~06~
豪は校外に出ると、人目を避けながら移動し、誰もいない事を確認するとskysystemを作動させ帰路に着く。
「おかえり」
帰った豪を出迎えたのは仁だ。
「あぁ」
豪は一言だけ返した。
学校で見せた面影はすっかりなく、いつもの冷酷な目に戻っていた。
「どうだった?スクールライフは」
「フン!遊びに行ったわけではない」
冷たく放つ豪に仁は苦笑を浮かべた。
「そうだな・・・すまない」
「あいつは?」
仁の様子にお構い無しに豪が訊ねる。
「あぁ。異常反応は出ないし、身体的には問題はなさそうだから復学しても大丈夫だけど・・・」
どこか自信なさげに仁が答える。
「やはり、麗加の「心」そのものはインストール出来なかった」
その深刻な様子から麗加の人間性の欠落を思い知らされるのだった。
「あれはもはや「暮内麗加」とは違う。「暮内麗加」のデータをインストールされたサイボーグだ。あいつは俺に言った。「私ハモウ、人間デハナイ」とな」
仁は言葉に詰まり、黙ってしまう。
「だが、あいつを「暮内麗加」にするしかない。このままあの死を無駄にはしたくない。「麗加」の情報はまだ生きているからな」
日も落ち、オレンジ色の光が差し込む廊下に豪の姿があった。
訪れたのは麗加の部屋の扉の前。
コンコン!とテンポの速いノックを鳴らし豪は戸に手をかける。
「入るぞ」
少し間を置いたが返事がないのでそのまま戸を開けた。
部屋の中は夕日の差し込むわずかな光のみで薄暗かった。
ベッドに腰掛け、ただ一点をボーっと見つめじっとしてる麗加・・・の姿があった。
少しして豪の気配に麗加が反応をする。
ハッと振り返るというよりゆっくりと視線が合い、それはまるで静止中だったコンピュータが再び起動したような仕草だった。
それは麗加の姿をしたC-M2X型サイボーグでしかない。
C-M2X型が豪の方を振り向くと一言発する。
「豪。おかえりなさい」
その一言に豪は昨日の話し方とは随分の違いを感じた。
機械的さは消え、自然なイントネーションをしていたのだ。
「話し方は少しはマシになったか」
「真純さんに、教えてもらった」
少し学習していたC-M2X型であったが、相変わらず表情のないそれは、まだまだ人間性には欠けているのだった。
豪はフッとため息をついた。
「真純も指導がまだまだだ。とりあえず部屋が暗くなったら明かりを点ける。人間にはまだ程遠いな」
そう言って豪は部屋の明かりを点けた。
一気にパッと明るくなると、C-M2X型はその光に反応し天井の電灯を見上げる。
「お前、友人のことは覚えているか?」
豪が尋ねた。
「友人・・・?」
C-M2X型は視線を豪の方へ落とし、記憶のデータの検索を始めた。
それはほんの数秒で結果を出し再びC-M2X型が口を開いた。
「「私」には二人の親友がいる。千風、背が高くファッションセンスがあり、ダンスが得意でかっこいい女の子。美兎、小柄で色が白く、優しくて可愛らしい女の子。二人とも大切な存在」
C-M2X型の中にはそんな二人の情報が記憶されていた。