラムなんだけど、問題なく起動していれば麗加の自然な仕草、反応が出来る。これが起動してなかったからC-M2X型がわざわざ麗加のAIを検索してた。情を感じなかったのもそのせいだ。まぁ、感情を感じるかどうかってのもプログラムで錯覚させるだけなんだけど」
そう説明すると仁は複雑な表情をしたが、他に異常がないのなら良かったと再起動を了解する。
その前に、賢は今朝真純から言われた一言が気になっており仁にも話すことにした。
「真純ちゃんがさ、C-M2X型には感情があるって言うんだけど、兄さんはそう言うの何か感じた?」
心なしか深刻そうな顔をする賢に、何か重大なことでもあるのかと仁も真剣に考える。
「どちらかと言うと、感情があるとはとても思えないな。表情一つ変えずに機械的にしか話さなかった。寂しいなと思う程だ」
求めたかった回答が戻ってきたので賢は少しホッとする。
やはり真純が感じたと言う感情も、上手く起動していなかった感情表出プログラムがAIの検索過程で一部起動した事により見せたのだろう。
「そっか、なら良いんだ」
しかしどこか不安は隠せない。
そんな賢の様子を仁は見逃さない。
「もし・・・彼女の言ってることが正しかった場合、何が起こる?」
仁の問いに賢は動揺する。
「そんなこと、考えたくもないな。もし、そうなったら・・・人類の文明は終わる」
二人の間に沈黙が走った。
賢は再びメンテナンスを行っていたパソコンの前へと移動する。
「でも、やっぱりそれは不可能なんだ。だから起こりえない」
そう言うと賢はC-M2X型を再起動させた。