~09~
その時C-M2X型の様子に少し変化があったことに真純が気づく。
「分からない・・・」
ふとC-M2X型が呟いた。
うつむき、眉をひそめて、寂しそうな、不安そうな、そんな表情をした様に見えた。
それを真純は見逃さなかった。
C-M2X型は確実に心を持っていると確信した。
今まさに、C-M2X型は「分からない」と感じているのだ。
「今貴女が感じたその「分からない」と言う気持ち。それが「哀」よ。悲しい、辛い、不安。そう感じて貴女は寂しそうな表情をした」
「これが「分からない」と言うこと・・・「分からない」気持ち・・・」
C-M2X型は無くした心を取り戻しているかのようにその気持ちをかみ締めている。
そして目を閉じ、自分自身が感じることの出来た感情をその脳裏に記憶しているようだ。
「貴女にはちゃんと「心」はあるわ。まだ生まれたばかりだから分からないだけ。人間と同じよ」
しばらくその様子を見守っていた真純はC-M2X型の異変に気づく。
C-M2X型は一睡もしなかった為そのまま休止状態へと入ってしまったのだ。
コンピュータと同じように長時間の稼動は負担になる為、人間で言う「睡眠」は必要なのである。
真純はそのままC-M2X型を寝かせておき、書類の整理の続きを始めた。
「おはよ~」
両腕を大きく伸ばし大あくびをしながら現れたのは賢だ。
「おはよう賢さん。大きなあくびなんかして夜更かしでもしたのかしら?」
目に涙を溜め寝ぼけた顔の賢に真純がくすっと笑う。
「ん~~、A-D2X型の事でね~」
忘れてはならない存在だ。
真純の顔が少し強張った。
賢はあれからA-D2X型のデータの参照や解読を続けいている。
外観特徴はもちろん、どのようなプログラムやスペックを持っているのか完成品の詳しい情報は上層の一部の人間しか知る者がいなかった。
その人間達も今や生存しているのかも不明だ。
製造した自分の父親もおそらくもう生存はしていないだろう。
手がかりはこの残されたデータのみなのだ。
少しの間の後、真純はそっと「お疲れ様・・・」と賢に声をかけた。
思っても見ない所で眠るC-M2X型の姿に気づいた賢は唖然とした。
「何でこんなところで寝てるんだ?この子は」
その姿に真純は再びクスクスと笑う。
「彼女も夜更かししたみたい」
「休止がうまく動かなかったのかな?」
プログラムのエラーでも出たのかと心配する賢。
真純は手を止めC-M2X型を調べようとする賢の元へ寄る。
「賢さん、彼女は・・・「心」を持ってるわ」
「え・・・?」
賢は信じられないと言った顔をして真純を見た。
「彼女は、さっき「哀」の感情を表したの」
「・・・科学的に実体の無い人間の心を作るのは不可能だ。C-M2X型には豪のように脳をそのまま移植させてはいない。あくまでデータ化した情報しかない。プログラム的に感情を表せても自我を持つことは出来ない」
「理論上は・・ね」
真純がすかさず否定するように言う。
そして続けた。
「A-D2X型だって自我の目覚めで行動を起こしている一説があるのでしょう?この子にも考えられるはずよ。医学で解明できないこともあるように科学で解明できないこともあるのよ」
二人は眠り続けるC-M2X型を見つめた。
賢が腰に手を置きフッとため息を一つつく。
「とりあえず、起動してから少し日数も経つし一度メンテも必要かな・・・」
あくまで機械として扱うような言い方に真純は少し切なさを感じる。
この間まで生きていた普通の女の子だったのに、見た目だって変わっていないどこから見ても誰が見ても一人の女の子。
真純は複雑な気持ちを抱えた。