~07~
豪が少し間を置いて再び尋ねる。
「では、邦鷹勇也の事は覚えているか?」
C-M2X型はその名を聞き再び検索をする。
先ほどより少し時間がかかっていた。
沢山の情報があるのだろう。
しばらくするとC-M2X型の口が開く。
「邦鷹勇也・・・勇也君、カッコいい、優しい笑顔、綺麗な瞳、ドキドキする、側にいたい、会いたい、切ない、不安、助けたい、恥ずかしい、「私」の大好きな人・・・まだまだ沢山出てくる」
千風や美兎の時とは違い、溢れ出てくる感情と感覚にC-M2X型は少し混乱を覚えた。
麗加は勇也に恋をしていた。
その情報がC-M2X型には沢山詰まっている。
情報はあり、感情も理解出来るのだが、人間が感じる胸のドキドキやキュンと痛む感覚が分からない。
C-M2X型はしばらく黙り込んだ。
パソコンがデータを開く為のプログラムを検出しているかのように。
そしてそれは終結を迎える。
「邦鷹勇也に対する情報の解読不可能・・・感情表現に対する適切なプログラムがない」
頭の中の情報、感情と体の感覚がどうしても結びつかなかった。
例えば、ドキドキする、恥ずかしい、好き、と言う感情と共に本来なら心臓の鼓動が増す。
人間なら当たり前の事だが、C-M2X型にはそこが欠落していた。
表情が作れないのもそのせいだった。
勇也に関する情報に対しては特に表現が出来ない。
そして自身を人間だと思っていないのも大きい。
豪はC-M2X型に歩み寄る。
「混乱させて悪かった。お前にはそう、「心」がない。だが、心はプログラム出来るものでもない。自身が経験をし、身に付けるものだ」
C-M2X型は黙ったまま豪の目を見て聞いている。
「お前の中には麗加の情報がある。それを元にお前は「暮内麗加」になるんだ。「人間」になるんだ。少しずつでいい」
「「私」は「暮内麗加」。「私」は「人間」・・・」
豪はそれ以上話すのを止めた。
「明日も真純に色々と教わると良い。友人らが「麗加」を待っている」
そう言うと豪は部屋を後にする。
部屋に一人になったC-M2X型は溢れる麗加の気持ちの情報を整理し、言葉にする。
「もし、「私」が死んで蘇った時、「私」はもう人間ではないだろう。人間ではない「私」は、勇也君を守る資格があるのか。勇也君を好きでいられるのか。それは本当の「私」なのか・・・」
C-M2X型はまだ理解しきれない麗加の「心」をただ機能的に言葉にするしか出来なかった。